Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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売り場に響いた鐘の音の顛末
 
カランカランと売り場に響く安っぽい鐘の音。テーブルの向かい側でその鐘を振る店員の笑顔と共にその言葉は私に向けられた。
「おめでとうございます!一等賞、お米5kgです!!」
思わず私とその後ろで事の成り行きを見守っていた弟は声をそろえて呟いてしまった。
「マジか」

「お邪魔しまーす」
「おーっす」
「よく来た。とりあえず入って」
売り場で鐘を鳴らされた数時間後、長閑な午後にその二人はやってきた。当選してしまったコメ5キロとスーパーで買った品物を持って家に帰ってきた私がすぐさましたのは会社の同僚である山崎と後輩の瑞原に連絡を取ることだった。電話が繋がって開口一番に「コメは要らないか」と切り出した私に怪訝な反応を返され。お願いだから貰ってくれと頼み込み今に至る。日曜日に全員が休みだった事は奇跡に近い。主に私が休みだったという事実を含めて。
「それにしてもコメ当てるってすげー運だよな」
電話で事の一部始終を把握していた山崎が座布団に腰掛けながら笑う。
「こんな運要らんわ」
「でも凄いですよ。このまま運が向いてれば一攫千金行けるんじゃないですか?」
「この勢いで馬券買って当てれたら会社辞めるわ」
瑞原の言葉にそう返すとキッチンに居たのにこっちに顔を出してきた弟と目の前の客人二人がソレダとでも言いたいような顔をしてくる。何でそこは揃うんだ。本当辞めてやろうかこのやろう。
「でも本当に良いのか?米なら生活必需品だろ」
そう尋ねる山崎には人数分の飲み物を持って居間に戻ってきた弟が答える。
「実家に電話したら米買ったばっかりだって言うし、今日の買い物で米買ったばっかりなんですよーそれなら誰かに分けた方が良いって姉ちゃんが」
「それで俺らに白羽の矢が立ったのな」
「一人暮らししてる連絡先のある相手がお前と瑞原しか思いつかんかった」
そう付け足すと山崎は微妙な顔をしてくる。
「いつも飯くれるオネーチャン達は」
「連絡先交換してないし、してても休みに積極的に連絡取ろうとはおもわないな」
「笹野お前本当クズだな!!っていうかヒモ男か!!!」
余計なお世話だと思っていれば、笑顔の瑞原に「ヒモ男はもう少し関係を保とうとする努力しそうですけどね」と追い討ちをかけられる。
「瑞原ちゃん、実は辛辣だよな」
「知ってた」
「山崎さんも笹野さんも酷いですね、こんなもんですよこんなもん」
そう言って笑う瑞原は今迄で見た中で一番悪い笑い方をしていた。思った以上に瑞原って性格悪いのかもしれない、私と同じ轍は踏まないのかも。なんて思いながらタバコに火を付ける。
「まぁそういう事でこの米5キロ、持ってってくれ。とりあえず容器は用意したから。2.5キロづつ」
やっと重い腰を上げてキッチンに向かえば、端っこで全員に渡っている物と同じウーロン茶を啜っていた弟が後ろからついてくる。半分弟に持たせて自分の持った半分を山崎に渡す。弟が持ってたものは瑞原へ。
「弟クンこき使うなよなー」
「家賃代わりの労働だ。家事とかやるってので置いてるんだから。最近入り浸りなんだよ」
悪いこと訊いちゃったみたいな顔の二人に「親と喧嘩してるとかじゃないから。ウチに居る分なら親も気にしないしただ単に実家から大学までの距離がかったるいだけだよコイツのは」と補足説明を付け足せば、なるほど。みたいな顔で頷く。
「笹野の弟にしては出来た弟だと思ってたけど、やっぱ兄弟だな」
山崎の感想に弟が思わずと言うように「姉ちゃんこれ褒められてんの貶されてんの」と突っ込む。
「貶されてるな。山崎お前人の弟を何だと思ってるんだ」
「どちらかと言えば弟クンよりも笹野を貶してるから大丈夫」
「お前覚えてろよ……」
「……スミマセン」
私と山崎のそんなやり取りを見てた瑞原と弟は同時に笑う。それに釣られて私までなんだか可笑しくなってきて喉の奥で笑いが漏れる。
「あー何か酒のみたくなってきた。酒」
そんな私の言葉に思い出したように瑞原があ、と声を漏らす。「私持ってきてますよ。お米貰う代わりにとは何ですけど、ウチに死蔵してた桃のリキュール。未開封だったんで」
「瑞原ちゃんナイス!」
「よし、コイツをこれに注げばクーニャン!」
山崎の掛け声と共に受け取った酒をそのままウーロン茶のグラスに注ぎ、グラスを揺らして気持ちかき混ぜる。
「笹野さんて意外と好きですよね、クーニャン。その他の酒の好みは渋いのに」
「……ベイリーズだって飲むぞ」
「それよりも電気ブランだの芋ロックだのカンパリソーダのイメージが強いんだよお前は」
「ゴットファーザーだって飲むぞ」
「それは渋いカテゴリに入りますよ」
山崎と瑞原から突っ込まれヤケクソになりながら味の偏ったクーニャンを啜れば弟が思わずと言うように吹き出す。
「格臣何が可笑しい」
「いや、姉ちゃんの会社の人と会ったの初めてだったから、思ったよりいい人いるんだなって思って」
今後とも姉をよろしくお願いします。と山崎と瑞原に頭を下げる弟を見て山崎は一言ポツリと呟く。
「やっぱり笹野には出来た弟だな、タダオミクン」
「山崎お前殴られたいのか」


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ガラポンで米5Kg当てる系笹野。
ちなみにクーニャンは北海道(札幌圏?)でのピーチウーロンの呼び名です。
笹野が馬券を買うか否かは闇の中。



 
| 18:04 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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