Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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Let's look at the new world ! : 10

 
久々に遊びに来たその場所で繰り広げられていたのは格闘技だった。
一般人も来るようなピクニック用の芝生の上で真剣な面持ちで殴る蹴るの応酬をし合う片割れは見知った顔だけれど、もう片方は新顔なのだろうか、初めて見る顔で。格闘をしている二人の周りにはやっぱり見知った顔が点在していて、その緊迫感のない格闘技観戦のようなギャラリーに緊急性は無いし、訓練か何かかな。と一人納得する。そうしてギャラリーの一人、背の高い男の元へと足を向けるのだ。

「久しぶり」
「おー、紫苑か。珍しいな」
観戦をしてた彼は俺に視線を向ける。最初にあった頃こそある程度見上げなければいけなかった顔は、今や普通にしていても見える位置にある。
「っていうか何やってんの。空手観戦?」
ギャラリーが一人増えた所で多分気付いていない格闘中の二人を指さし隣に立つ彼に問う。彼の更に向こう隣りに居た見知った顔がひょっこりと顔を出して「どっちかっていうと異種格闘技戦だよー良い所に来たね、シオン」と笑顔を浮かべる。
「良い所に来たって呼んだのヴィンじゃん。会わせたいコが居るからちょっと来てよーって」
「そうそう、パリに旅行行くって言ってたから折角だから会わせたいなって」
「全く話が見えないんだけど」
にこにこと笑うヴィンの話が全く理解できなくて、補足説明を求めようと隣の男に視線を投げる。
「あの戦ってるのの黒髪の方な、サトシさんの姪っ子なんだ。放浪の旅の最中」
「姪っ子!?」
キレの良い蹴りを繰り出し、武闘派であるエルマーの攻撃を躱したり受け流す相手をもう一度見る。男だと思っていた。
「そ。で、ノービザ期限いっぱいか金が尽きるまでブラブラ遊ぶって言ってたし、パリに行くって言ってたからシオンが案内したら良いんじゃないかって」
「勝手に決めないでよね……まぁ良いけど」
そんな話をしていれば、彼女は相手の腕を取り思いっきりぶん投げていた。それは見事な一本背負いで。投げ飛ばしたあとに呆然と芝生に転がっていた彼に手を差し伸べた彼女は、すごい勢いで立ち上がった彼にその手を両手で握りしめられて彼から言葉を捲し立てられる。そんな彼の勢いに彼女は「は、えっ?」なんて目を白黒させたと思えば日本語で「通訳を寄越せ!」と叫ぶのだ。

「エルマー興奮しすぎ、っていうか葎花ちゃん何でそんな強いの」
と笑いながらその二人に歩み寄るのは久慈さんだ。
「昔拳法習ってた時一本背負いにハマって?」と笑う。その声は確かに少し低めではあるけれど女性のそれで。そしてエルマーさんは再度久慈さんとその姪さんに向かってドイツ語で喚く。要約すれば「此処で働かないか」だ。
「スピーク、イン、イングリッシュ」
圧をかけるようにエルマーさんに言葉を投げる彼女に、彼はにっこりと笑って彼女にわかるようにだろうか、ゆっくりと「Please work here.」と話す。
「プリーズワークヒア……ってここで働こうぜ!的な?」
口元を引き攣らせて久慈さんに問う彼女に、久慈さんも苦笑しながら「そういうこと」と答える。
その解答を聴いた彼女もにっこり笑って「But I decline」と答えるのだ。

その一連のやり取りを見ていた僕らは思わず吹き出して、その反応に気付いた彼女はエルマーさんの手から片手を抜き出して僕らの元へと足を向ける。小柄だなとは思っていたけれど、ヴィンと同じくらいかもう少し低い身長の彼女は僕の隣と向こう隣りに立つ知り合いなのだろう彼らに「通訳しに来てくれれば良かったのに。サトシさんニコニコ笑ってるだけで通訳してくれないしさ」と声を掛ける。
「いやー面白いもの見せてもらったよ。エルマーがあんなにテンション上がるの久々に見た」
「セナくんは面白がってるだけでしょう。あ、ヴィンまで笑いやがるか」
ケラケラと笑う二人に少しだけ拗ねるような反応を見せていた彼女を観察していれば、僕の視線を感じたのか、彼女は僕の隣に居る男に声を掛ける。
「で、セナくん。この人は?」
彼女に僕の事を訊かれれば、彼は少し悩んで「俺の息子?」と答える。
「ちょっと、いい加減息子に疑問符付けるの辞めてくれる?」
「未だに息子という実感が無くてなー」
「あと数年で会って10年位経つんだからそろそろ実感してよ」
そんな僕と彼の会話に首を傾げる彼女に注釈すべくヴィンが「前に話したトキのジューセーってやつだよ!」と声を投げる。その解答に彼女もナルホド、と言い「セナくん、お父さん?にはお世話になってます。笹野葎花です」と会釈をする。
逆に「ジューセー」の言葉を自分の持つ語彙に当て嵌めれなかった僕と駿馬が眉根を寄せれば「従甥。従う甥っ子。いとこ甥」と彼女はポンポンと単語を上げる。確かに母親である静音とヴィンの言うトキは従姉弟関係だから間違っていない。今度は僕らがナルホド。と頷くのだ。
「紫苑もリツも今夜はウチで飯食ってくだろ?」
折角だからあいつらも誘うかね。と僕と笹野さんの答えも聞かずに彼らはまだその芝生でわいわいやっていた残りのギャラリーに声を掛けるべく歩いて行くのだ。

「あ、雨宮紫苑です。よろしく、笹野さん」
「あ、こちらこそ」

そうして僕らはようやく握手を交わすのだ。
 

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紫苑くんと笹野の邂逅。武闘派笹野極まれり。

 

 

| 18:06 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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