Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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Let's look at the new world ! : 06
 
こんな天気のいい日に仕事をするなんて罪以外の何物でもない、と納品前の原稿を放り投げ温かな日差しが差し込む昼下がりの街へと繰り出す。カフェでのんびり一服でもして、気分転換してからでも納品の締切には間に合う程度の余裕がある。そう思いながらどこの店に入ろうか、なんて店先を冷やかしながら自分自身のパートナーが働く研究所に向かう道を歩く。これという店が無ければ、研究所に併設された科学館で時間を潰す選択肢も脳内にひっそりと残されていたから。
そんな時だ、妙に哀愁溢れるメロディーラインと、懐かしい母国語が聴こえてきたのは。
母国とは遠く離れたこの地で、母国語を聴く機会は少なくないが、その言葉が郷愁を誘うメロディーラインに乗っているのは珍しい。男性にしては少し高く、女性にしては少し低い、それでいて落ち着くようなその歌声の元を探すように視線を巡らせば、視線の先にはとあるカフェのテラス席に陣取る人影。一瞬見ただけでは女性か男性かすぐには判別できない中性的であり、気の強そうな印象を感じさせる容姿をしたその人物は、俺の視線に気付いたのか歌うのをやめて怪訝そうな視線を投げ掛ける。そしてその後すぐに自分の歌によるものだと気付いたのか、視線を外して青緑色の箱からタバコを1本取り出し咥えるのだ。
「懐かしい歌が聴こえたもんで」
日本語でそう声をかけてみれば、その人はタバコに火をつけながらも「旅の最中なんで」と日本語のぶっきらぼうな返答が帰ってくる。
「相席、良いかい?」
年下であろうその人にそう問えば、声は出さず、くわえタバコのままどうぞ、とでも言うように手のひらで同じテーブルの空いている席を示す。俺もそれを肯定と捉え「じゃ、失礼して」とその示された席に腰を下ろすのだ。
「旅の最中って言ってたけど、観光?」
俺が再び口を開くのはウェイターに注文を告げ、その支那が届いた頃だった。テーブルを挟み斜め向かいに座るその人にそんな事を問えば「そんなトコですね」と答え、「仕事辞めて、次の職にすぐ就くのも癪だったんで。貯金もあったしビザ無しで滞在できるだけ滞在しようかと」と言葉を続けてくれる。
「へぇ、それはまた大胆な。ドイツはいつまで滞在予定?」
「弟にもそう言われましたよ。まぁ、呆れられたって言うのが正解ですが。ドイツは叔父の家があるのでとりあえず本拠地にしようかなと。まだ来たばかりなんでまだ何も決めてないんですよね」
現地在住なら伺いたいんですが、ここら辺のオススメってあります?と言葉を継がれ、パッと浮かぶのは2つ目の選択肢として置いてあった科学館。「もし、理系興味あるなら近くに科学館があるよ。研究所の併設科学館だから大人でも結構楽しめるんだ」ちょっとした公園と広い芝生もあるからピクニックにもオススメ。と追加情報を告げれば「あ、そこ叔父が働いてる研究所ですね」と思わずといったように声を上げる。先程までとは違うトーンの少し高めの声に、その人が女性である事に確信を持ち、更にその言葉の内容に俺も思わず驚きが声に表れる。
「その研究所、俺の知り合いも勤めてるんだけど。すごい偶然だなぁ」
そう告げる俺に「そんな事もあるんですねぇ」と彼女はカラカラ笑いながら、「お兄さんの知り合いって、エルマーさんとかヴェルナーさんとか、雨宮さんだったりします?」と首を傾げる。挙げられたその名前に俺は再度目を丸くする羽目になる。「まさにドンピシャ。エルマーもヴェルナーも雨宮……トキも知ってる」最後に出てきたトキの名に、思わずそいつの弟と暮らしてます、パートナー制度でほぼ結婚してますと言いかけた言葉を噤む。この地では少なくない同性婚だが、彼女は日本人だし、日本はそういう所まだそんなに進んでいないし、と。そして、その列挙された名前に浮かぶ一つの疑問。
「でも何でそいつらの名前出てくるの?」
その問いにも、科学館の話で打ち解けたらしい彼女は漏れる笑みを隠すこともせず、口を開く。「あーっと、叔父の彼氏を紹介するって昨日の夜会ったメンバーですね。彼氏のエルマーさんとその友達のヴェルナーさんと雨宮さん」いやぁ昨日は必死に辞書片手に英会話ですよ。と続けながら。俺はと言えば彼女の何てことないように口にされた単語に口に含んでいたコーヒーを噴きかける。エルマーと付き合っているといえば、と気の強そうな彼女の親類とは思えない見知った穏やかな壮年男性の姿が頭をよぎる。あの人何やってんだ。
「え、ちょっと、え」
「はい?」
思わず言葉もしどろもどろになる俺に、彼女は吸おうと取りだしたらしいタバコを片手に首を傾げる。
「オジサンの、彼氏?」
「え、もしかしてサトシさんエルマーさんの事秘密にしてました?普通にヴェルナーさんとか雨宮さんとか知ってたっぽかったんで、てっきりオープンかと。オフレコでお願いします!」
俺の問い方が悪かった。てっきり俺が彼らの関係を知らないという考えに至ったらしい彼女はタバコに火を付けるのも忘れ、パンと柏手を打つように俺を拝む。
「いや、そうじゃなくて、叔父さんに彼氏が居るってさ……」
思わず言い澱んでしまう俺に、あっけらかんと「あぁ、そういう事ですか。それについては元々幼馴染から始まり元同僚、弟、従兄その他諸々と無駄にカムアウトに満ち溢れた環境なので」と言葉を返す「私だって可愛い女の子も好きですしね」と付け足しながら。
「それは凄いな……」思わず感嘆してしまう俺に「ですよねー」と彼女も同意する。

「あ、そうだ。もし良かったら一緒に科学館行きません?」
最初のぶっきら棒な態度はどこへやら、上機嫌らしい彼女にそう問われる。折角ここで会えたのも何かの縁ですし。と続けながら。
「良いね、俺のお勧めブースは宇宙開発。こう見えて日本では推進器専攻してたんだ」
「それは解説聴きがいがありそうですね。ドイツだし、V2とかフォンブラウンとか充実してたりします?」
さらりと彼女の口から発せられる宇宙開発の父の名と、彼が作った軍用液体燃料兵器の名に思わず目を見開く。「『ロケットは完璧に動作したが、間違った惑星に着地した』って言葉、好きなんですよね」と更に言葉を重ねられて、俺は思わず笑みを漏らす。
「ソレ、俺もすっげぇ好き」
その言葉を聞いた彼女も笑って、お互いタバコを一本だけ消費して、会計を済ませれば科学館への道を連れだって歩く。

「そう言えば、自己紹介してませんでしたね。笹野葎花、無職の28歳です」
「俺は瀬波駿馬、居職の45歳だな」

そうして俺たちはお互いに日本人の癖に欧米人のように握手をする。
そこはそう、郷に入っては郷に従え、だ。


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セナさんと笹野は唐突に出会う。そして宇宙に対しての趣味嗜好が割と似てるんですよねこの2人。
ヴィンと会ったりその後久慈さんが彼らを構い倒すやつ。
 
| 21:35 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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