Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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定時連絡:Part.1
 
 
「盆辺りには帰ってくるんだよね?」
ちょくちょく電話を寄越してくる幼なじみは、楽しげな声色でそう切り出す。俺は手元のほぼ真っ白なスケジュール帳と向かい合い、「そうだなぁ」と声を出す。
空白が目立つスケジュール帳は、行く予定のライブとバンドの練習、そして休みの予定だけが書き込まれていて、来月のページをめくれば赤いラインで一週間ほどの休みの予定が書き込まれている。
「えー、いいじゃん、帰って来なよ」と電話の向こうで焦れる彼に「まぁ、フェス合わせで帰るんだけどな」とサラリと返せば「やっぱ帰ってくるんじゃん」と彼はカラカラと笑う。「ていうか、たっちゃんが帰ってこないワケないよね、フェスも抜かりなく毎年行ってんだから」と重ねながら。
「っていうか聞いてよ!駿クン帰ってこないんだって!ひどいよね!」
彼の弟……と言って良いのかは未だに良くわからない弟のような存在であるシュン坊は今年の夏も帰省はしないらしい。進路を決めた時には「学生のうちは帰ろうと思えば帰れる距離にしときたいから」なんて言って国内の大学に決めたと言うのに、彼はあまり地元に帰ろうとはしないのだ。
「俺に言うな俺に」
「久々に顔見せに来てよってたっちゃんからも伝えてよ!」
「遠慮してんだろ、実家って言うにはちょっと微妙だろ。アイツからしてみればさ」
「親父の家とか麗子さんの実家が居心地悪いなら俺の家来ればいいのにー」
「イヤ、それもっと意味わかんねーから」
そんな事無いのになぁーと電話の向こうでしょんぼりする幼なじみの姿が目に浮かぶ。何しろ彼が生まれたときからの付き合いだ。「つうか、シュン坊が帰ったら山のような在庫処理に付き合わされるのが目に見えてるから帰らないんだろ、すごい量の菓子が送られてきたとか言って泣きつかれたぞ俺は」と返せば「在庫処理じゃないよ!アレは俺個人の買い物だから会社の在庫じゃないし!」と彼はわめく。
 
幼なじみである鷹羽圭佑は性格も良く、国立大卒で英語その他欧州言語に通じ、実家の貿易会社で買い付けを担当する結構デキるサラリーマンなのだが、最大の悪癖ともいえる欠点がある。それは、時折買い付け先でお土産と称して大量の菓子類を買ってくる事だ。それはもう、段ボール数箱レベルで。本人は「買い付けモードから抜け出せなくって」と笑うが、その被害を被る周囲はたまったもんじゃない。彼の給料を考えれば家計を逼迫させる訳でもなく、ついでに言えば会社の資金を流用するでもないその悪癖は金の面でだけ言えば害は無いのだけれど、何しろ空間を逼迫させる。彼の妻がはじめに口にした「最早在庫処理ね、コレは」という言葉は忘れられず、俺もついついその言葉を使わせてもらうのだが、本当、在庫処理なのだ。海外出張の度でなくて、本当に良かったと俺を含む周囲は胸をなで下ろしている事に彼は気づいていない。
オーガニックだ何だと言っても所詮は菓子だ。時折恐ろしい量が今俺が暮らす自宅に送られてきたときは本気で背筋に冷たい物を感じる程だったのだ。察してほしい。
 
「まーそう喚くな。シュン坊だって帰りたくなりゃ帰るだろ。そん時にちゃんと迎え入れてやれよ」
そういって幼なじみを宥めれば、彼は「それがいつになるんだって言う話だよ!」と吠えた。
お前、シュン坊が帰ってこなかったら来るだろ、こっち。なら良いじゃねえのよ。という言葉はすんでのところで飲み込んで、俺はスケジュール帳に引かれた赤ラインの上に「ケイによる菓子地獄」と書き足した。


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結城の「帰れる時に帰れる距離」というのは、決してちょくちょく帰省することではないのであった……





 
| 00:08 | Pianoforte. | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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