Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK |
| CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
決意と共に一歩を踏み出せ
 

このままいくと割と早く出勤出来る時間か。腕時計を見て抱いた感想はそんなものだった。通勤途中の地下通路にあるベンチに腰掛けたのは早く会社に着くのが癪だったからだ。通勤通学、もしかしたら観光で、忙しく行き来する人の波を通路の端のベンチでぼんやりと眺める。おそらく新社会人であろう若者が、真新しいリクルートスーツにきっちりしたコートを羽織って目の前を通り過ぎていく。私にもあんな頃があったのだろうか。あったな。うん。心の中でだけそう呟き肯けば、頭上から掛かる「何してんだ、笹野」の声。声の発生源を見上げればそこには呆れ返った表情の山崎。この顔を見るのももう4年目になるのか。とふと思う。普段はこんな時間に通勤しないこの男も新入社員研修に駆り出されてのご出勤だ。残業に染まった私のシフトは見なかったことにしたい。
「あんな頃もあったのかねぇと思って」
ショートカットの若い女性が真面目そうな顔つきで真っ直ぐ目の前を通り過ぎていく。その女性を示しながらそう顔を自嘲を含めて歪めれば、呆れを含んだ笑みで山崎も「確かに」と返してくる。そろそろ行くか、とベンチに掛けた思い腰を上げれば隣を歩く山崎。こうやって時折揃って通勤するから社内で噂になるのだが、私も隣の男も気にしていないから問題にはならない。そもそも山崎にはイケメンで優しい彼氏が居るし。最早その彼氏とも顔馴染みになっている私は噂について面と向かって言及されれば、口では適当な事を言いながら心の中でだけいつもそう答えてる。
「そういや笹野も研修講師やるんだって?」
「あーそういや何かそんな事言ってたな……」
全体研修の一部と部署内の研修をやるよう指示されてたのを思い出して思わず遠い目をしてしまう。
「お前が研修講師とか世も末」とからかいの色を纏った山崎の言葉には「今世紀始まったばかりだぞ」とだけ返してやる。
「まー気張れ」
「提示された台本こなすだけだっての」
そんな話をしていれば、着いてしまうわが職場。IDカードを読み取り部へ翳せばピッという音と共に鍵の開くガチャリという音が鳴る。
「今年度の目標、決めた」
おもむろにそう口を開けば、どうしたいきなり。と後ろで同じようにIDカードを鳴らす山崎の声。
「今年度こそ会社辞める」

そう宣言すれば、山崎の呆れかえった「それ、新年度早々出勤しながら言うセリフじゃないな」という声が投げられた。


——————————————————

新年度1日目からしてやる気のない笹野である。
ちなみに笹野の目の前を通って行った女性こそ後に笹野2号と呼ばれる瑞原ちゃんである。

 
| 22:32 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>