Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK |
| CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
君の隣で年越しを。

 高速を走る車内ではカーラジオから第九が流れる。運転席に座る従姉は「コレ聴くとやっぱ年末って感じするよねぇ」と笑う。

「たしかに」

 車窓を流れる景色をぼんやりと眺めながら彼女の言葉に同意をすれば「しっかし、わざわざ良く来るよね。トキ、忙しいんだから年末くらい家でゆっくりしてればよかったのに」と彼女は笑う。そんな言葉に「家に居ても親父に仕事押し付けられるのが関の山だからね」と返せば彼女も納得したように「あぁ……」と同情するような視線を送ってくるのだ。

「それに、浩介さんと長い期間一緒に居られるタイミングを俺が逃すわけないでしょう」

 そう言葉を重ねれば、彼女は「トキって本当に篠原センパイの事好きだよね」と笑うのだ。

 

 それから一時間ほど静音は車を走らせて、彼女自身や浩介さん、弟であるヴィンとそのパートナーである瀬波さんが住む街の中へと入っていく。そして見覚えのある道を車が走っていけば、彼の住む家が見えてくる。広い敷地に建てられた純日本風の平屋建て。垣根の切れ目には瓦屋根の重厚な門があり、その表札には墨痕鮮やかに瀬波と書かれている事を俺は知っている。そして、門の前には一つの人影が見えた。

「浩介さん!」

 車から降りれば、門の前に立つその人の名を声に出して呼びかける。俺の声に気付いた彼は小さく笑みを浮かべ、少し恥ずかしそうに「やぁ」と片手を上げてこちらにひらりと手を振るのだ。

「久々だな、っとぉ」

 彼が言葉を告げれなくなったのは、俺が彼にハグをしたからだ。「浩介さん、会いたかった」そんな言葉と共に彼の頬へキスをひとつ落とせば「お前……っ、そういうとこだけ外国人だよな!」そんな文句も軽く流して「大好きな人に会えて嬉しいんですよ」と思わず上がってしまう口角も隠さずに彼へと告げる。彼は顔を真っ赤にしながら「そりゃぁ俺も嬉しいけどな! それとこれとは……!」と俺の腕の中でもがくのだ。

「会えて嬉しいのはわかるけどさ、門前でいつまでいちゃついてんの?」

 そんな逢瀬に至極楽しそうな声色で水を差すのは弟であるヴィンだ。ニヤニヤしながら半纏を羽織りサンダル履きで門の中から顔を出していた。そんなヴィンの声に浩介さんは肩を震わせたと思えば、ものすごい力で俺を押し返し腕の中から逃げ出すのだ。

「やーい逃げられた」

「誰のせいだよ、誰の」

 揶揄うトーンのヴィンの声に俺は彼の頭をわしゃりと撫でながら突っ込む。そんな俺と彼の会話に恐る恐る浩介さんは「いつから見てたんだ」と訊ねるのだ。

「いつからって、そりゃぁ車の音が聞こえてきてからすぐ出たから最初からだよね」

 そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにとケラケラ笑うヴィンに「お前ら兄弟はいっつも……!」と真っ赤な顔で頭を抱えるのだ。

「コースケ諦めなって、どうせそんな事やってても兄貴には可愛く見えちゃうんだから」

「そうそう、可愛い可愛い」

 そんな俺たちの言葉に彼は「こんなおっさん捕まえてかわいいとかお前らもうなんなんだよ!」と吼えるのだ。

 

「で、そこのご両人とヴィンはいつウチに入ってくるんだ?」

「駿馬! いつから……!」

 ヴィンと色違いの半纏を羽織り着流し姿で下駄をカラコロ鳴らして門から顔を出すのはヴィンのパートナーであり、この家の家主の瀬波さんである。悲鳴のような浩介さんの声に瀬波さんは笑いながら「静音がウチ入ってきてからも他の奴らが戻ってこないから様子見に来ただけだよ。静音も紫苑も待ちくたびれてるぞ」と背を向けて再び下駄を鳴らしながら母屋へと続く石畳を戻っていく。

「ま、ずっとここでギャーギャーやってても寒いだけだしね」

 そんな言葉を残してヴィンも門を潜り母屋への道を進んで行くのだ。そんなヴィンの後ろ姿を見送りながら「じゃ、俺らも行こうか」と浩介さんは未だ恥ずかしそうに俺の腕を引っ張るのだ。



――――――――――――――――――――



年末のトキササのいちゃつきが書きたかったんです




| 22:47 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
光の輝きをきみと。

「お待たせしました!」
 イルミネーションの光が輝く中を息せき切って走って来る彼に、「ゆっくりでよかったのに」と告げれば彼は上がった息を整えながらも「少しでも早く会いたかったんで」と屈託のない笑みを輝かせるのだ。それは、この街のイルミネーションのどの電飾よりも輝いているように見えた。
 
 何故、こんな事になっているのかを説明するには少し時間を遡らなければならない。とある切っ掛けで交際をしていた俺と大学生であるユウキくんはクリスマスから年始にかけてとんでもなく忙しかった。どちらかと言えば、主に俺が。この時期はクリスマスだ大晦日だと至る所から仕事が舞い込んでくるのだ。それを事前に彼に伝えれば「俺も学校が休みに入ったらまた帰省しないとなんですよ」と少しほっとしたような、悔しいような顔で彼は答えた。何でも長らく内縁関係だった彼の母とそのパートナーが結婚をした上、そのパートナーの息子――ユウキくんにとっては義理の兄の夫婦に子供が生まていたのだそうで。「流石に帰らないと母親はともかく圭兄……義理の兄がうるさいンで」と苦笑交じりで、しかし満更でもなさそうに彼は言葉を重ねた。そんな彼はお土産沢山買ってきますと言い、大学が休みに入ったその日の夜に彼の家族が住む北の大地へと飛んで行ったのだ。俺は彼へジンギスカンキャラメルだけは買ってこない様にと厳命した。
 
 ――それが数日前の話。そして昨日、予期せぬ出来事が起きたのだ。
「南海君ごめん!」
 出社をして第一声、先輩でもある勤め先の社長が俺の姿を見るや否や両手をパチンと合わせて叫ぶ。いつも穏やかな彼にしては珍しいその慌て切ったその姿に何が起こったのかと身構えれば彼は「あのバカがやりやがって」と言葉を続ける。彼がこの会社でバカと呼ぶ相手は一人しかいない。彼の右腕であり、この工房の一番の腕利きであり、俺の先輩でもある副社長で。何があったのかと更に身構えれば「風邪薬で耳やられたと。この年末年始はアイツは使い物にならないと思ってくれていい」との言葉。確か、何かの薬の副作用で聴覚異常が出る薬があったのだったか。そしてその現実を突きつけられて背筋が凍る。
「ってことは、副社長が出る筈だった依頼は……」
「他の所に振れる奴は振った。昨日の夜にアイツがすぐ気づいたのが不幸中の幸いだな……でも、一つだけ他に振れない得意先があってな……事情を話して仕方がないとは言ってくれたんだが、南海君を指名してきたんだ」
 言い難そうにそう告げた社長に、成程出社第一声の謝罪はそういう事か。「いつ、どこの依頼ですか」そう問えば彼が答えるのは北の大地の百九十万都市。しかも明日。そしてその指名をしてきた顧客はこの工房の得意先でもある著名なピアニストであった。元々副社長が日帰りで行くという予定だったのが、今回こんな事になってしまったから、と少しだけ余裕をくれて1泊の日程を組んでくれた。航空券も取れたというのだから社長の手の回し方の速さが伺える。しかも仕事が終わればゆっくり観光しても良いというお達し付きで。その日は自分に割り振られた仕事を片付け、急いで家に帰り一泊二日の荷造りを簡単にし、恐らく早朝便しか取れなかったのだろう。翌朝の早朝便に間に合うように今夜のうちに家を出た。
 
 そんな慌ただしく北の大地に降り立った俺は、目的の市に着いてすぐに自分の服装を後悔した。主に靴の裏を。寒いのは分かり切っていたからコートもマフラーも手袋も準備してきていたが、靴の裏までは考えていなかった。いつも履いている革靴をそのまま履いてきたもんだから、とんでもなく滑る。急いで近くの店で着脱式のすべり止めを買って、市内のコンサートホールに向かう。旅の荷物もそのままに、今日のコンサートで使うピアノの調律をこなして仕事を終えればあとは自由時間だ。チェックイン時間にはまだ早い時間、ホテル近くの喫茶店でふと思う。そういえば、ユウキくんはこの市内に住んでいたのだったか。少しだけ悪戯心が芽生えた俺はある事を心の中でだけひっそりと決めた。その決意を胸に、チェックイン時刻になったホテルへ向かい、すこしだけ休憩してから日が落ちはじめ、光り輝き始めた街中へと繰り出したのだ。
 その悪戯は、結果的には大成功だったようで、その悪戯のメールを送った次の瞬間には俺の携帯が鳴る。画面にはユウキくんの名前が点灯して、笑いを噛み殺しながら「もしもし」と出れば「そこから動かないでください!」と悲鳴のような叫び声が飛んでくるのだ。そして、今に至る。
 
「ホント、驚いたんデスよ? 『今どこにいると思う?』って言ってテレビ塔の写真送ってくるんですもん」
「ごめんね、昨日急遽出張が決まってついでに一泊して良いって言われてさ」
 恨みがましく視線を送る彼に、今回の悪戯の原因を話して聞かせれば彼は「あちゃー」とでも言いたいような表情になる。「で、仕事も終わったし落ち着いて考えたらそう言えばユウキくんもこっちに来てたんだよなって思ってつい、ね」そう言葉を重ねれば、彼は柔らかく表情を崩して「そんな風に思ってもらえて嬉しいです」と微笑むのだ。
「それに、ここのイルミネーションは明後日、クリスマスマーケットは明日までなんですよ。南海さんと一緒に見れて良かった」
 素直にそんな事を言う青年に、胸がこそばゆくなる。
「そうだね、俺もユウキくんと見れて良かった」
 愛の言葉は恥ずかしくて囁けない。だから、今夜はこれで許してもらいたい。そんな気持ちを込めながら、俺は彼にそう告げたのだ。

 

 

——————————————————

 

 

PianoForte.も本編出したし、そろそろくっ付いたあとの二人の直接的な話を書いても良いかなって。

結城と南海ちゃんがサッポロシティーのイルミネーション見るネタは6年程温めてたので満を持して感がすごい。

 

 

| 18:31 | Pianoforte. | comments(0) | - | posted by 狭山 |
或いは其れが幸せな日々

​ボクらは宇宙へ続く扉がある街で暮らしている。

 

或いは其れが幸せな日々

 

​「おはよー」
「珍しいな、いつも遅刻ギリギリなのに」
北の大地に作られた広大な敷地を持つ国際宇宙港。その宇宙港に隣接しているのがボクたちが通う国際航空宇宙学院日本校で。いつもホームルームが始まる直前もしくは悠々と遅刻で教室に辿り着くボクは、珍しく余裕を持って教室に入り、見知った友人へと声をかける。机に備え付けの端末を弄りながらのんびりと声を掛けてくる。
「ちょっと面白い情報見つけてね」
昨夜暇つぶしに学校のシステムに侵入したという事は割愛して、ボクは自分の席に座りながらボクの後ろの席に座る友人へ端末越しに「今日、うちのクラスに編入生が来るんだって」と告げる。
「編入生? 普通高校も工業でもうちのカリキュラムと互換性ないのに?」
彼は首を傾げながら疑問を口にする。そう、ボクらが通う高校は宇宙開発に携わる人材を育成することを目的とした学校であり、世界に数拠点あるうちのひとつである。日本の普通教育のカリキュラムとも国際的な高等学校的カリキュラムとも異なる専門教育校で、普通の授業科目は基本的に通信で受けていたり、高卒認定試験をパスするような学校だ。しかも、うちのクラスはそんな中で最も偏差値が高く少人数制の技術者養成コースだ。
「何かね、今までの授業内容をまとめた編入試験で割と点取ったみたいだよ。独学でならすごいよねぇ」
彼の疑問の回答も見つけていたボクは簡単にそう返して笑う。そこまで話したボクに彼は「またハッキングしたろ」と声を潜めため息交じりにボクへ言葉を返す。

「で、ここからが本題なんだけど」
彼の説教が始まる前に無理やり話題を変えるために言葉を挟む「その編入生の名前がタカツカサシュンメなんだよね」と。彼にその名を告げれば、彼はガタリと椅子を鳴らし腰を上げる。そんな物音に他のクラスメイト達は彼へと視線を向ける。そんな彼らに「なんでもないよ」と笑って見せれば、彼らはボクから目を反らし各々がしていた作業や談笑に戻るのだ。基本的にクラスメイト達はボクに関わり合いたくないらしい。このクラスでボクが普通に話す相手は後ろの席に座る友人である篠原浩介くらいだ。
「タカツカサシュンメ、って高師議員の」
「字はそうだったねー」
「駿馬なのか」
「字はそうだった。それに、今までの事を考えればシュンメが来たっておかしくない」
とりあえず、座れば? と彼に告げれば腰を浮かせたままの姿勢を取っていたコースケはゆっくりと椅子に腰を下ろす。ボクらは他の人々よりも少しだけ因縁が深いのだ。こんな事を言ったら更に頭がおかしいと思われることは分かっているから言わないけれど、ボクも、コースケも、何度も何度も同じ人間として生きる事を繰り返していたのだ。宇宙に焦がれた一人の男を生かす為に。この世界に生を受ける前の世界で、やっと男の夢を叶えたと思ったら今回の世界では今までずっと年上で保護者のような存在だったコースケに同じ学年の同じクラスの同級生として再会した。それが去年の入学式の事だった。そうなれば、ボクが何度出逢っても愛し、そして見送っていた年上の彼が同級生になっていたとしてもおかしくはない。コースケの「なんだって、こんな」という掠れるような呟きに何か声を掛けようとした所で、担任が教室に入って来る。

「編入生だ。彼には今までの授業を元にした編入試験をパスしてもらっている。授業は特に戻ったりはしないからそのつもりで」
担任が明けたままの扉の外へ目配せすれば、一人の青年が教室に足を踏み入れる。その姿は泣きそうになるくらい懐かしく、愛しいその人の姿によく似ていた。何度も前の世界で見せてもらった、彼の若い頃の写真と同じ顔をした彼はしかし、ボクが知っている彼とは違う表情を浮かべていた。

「高師駿馬です。よろしくお願いします」

それだけを端的に言った彼は、ボクを見る事もなく担任が指示した席――ボクの隣に座る。連絡事項をいくつか告げた担任が教室を去り、一限が始まる前の短い時間で他のクラスメイトに先んじて彼へと手のひらを差し出す。
「ボクはヴィンツェンツ・フェルマー、よろしくね」
出来る限りにっこりと、愛想よく笑みを浮かべて彼へ声を投げたボクを一瞥した彼は、「仲良しごっこをしに来たわけじゃない」とボクから視線を外す。そうしてボクは知るのだ。彼は『駿馬』ではあるけれど、『シュンメ』ではない事に。

「ヴィン……大丈夫か」
ひそひそと気遣わしげにボクに声を掛けるコースケに精一杯の笑顔を浮かべながら「ダイジョーブ」と小さく返す。それが、この世界のボクと駿馬の出会いであるだけで。彼がこの世界に生きているだけで、ボクは幸せになれるのだから。

 

 

——————————————————

 

学パロササセナヴィンもとい廻る世界の最後の世界。

この世界のセナヴィン(タカヴィン?)はここから20年越えの片想いもしくは両片想い期間が始まります(長い)

 

 

| 21:27 | パロ系 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Let's look at the new world ! : 16

 モラトリアムは無限ではない。それは終わりを迎えるべくして存在している期間だ。今日、私は現実へと戻らなければいけない。
 
「ごめんね、送っていけなくて」
 電話の向こうでサトシさんは申し訳なさそうな声で私へと謝り続ける。そもそも、宿を提供してもらえただけで儲けもんなのだ、彼へ「気にしないでよ。セナくんとヴィンが送ってくれるっていうし、何故かサトシさんの彼氏も居るけど」と告げれば「まだ諦めてなかったんだ」と笑みを含んだ声が返って来る。まだ諦めていなかった、というのは恐らく私へのヘッドハンティングだろう。何度断っても彼は私に「一緒に働こう」と壊れたオーディオのように告げ続けるのだ。呆れを通り越していっそ関心するくらいに。
「あ、鍵はエルマーに預けてくれればいいから」
 サトシさんの思い出したかのように告げられた言葉に「わかった」と答え、電話は途切れるのだ。彼は時折日本に来るし、一生会えなくなる訳ではないだろう。少しだけ感傷的になっていれば、ドアベルを鳴らす音が居間に響く。
「はーいよ」
 元々半分程度空にして持ってきたスーツケースは、国内移動分の衣服と土産物に占められている。増えた服や自分用に買った雑貨は昨日のうちにエコノミー航空便にぶち込んだ。どうせこの後すぐに仕事をする訳でもない。正直に言おう、仕事を辞めた後にハローワークすら行っていない。辛うじて年金と保険と住民票の手続きだけはした。そんな現実を思い出し思わず家のドアを開けながらため息が漏れる。
「人の顔見てため息つかないでよね」
 ドアを開けてすぐに視線が交わったのは一番前に居て、私と背丈も殆ど変わらないヴィン。その後ろにはエルマーと雨宮さんが並び、停めてあるトゥアレグの運転席ではセナくんがこちらへと手を振っていた。
「荷物これだけ?」
 ヴィンの問いに頷き、「他の荷物はSALで送った」と重ねる。そんな私の回答に三人の男はナルホドと頷くのだ。
「ていうか、何故に雨宮さんまで?」
 ふと浮かんだ疑問を口に出しながら家の鍵を掛ければ、彼は「俺は出張。偶然にも同じ便でね」と笑う。
「そういう事ね、あ、エルマー。ハイ」
 日本語のまま雨宮さんの言葉に頷き、エルマーへこの家の鍵を渡す。名前を呼ばれた事は分かったらしい彼は私が差し出した鍵を受け取る。
 途切れ途切れのドイツ語で「サトシさんに渡してくれ」とエルマーへ鍵の処遇を告げれば、口端を上げて笑い、私の頭をくしゃりと撫でる。ぺらぺらと早口のドイツ語を投げかけられてもそれを聞き取れるほどの耳は装備していない。ヴィンに視線を投げれば「いつものヘッドハンティング」と笑いながら告げられる。
「だから断るって言ってるだろう」
 英語でもドイツ語でもなく、日本語で飛び出したその言葉はヴィンにより訳される。玄関前でそんな会話を交わしていれば、「そろそろ行くぞ」と車の中からセナくんが声を掛けるのだ。
 
 車で40分程度の場所にあるその国際空港に車は滑り込んでいく。この空港に来るのも2回目か、と何とも言えない気持ちに息苦しさを感じた。この場所に到着した時とは真逆の、私を待つ現実との対面を控えているせいだ。これから半日以上の空の旅を経て、私は日本に戻らなければいけない。それがどうしても嫌だといって、エルマーの申し出を受け入れる事はしたくはない。そうなればもう、私には帰るしか道は残されていないのだ。
「また、いつでもおいでな」
 荷物を預け終わった私にセナくんはそう言って笑う。そんな隣でヴィンが「今度はボクらがあそびに行くよ!」と笑みを深めて告げるのだ。
「メールするからちゃんと返してよね」
 そんな言葉を重ねるヴィンに「わかってるよ」と返せば、「よろしい」と宗教画の天使のようなうつくしい笑みを浮かべるのだ。
 
「あ、そろそろ行かないとマズいな」
 雨宮さんの声で、私たちは惜しんでいた最後の別れを済ませるのだ。男三人と次々にハグを交わし、彼らの視線を背中で受け止め、雨宮さんの隣を歩く。
 
 こうして私の長く短いモラトリアムは終わりを告げ、現実が待つ日本へと向かう飛行機に乗り込んだのだ。

 

 

——————————————————

 

 

Let's look at the new world! はいったんこれにて完結。

やっと28歳笹野が日本に戻るのでこの後の出来事を書けますね。

 

本筋で書き逃してる小ネタは今後番外編で少しづつ。

 

| 22:52 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Let's look at the new world ! : 15

 旅が終わる時というのは、何故こうも感傷的になってしまうんだろう。どうにもセンチメンタルな気分が抜けないままに、私は星空を眺めていた。
「――よし、これであとはコイツに撮り続けてもらうだけ」
 
 首都から車で二時間もかからない場筈なのに、所にあるそこは、街を抜け、連邦道路と呼ばれる幹線道路を走り続けた所にある場所だった。夕飯を何にするかという話をしていたセナくんが唐突に「星を見に行く!」と宣言してからの行動が早かった。ソファに寝転がり何かの論文を読んでいたヴィンがその冊子を投げ出してソファから飛び起き、部屋へと走り出す。セナくんはセナくんで宣言した後にそのまま呆然とする私を残して部屋へと向かうのだ。
「ほら、リツも出掛ける準備して。ジャンバーはヴィンのでいいか」
 奥から声を掛けられた私はやっと、出掛ける準備をするべくその場を離れたのだ。そして、今に至る。
 
 自然公園の中にある、星空保護区と呼ばれているらしいその場所に着くやいなやセナくんは家から持ってきていた三脚とカメラをセッティングし、ヴィンはヴィンで手慣れた手つきでセナくんが運転してきたトゥアレグのバックドアを開けそのままトランクに腰かけてアウトドア用の簡易ガスコンロでポットに入れたミネラルウォーターを沸かす。ヴィンの隣でヴィンから借りたマウンテンジャケットを羽織り、トランクに腰かけていた私は、そんな二人を見ながら、きっとこの二人はこうやって星を見に行くことも多いのだろうとぼんやりと思う。結局は三人でいた所で二人と一人。私はあと数日もすればこの国を去るし、そうなればきっともうこの二人と逢う事もないのだろう、と。頭上に広がる満点の星空を見る事もせずに、そんな事を考えていれば視線を感じた。その視線の元は隣に座っていたヴィンで。
「つまんなかった?」
 首を傾げながらそんな事を私に問うヴィンに、「そんな事はない。ちょっとセンチメンタルになっただけでね」と笑って見せてトランクから腰を上げる。カメラの設定を追えたらしいセナくんは、減光モードにしたスマートフォンを星空に掲げ、現実の星空と画面の中の星空をリンクさせるように空を見つめている。
「星の写真って難しそうだなって思ってたけど、こんな感じなんだ」
 カシャンカシャンと自動的にシャッターを切り続けるカメラを見ながらセナくんに声を掛ければ、「撮るだけなら設定ちゃんとやれば撮れるよ。もうほとんどオートだからさ。あとは構図と、撮る星をどうするかが腕の見せ所ってな」と口端を上げて少年のような笑みを見せる。
「へぇ、私も今度やってみようかな」
「やってみなよ。よくある星が線状になってるのはこうやって何百枚も写真撮ったのを合成するんだ。比較明合成って言うんだけど」
 私の言葉にセナくんはそう言って笑みを深める。「ひかくめいごうせい?」と私が首を傾げれば、「そ、コンポジット撮影とも言うのかな。何枚も写真を撮って明るいのだけ合成してくヤツ。帰ったらこれも合成してみようか」と解説を入れてくれる。西北の方向に向けられたカメラは北斗七星と北極星が光り、左側には天野川が煌く。立っている国が変わっても、輝く星が描く物語は変わらない。デネブ、ベガ、アルタイルが結ぶ三角形位であれば今でも何も見ず、その星空に線を描くことが出来る。
「星図アプリ使うか? 車の中に早見盤もあるけど」
「んー、早見盤にしようかな。あのアナログなのが好き」
 私の答えを聞いたセナくんが「ヴィン! 早見盤もってこっち来いよ」と車に居るヴィンに声を掛ける。「お湯沸いたからコーヒー淹れたら行くよ! リツはコーヒーでいい? 紅茶もあるけど」そんなヴィンの返答に「紅茶でお願い!」と私は返す。
 
「お待たせ」
 ステンレス製のマグを三つと紙製の早見盤を持ったヴィンがセナくんを挟むようにして隣に立つ。「こっちがシュンメので、こっちがリツの」とそれぞれにマグを渡し、私には早見盤を寄越す。私は片手にマグ、もう片方の手に早見盤を持ち、片手でその円盤を回した。隣ではセナくんが赤いセロハンを貼って減光させているライトで私の手元を照らす。
「手つきが慣れてるよな」
 感心するような声色でセナくんはそんな事を呟く。「昔天文指導員のボランティアしてたから」と返せば「やっぱり好きなんだな、星」と笑い声が滲んだ声を投げられる。
「そりゃぁ好きだよ。数字さえ愛せたら私も理系に進んでたんだけどねぇ」
 そう言えば、「そうなってたら、もっと早く会ってたかもしれないな」とセナくんは笑い、「でも、今会えたんだからいいじゃん」とヴィンも笑う。
 
 私の旅も、もうすぐ終わる。そんな感傷を孕んだ笑みを見せる事しか、私に出来る事は無かった。

 

 

——————————————————

 

星を見るセナヴィンと笹野が書きたかったのと星の写真を撮らせたかったのだ。

本日はセナさんの誕生日です記念。

 

 

| 20:52 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
<< | 2/27 | >>