Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK |
| CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
Let's look at the new world ! : 01

仕事を辞めた。パスポートを取った。世界を見に行こうと思う。

そう弟に告げれば、彼は「取りあえずその前にこの家のソファから立ち退いてください」と返してきた。
「酷いな。お前が学生だった頃はラブホとして私の部屋を貸し出してやっていたというのに」
「その代わり家事やってたけどな!」
「何だ何だ、私の家事に文句でもあるのか」
「完璧ですね。まさか食卓に壺焼きシチューが出てくるとは思わなかったデス」
そう言って項垂れる隣で弟の彼氏であるハナさんは笑う。「葎花さんの料理美味しいよね」なんて言いながら。
「家主はハナさんなんだからハナさんに出てけと言われるまでは立ち退きを拒否します」
そう言い放ってやれば弟は首を垂れる。この数年でハナさんも吹っ切れたのか、数年前にファミリータイプのマンションの一室である彼の自宅で当時新社会人になったばかりの弟を迎え入れたのだ。そして弟を迎え入れた数年後の現在、仕事を辞めた私が自宅アパートを引き払い、荷物は実家へ、体はこのマンションへ転がり込んだという寸法だ。リビングのソファで寝起きをする生活も1週間を過ぎた。「そろそろ実家帰れよ」と弟からの風当たりは厳しい。ハナさんが優しいのもそれはそれで逆に怖い。
「葎花さんが来てから我が家の食生活の質が格段に上がったからね!」
ニコニコとそう言ってしまうハナさんの後ろで弟の視線が厳しい。ハナさんは料理が出来ない人だから料理は出来るけど軽く社畜の道をたどり始めた弟を見かねて無理をしないよう言い聞かせたという経緯があったようで。

「まぁ、数日すりゃぁ機上の人だしな」
そう言えば、弟はため息、ハナさんは目を丸くする。
「えっ、そんなすぐに海外行くの? 国内旅行とかでなく?」
「姉ちゃんはこういうやつなんだよ! 学生の時もこのノリで留学してたんだから」
ハナさんの驚きに弟は呆れかえった顔で返す。成り行きで勧められた留学にそのまま乗って奨学金のアテまで用意してからほぼ事後相談のレベルで「留学するわ」と両親に宣言した10年近く前の自分の所業を離されれば、私も苦笑するしかない。あれは若気の至りだ。
「それを言ってくれるなよなぁ」
そんな私の言葉に「似たようなもんだろ」と返される。
「でも、どこ行くとか決めてるの?」
呆れかえっている弟とは裏腹にハナさんは私の旅程に興味津々だ。
「取りあえずドイツ。そこから適当に欧州回って資金が尽きたら帰ってくる予定」
適当にも程がある旅程を告げれば、さすがのハナさんにも絶句される。
「ドイツって、知志おじさんの所?」
弟は合点がいったように私に問えば、私はそれを肯定する。現に、件の知志おじさんにはメールを送ってあるし、空港に迎えに行くという返答も来ている。転がり込む場所があるのであれば利用しない手はない。知志おじさんとは? と首を傾げるハナさんに「母方の叔父さんがドイツに住んでるんデスよ」と解説する。
「グローバルだなぁ」なんて感想を口にするハナさんに「おじさんと姉ちゃんが規格外なだけだって」と弟が的確な突っ込みを入れる。確かにその他の親戚達はそんなホイホイと外国に行くことは無いな、と私も不本意ながら頷く。
「おじさんは兎も角姉ちゃんはただ単に定住感覚に乏しいだけだし」
「言うようになったな格臣」
否定できないところが悲しい所だが、同じ場所にずっと居続けるという事が苦手なのは本当なので仕方がない。大学卒業から先日まで働き続けた会社に何年も居れたのは自分的にも僥倖だった。お陰でぶらり欧州の旅が出来る程度の貯蓄は出来たわけだけれど。

「ていうか、数日後って姉ちゃん準備とかは」
「カメラとタバコと金がありゃどうにでもなるよ」

そう言えば弟はまた呆れた顔をして、ハナさんは「何かもう何周か回って尊敬するよ」と呆然としていた。



仕事を辞めた。パスポートを取った。世界を見に行くまで、あと数日。


——————————————————


フリーワンライで書いた話に続く前日譚。
笹野は割と何も言わずフラッと海外位行くようなタイプかと。大学時代笹野の留学先は不明。


 
| 20:50 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>