Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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Let's look at the new world ! : 08

 

「お前、仕事辞めたんだって?」

唐突に震えだした携帯の着信を取れば開口一番に笑いながら話し出す電話先の相手。そういえばコイツには話していなかったな。なんて思いながら「うん、やめた」と返せば「俺に話してくれたっていいだろー」と電話口の向こうで笑う。
「ていうか、武将、誰から聞いたの、ソレ」
私が仕事を辞めてから、もう一月以上は経過している。変なタイミングだな、なんて思いながらそう問えば「カイシューから」との回答。電話の奥で「海舟って呼ぶなつってんだろ」という突っ込みまでついてくる。
「あー、海舟と一緒なの?」
燦々と降り注ぐ強い陽の光に目を細めながらそう確かめれば、答えはイエス。
「今店で飲んでんだ。笹野も来るか?」
続けられた言葉に、眼前の教会を眺めながら思わずああー、と声が漏れる。「無理だわ、また今度な」
私の回答に「あ、もしかして金ないヤツか?脱獄祝いに奢ってやるぞ?」と男は重ねる。
脱獄祝いって何だよ。思わず喉で笑った私は「そうじゃない」と答え、「今バルセロナなんだ」と彼らの元へ向かえない物理的な理由を答える。
「ばるせろなぁ!?」思わず叫んでしまった、とでも言いたいようなその間の抜けた声に呼応するように、おそらく海舟とリサであろう声がごにょごにょと奥で聞こえてくる。大方私は一体何をしているんだというような言葉だろうから奥から聞こえてくる声には注意を払わず「そう、バルセロナ」とだけ答え、何となく面白くなってきて「今はサグラダファミリアの前に居るけど?」と重ねる。
「サグラダ……いやまぁ、バルセロナ行くなら行くだろうけど、いやそうじゃない。笹野お前さぁ……」
呆れかえった声色の武将に「私の性格なんて昔っから知ってるだろ」と笑う。
「そーね、留学した時もお前何も言わず行ったから大学辞めたかと思ったもんな」
「そんなこともあったねぇ……って事で、コレ、国際通話扱いで着信も金かかるからそろそろ切るよ?」
「おお、そうか。そうだよな。いつ帰ってくるんだ?」
私の言葉に渋々納得し、帰国を問う彼に「長くてもあと三ヶ月弱だな、ヨーロッパふらふらして資金が尽きたら帰るよ。そのときまた連絡する」
「お土産楽しみにしてるぜ」
「おー、リクエストあったらメールして。ショートメールかラインな。海舟とリサにも伝えといて」
「りょーかい、じゃぁ、楽しい無職旅行を」
「一言余計だよ」
そう返してやれば、通話は切れる。携帯を鞄に戻して眼前に聳える教会を見上げる。百年以上も建設し続けられたその教会の荘厳さに思わず居住まいも正されるようなその美しさに圧倒されながらも、内部の見学のために足を踏み出そうとすれば、小さく震える携帯の振動が鞄から伝わる。
「あいつら早すぎだろ」
携帯を震わせた正体は、さっきまで電話をしていた相手と、その場に居合わせていたのであろう数人からのショートメール。各々があれを買ってこいそれを買ってこいと自由気ままなリクエストを寄越してきて、思わず笑いがこぼれた。

きっと、私が帰るべき場所はそこにある。

メールには返信せず、今度こそその教会の中へ向かう為に足を踏み出せば、脳裏に浮かぶのは実家の近所に住んでいた兄貴分。そういえば彼もバックパッカーをしていたんだっけか、と。ヨーロッパに行っていたかどうかまでは思い出せないけれど、久しぶりに連絡してみようか、なんて。自分にしては珍しく、疎遠になった人と連絡を取りたくなったのも、きっとこの国の太陽と彼らのせいだ。

 

 

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留学してたら大学辞められたと思われたのも、私が海外に行ってる事を知らずに携帯に電話かけてきた子が居て驚かれたのも実話だったりする。

携帯だとそのままの番号で電話繋がるから、ホラ。

 

 

| 23:25 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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