Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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思い返せば青春だった。
 
「モリコーネか」
当分会えないだろうから最後にバードランドで集まろうと、いつもの貸しスタジオで集合という約束で、相変わらず早く着きすぎたおれは、その部屋に置かれているピアノの鍵盤に指を走らせていた。その一言に、声の投げられた方へと視線を走らせれば、見慣れた金髪。「おっと、邪魔した?」そう言いながらドアを閉めてそっと室内に入るのは結城。「珍しいね、二番乗りなんて」いっつもギリギリに走ってくる癖に。と付け足しながら声を掛ければ「最後だからな」と背負っていたサックスケースを下ろし、楽器の準備をしながら笑みを見せる。
「ニューヨークだっけ」
そう問えば、回答の代わりに彼はマウスピースで音を出す。
「レオ……父さんのやってたジャズクラブで修行してくるよ。」と結城の声が続いた。
「片桐はパリだっけ」
「うん、卒業式の次の日に発つ事にしたんだ」
戯れに鍵盤を弄びながら、彼の問いに答える。
「なぁ、さっきの曲、やろうぜ」
そう切り出し、動作を確認するように素早く音階を吹く結城に、答えることはせずにおれもイントロを弾き始めた。それに気づいた結城も、おれの音に注意を傾ける。

そっと、囁くように入ってきた結城の音に沿うように、本来の音とは少し違うかもしれない脚色を加えながら彼のきんいろの音を、飾っていく。その曲は、つい先日わりと仲の良い同期と見てきた映画で流れていた曲。その想いを音に込めたのに、それを渡すことのできなかった美しくも切ないその曲に、おれはどうしても惹かれてしまっていた。
最後の一音を丁寧に弾いてから、結城を見れば、彼は笑う。
「珍しいよな、お前が映画音楽って」
からかうようにそう言われれば、「こないだ三上さんと見に行ってさ」と答えてしまっていた。
その回答に結城は「ミケちゃんと?相変わらずお前ら仲良いなぁ」と笑いを堪えるように震える声で言う。そういえば結城は彼女とある意味同郷だったか。彼女と言葉を交わすきっかけになったライブも、確か結城が彼女を誘ったのだった。と記憶を呼び起こしていれば、体を震わせていた結城は、我慢できないと笑い出す。
「笑うことないだろ」
「ゴメンゴメン、だってさー、笑えすぎなんだって。お前とミケちゃんお似合いすぎてもう、」その後は言葉に出来ないようで彼は延々と笑い続ける。
「よーっす……ってシュン坊どうしたよ」
体を震わせて笑う結城の姿を見咎めつつドアを開けたのは最年長の鷹晴さん。使い物にならない結城の代わりに「結城は笑いすぎて再起不能ですね」と返す。その後ろから茜くんが入って来て、結城を奇妙なものを見るような目で見つめていた。そこから数分ひいこら笑いを噛み殺すのにプルプルと体を震わせていた結城も、深呼吸をしてやっと戻ったらしく、「片桐がミケちゃんと映画見てきたって言うから。しかも海の上のピアニストとかもう、あー可っ笑しい」と笑っていた事情を話せば、二人して「成程」と頷く。
「そんなに可笑しいかなぁ」
俺だけが首を傾げる状況にある中で、結城以外の2人はそうじゃないけども。と軽く笑って。「まぁ、今だから言うけどこれでこいつら付き合ってねーんだぜってのが俺らの中でも鉄板でな」と鷹晴さんが代表して言い、残る2人も首を縦に振る。
「その中でもシュン坊が一番2人を見てきたんだからしょうがないだろう」と笑いすぎてまだ呼吸が落ち着いていない結城が更に強く頷いていた。

「ギッギリセー!? っていうか、皆何してんの」
そんな微妙な空気をドアをぶち破るように入ってきたのは了馬くん。その姿を確認したおれたち4人は彼のきょとんとした顔に少しだけ噴き出して、それぞれのポジションに向かい、楽器を整備する。

「さてと、当分このメンツじゃ演れねーし、気合入れますかね」
そういって笑った鷹晴さんは、バードランド! と叫んでドラムを叩き始めた。


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今出さないとまた1年温存せねばなるまいモノをば。
 
| 20:48 | Pianoforte. | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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