Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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その音を、聞かせて。
 Prolog : Alone Again(Naturally)
 
この曲を弾き終わったら、死のうと思ってた。
 
そう決めて弾き慣れた鍵盤に指を滑らせていれば、メロディの中にガチャリという不協和音。思わず手を止めてその音の発生源に目をやれば、そこに立つのは一人の青年。
「入部希望なんですけど……」
小さな声で呟くように告げた彼を見遣りつつ、ポケットの中の携帯を取り出しアドレス帳からこの部の部長の名前を呼び出し、迷わず発信の操作をする。
『どーかしましたかー?』
数コール後に出た男の寝ぼけきった声にため息一つ。新入生の来るこの時期くらい、ちゃんと起きて部室に居ろ。恐らくこの曜日を全休にしーーもしかしたら自主休講かもしれないがーー彼の住処であるアパートの愛しい愛しいベッドの中で惰眠を貪っていたであろう彼に「入部希望者が来てる。早く来ないと帰っちまうぞ」と軽い脅しと共に入部希望者の来訪を告げる。『わー!待って、待ってくださ、今から行くんでっ!!ツカサさん場を!持たせといてくださ一!!』
ドタバタと煩い部長の声にうんざりとため息一つ零しつつ「私に先輩要素を求めるな」と返せば、『話相手位は出来るでしょーが!』と叫びそのまま奴は通話をブチ切る。通話の途絶えた携帯をポケットに戻し、もう一度ため息を零せば、困った様子の青年の顔が目に入る。
「あの、俺、日を改めましょうか……?」
そう申し出た青年に最初からそうしてくれ。と言いたくなるのを堪え、右手でそれを制する。「待て。私はこういう事務に疎いが、この部の部長がこっちに向かってる。
奴に無駄足を踏ませるか?」
親しい同期が聞いたらもっと優しく!にこやかに!とでも言い出しそうな程無愛想な言葉で青年を引き止めていれば、ドアを蹴破るような勢いで転がり込んでくる部長。

「よし、早かったな」
満足げに呟いた言葉は聴かれていたらししく、「アンタが脅すからでしょう!!」だの「めちゃくちゃ困り顔じゃないですかこの子!!」だのと突っ込まれる。大体困らせたのは私じゃない。それに、「大体な、私に渉外能力を求めるな。ピアノを弾くしか能がない人間だ」知っているだろ。と短くはない付き合いの男にそう言えば、知ってますとも!でももうちょっとだけ努力してください!と更に突っ込まれる。
「善処はしよう、しかし今はまず、そこの青年の相手をする事が先決だろ?」
そう言って放置されていた青年を指し示せば、彼は慌てたように青年の相手をはじめた。私はと言えば、人生最期の一曲を邪魔され萎えた死への願望を再び心の引き出しに仕舞い込み、手持ち無沙汰に彼らのやり取りを見るしかなく。
「なぁ、青年」暇を持て余し、入部届を書き終えた青年に、声をかける。
「ハルナくんですよ」
な、と何故か部長が呼び掛けに答え、既に意気投合したらしい部長とハルナくんとやらは二人揃ってこちらを向く。「じゃぁ、ハルナ。担当楽器は」
「高校の軽音でベースをやってました」
今度は本人がはっきりとした声で答える。遠慮するような小さな声しか聞いて居なかった私はその凛とした声に心の中でプラスを一つ付けた。
「ジャズは」
「親が演ってて、それ聴かされて育ちました」
その答えを聞いて、一人頷く。揃って首を傾げる二人に「演るぞ」と一言。「えっツカサさんから演るとか言うの珍しい!」とは部長。「俺楽器持って来てないですよ!?」とはハルナ。
「そういう気分だ。ドラムとベースが居たらトリオが出来るからな。ハルナ、楽器は部室のを使え。サツキ、用意してやれ」暴君だ!と喚きながらもベースを準備し始める部長を無視し、ハルナに黒本を放る。「曲は選ばせてやる」放った黒本を上手く受け取り、ページを繰るハルナを見、もう少しだけ生きるのも悪くはないかもしれない、と。一人口角を上げた。

すまないが、お前の元に行くのはもう少しだけ遅くなりそうだ。
少しだけ、お前に似た後輩を、見て居たくなったんだ。

――――――――――――――――――――

性別不詳年齢不詳の死にたがりと新入部員な青年の話。
クズいジャズ研が書きたい。
何本か続きます。多分。
最初考えてた時はハルナくん男の娘だったのに普通の好青年になったよ!

***

Alone Again(Naturally)/ Gilbert O’Sullivan
『また独りになってしまった、当たり前のように。』
 
| 20:33 | その音を、聞かせて。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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