Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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時には心の平穏を
 
いつも通りに少し早めの出勤で、始業までの時間を喫煙所で過ごす。それは俺の出勤時の日課みたいなもので、喫煙所に向かえば今日も彼女は苦虫を噛み潰した上に咀嚼したような顔で煙の向こうに座っていた。
「今日も残業か」
「よっす、お前はこれからか」
挨拶代わりにそんな言葉を交わしながら、彼女の隣に座り、タバコをくわえれば、横から差し出されるジッポーの火。有り難くそれを頂戴して吸い込んだ煙を吐き出せば、カチャリという音と共に彼女のポケットにそれは仕舞われる。
「10勤越えって顔してんなぁ」
「正確には19だわ。明日で20の大台ってな」
イエーイと虚ろな声で無理矢理テンションを上げる笹野がはっきり言って痛々しい。彼女の足下では7cmヒールのパンプスが無惨に転がっているし、着ているブラウスも心なしかヨレている。「ちゃんと洗濯してんのか」と突っ込めば、「弟にやらせてる」との返答。
「弟クンも可哀想に。こんな横暴な社畜の姉貴を持ったばっかりに洗濯まで……」
「宿泊費とラブホ提供代と思えば安い安い」
「ホント酷ぇなオイ」
アイツ最近週の半分は転がり込んでやがるんだからコレくらい当然。と煙を吐き出しながら彼女は笑う。
「悪い笑い方してんなぁ」
完全に悪代官の笑い方をしている彼女にそう言ってやれば「魂がダークサイドに墜ちてんだよ」とシレっと答える。そりゃぁお前みたいな働き方してりゃな。というツッコミはのどの奥で押し殺す。完全にキレた高笑いでキーボードを叩きまくられるよりはマシだ。あの時ばかりは彼女の高笑いがマイクに拾われていないかヒヤヒヤさせられるのだ。だからといってそうなった彼女は誰にも止められないし、俺だって命はまだ惜しい。
「しっかしよくやるわ。俺10勤越えでも嫌なんだけど」
「30までは行ける。40近くなると結構キツいけどな」
「その数字が年齢じゃなく連勤日数なのがすげぇ怖い」
働く前からげんなりとしてしまい、きっちり締めていたネクタイを勤務前から緩めてしまえば、隣で笹野はニヤニヤと笑っている。
「なに笑ってんだよ」
思わず口に出ていた言葉に、彼女はよくぞ訊いてくれたとばかりに破顔する。
「この連勤を犠牲に盆に連休を取った」
しかも有給も惜しげなく使ってほぼ1週間だぜ!と輝かしい笑顔でそう告げる彼女はおそらくそれだけを楽しみに今日という日を過ごしている。「上司といつも盆に休む糞野郎共を脅した」という言葉は聞かなかった事とする。
「しっかし、お前が盆休みとか……フェスか」
合点のいったようにそう言えばイエスの答え。そう言えば去年の盆にタバコをくわえながら虚ろな目をして「来年こそはフェスだ、何としてもフェスに行く、行けなければ辞めてやる」なんてボソボソと呪詛の如く呟いていた笹野の姿を思い出し、こいつの行動力、ナメてた。と隣でワクワク顔を隠しもしない彼女に内心感心する。
「まぁ、フェスだけだったら3日休み取りゃ何とでもなるんだけどな、今年は従兄が実家に来るらしくて」
折角だから脅してみた。と笹野は相変わらず物騒な言葉ばかりを繰り出す。脅してみたは置いといて。
「従兄ってナオキさんの先輩の?」
「ま、うひろ君も来るだろうけどもう一方の方」
うちの親父殿3人兄弟の真ん中だから。と注釈を付ける彼女にへぇーと声を上げる。
「親戚付き合いちゃんとしてるんだ。ウチなんか全然だぜ、滅多に会わないから親戚関係全くわからんわ」
「ウチだって親父殿の兄弟位だよ。だからそこでの従兄とは結構仲良い方なんだろうなぁ」
ま、今回来るっていう方はもう何年も会ってないけど。と更に笹野は付け加える。
「ウヒロくんとウミちゃんは地元に居るから兎も角さ、後の二人は地元出てんのよ。私もこんな働き方してるからさ、会いに行こうにも行けないんだわ」
「で、折角だからフェスの他にそれにも併せて連休と」
そゆ事。と彼女はそこまで言い切ると、煙を吐き出し、短くなったタバコを灰皿に押し入れる。
「さって、バリバリ働いてとっとと帰るぞー」
エイエイオーと心のひと欠片も入っていないような声を上げ、靴を履き直して立ち上がる彼女に倣い、俺も腰を上げる。

「しかし、笹野が取ったという有給がちゃんと有給になるのかは見物だな」
「それを言うな」


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お盆の伏線を今から張っとこう作戦第二弾。笹野は従兄弟連中の中では下から2番目ですが、従兄弟の事は君付けちゃん付けで呼んでいるらしい。




 
| 08:14 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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