Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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昇る煙は宇宙へ向かう

 
今朝からソワソワしていた先輩が、腕時計と自身の進捗だろうか。PCを確認してデスクから立ち上がりいつもより早い速度で去って行ったのが、10時半を少し過ぎた頃。私も仕事がひと段落ついて、休憩を宣言し喫煙所へと向かえば、そこに居たのは煙を昇らせるタバコを咥えながら携帯を真剣に見つめる先輩だった。


「どうしたんですか」
私が声を掛けてから数秒の時間を置いて、携帯の画面から視線を上げた彼女は「これだよこれ」と携帯画面を見せつける。その携帯画面には空へと真っすぐに飛んでいくロケットの光。
「あぁ、そう言えば今日でしたっけ打ち上げ」
朝のニュースで少しだけ見た気がするその打ち上げは、日本人宇宙飛行士も乗っているロケットの打ち上げで。ロシアが打ち上げるそれは宇宙を飛び続ける国際宇宙ステーションへと人類を運ぶ。アメリカのシャトルが退役したのももう何年も前の話。今やロシアが人類の輸送を一手に引き受けている。


「ソユーズも良いけど、やっぱりシャトルにはロマンがあったよなぁ」
好きだったんだよねぇ、スペースシャトルの造形。と彼女は長く伸びてしまった灰を灰皿へとトン、と落とす。
「宇宙飛行っていうとやっぱりスペースシャトルが浮かびますよね。何となく」
「アメリカならサターンもあるけどやっぱりどうしてもねー」
笑いながらそう口にする彼女に私は首を傾げる「サターン?」そんな私の反応を見れば、「サターン后アポロ計画の」と返す。
先輩の携帯画面では順調に宇宙へと飛ぶ飛行士たちがタブレットを弄っていたり、カメラに向かって手を振る。その光景を見た彼女はあーあ、なんてため息と共に煙を吐き出すのだ。
「私も行ってみたいわ、宇宙」
ポツリと呟いた言葉にそう言えば、私にこんな知識を植え付けた張本人もそんな事を言っていたっけ。なんて思い出す。「もしかして将来の夢は宇宙飛行士だったクチですか」と冗談交じりに問えば「瑞原も?」と彼女の声が重ねられる。
「いや、私は無かったですけど。知り合いに一人」
「へー、私はどうしても数学を愛せなくて理系諦めたからなぁ」
彼女はカラリと笑い、「せめて宇宙葬くらいはしたいものだね」と重ねる。
「宇宙葬ですか」
「そ。今は安くなってきてるしね。過労死したら家族に会社訴えてふんだくった慰謝料で宇宙葬頼んである」カラ元気としか思えないイエーイ!という声と共に彼女は短くなったタバコを水の張られた灰皿の中に投げ込む。タバコはジュ、と音を立てて水の中へ沈むのだ。
「笹野さんが言ったらシャレにならなそうなんですけど」
「はっは。大丈夫大丈夫。死ぬ前に辞めるから」
ケラケラと笑いながら彼女は喫煙所を後にし、私はその後ろ姿を見送りながら時計を確認する。これからでもタバコ1本分の時間は残っている。
私はタバコを取り出して、100円ライターで火を付ける。

 

そのタバコから立ち昇る煙は、どこかロケットのそれに似ている気がした。

 

 

——————————————————

 

ダッシュで喫煙所に走って打ち上げ携帯でライブ中継を見たのは何を隠そう狭山です。

(そして打ち上げの瞬間は見逃した)

そして瑞原ちゃんに宇宙知識をぶち込んだ知り合いというのは他ならぬセナさんである。

 

 

| 22:17 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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