Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン

 
 手元を照らす照明だけをつけて、彼は肌触りの良いシルクのパジャマを着てソファに寝そべり雑誌を読む。俺はと言えば、スウェット姿でそんな彼の横になるソファに座り、俺の足の上に彼の足が投げ出された状態で俺はぼーっとカーテンを開けたままにしてある窓の外を見る。そこにはキラキラと星が光っているわけではないけれど、ぽっかりと丸い月が浮かんでいる。
「満月か」
 いつの間にか雑誌をテーブルに置いていた彼はポツリと呟き、窓の外へ視線を投げる。
「満月ですね」
 俺は彼の言葉に答え、彼はその足を俺の上でガシガシと動かし、俺を足蹴にする。
「ちょっと、先輩何なんですか」
 不満げな声を上げる俺に、会社の先輩でもある彼は十歳年上とは思えないような悪だくみを思いついた子供みたいな笑みをその顔に浮かべる。
「何となく」
 シレッと答える彼の足は相変わらず俺を足蹴にするのをやめようとはしない。「ちょっと、先輩ホント痛いですって」一見がっしりしているわけではない、どちらかというと小柄で細い彼は、そうとは見えないだけで結構力が強い。学生時代は体育会系だったらしい上に、今でも大型バイクを乗り回し、妹さんの子供とアスレチックで遊ぶ事もあるのだとかで、身体を動かす事には事欠かない。体格こそ俺の方が良いけれど、きっと彼に本気を出されたら俺はひとたまりも無いだろう。痛い、と声に出して言えばゲシゲシと蹴る足は静かに俺の上に投げ出されて、彼の上半身が動くのと連動するように俺の上に投げ出された足がモゾモゾと動く。テーブルに投げ出されていたタバコとライターを取ろうとしていたらしい。タバコを咥え、それに火を付ける彼は機嫌がよさそうに喉で笑う。
「ちょっと、寝タバコはダメですって」
 そう嗜めれば、彼はタバコを咥えたままに少しだけ上体を起こす。俺の腿をストッパーのように三角座りをしながら、彼は煙を俺の顔に向けて吐き出すのだ。
「ちょ、けむたい」
 その吐き出される煙に咽ながら、彼へ抗議すれば「そりゃぁすまんね」と悪びれもせずに笑う。基本的に本当に嫌だと言えばそれを止める程度の分別は持っている筈の彼は、この行為だけは何度も抗議しても止めようとはしない。

 

「月に行きたい」
 タバコの煙を俺に吹いた後、静かにタバコを吸っていた彼は不意にそんな事を言い出す。突然そんな事を言い出す彼に俺は「いきなり何言ってるんですか」とその真意を問う。
「連れてってくれよ、青嗣」
 そう言って俺の名を呼ぶ彼は、艶然と笑う。「月にですか?」そう問えば、「星に囲まれて、火星や木星の春がどんなもんかも見てみたいな」と意味の分からないことを口にするのだ。
「行き成り何ロマンチスト気取ってるんですか」
「ばぁか、俺は元々ロマンチストだよ」
 俺の言葉に彼はそう笑い、テーブルの上の灰皿に彼が咥えていたそれを押し付けて火を消して、煙が消えるのを確認したと思えば俺の胸倉を掴んで引き寄せ、噛みつくように、深いキスを仕掛けてくるのだ。
「んっ……ふ、……先輩?」

 

 唇を離した彼は、互いの唾液に濡れた唇を軽く指で拭い、誘うような笑みを浮かべる。

 

「つまり、キスしてって事だよ」

 

 

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青嗣くんと宇宙さんがイチャイチャしてる貴重な話。

本文サンプルとして公開したものなのでこちらにも掲載。

 

この話を入れて4本の掌編が入った掌編集星にねがいを。は札幌文フリにて頒布予定。

 

 

| 20:41 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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