Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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死して尚、君を見つめる
 
設定

・幽霊は「自分が一番充実していた時の姿」で現れる
・「本当に幽霊になった相手に会いたい」と思っている人間には幽霊を見ることは出来ない
・幽霊が見える相手だと触ることが出来る
・幽霊が見える人と見えない人がいる


書きたいところを書きたいだけ。



幽霊と幼女は出会う

「ダメなんだよ! ここでタバコすうのは!」
かつての恋人が勤める施設内にある公園で紫煙を燻らせて居れば、幼い声にそう窘められた。幼い子供が遊んでいるのを時折煙草片手に眺めている事は少なくなかったが、そう咎める声は初めてで。その声によって、幽霊である自分がその幼い声の持ち主に視認されて居たことに気付く。
「ああ、ごめんな。コレで、いいかな?」
指先で煙草の火種を消せば、小さく悲鳴を上げた少女が俺の手を取りその指先を見る。
「なんで指で消しちゃうの!? だいじょうぶ!? いたくない!? あつくない!?」
慌てふためく少女に「だいじょうぶだよ」と傷一つ無い指を確認させながら「皮膚は強い方なんだ」と言い訳をする。幽霊なのだから怪我なんてしないと言ったら、少女はどう反応するんだろう。怖がられるのは勘弁願いたいし、初めて会った少女に言う程の事でも無い。俺の指先を熱心に確かめる彼女の旋毛を見ながら、そんな取り止めのない事を思う。ふわりと癖のついた肩口より少し長い位の柔らかそうなブロンドは、長さこそ違えどかつての恋人によく似ていて、その懐かしさに思わず笑みが零れる。

「君、お父さんとかお母さんは一緒じゃないのかい?」
少女と目線を合わせる為に彼女の前に跪いて、深いエメラルド色をした瞳を覗きながら彼女に問う。問われた彼女は一瞬だけきょとんとし、そのあとに弾けるように笑顔を見せて口を開く。
「パパもファーターも此処で働いてるの!」
「ん?」
今この子は何て言った? パパ、と、ファーター。父と、父。この時代おかしくはない、養女かと、そう納得しようとしたその後に繋がれた言葉に今度こそ俺は目を剥いた。
「パパとファーターのいでんしをつかったんだって!」
マジか。技術的には俺の生きていた頃から可能だった筈だけれども作られてはいなかった同性間の子供と言うものが死んでからウン十年後の今、俺の目の前に居る。社会も進歩して居るのか、それとも裏取引があったのか。多分後者だ。世の中はいつも汚い。

「ソフィア、何してるの?」
男の声が視界の外からしたと思えば、ソフィアと呼ばれた目の前の少女は声のした方向をパッと振り向き明るい声で男に「パパ!」と呼びかける。
軽い足音を立てて少女がふんわりと白いワンピースを翻しながら駆け寄った先に居たのは、パーカーにジーンズというラフな格好に白衣を纏い、彼女と同じふんわりと癖のついたブロンドを持つ、よく見知った碧眼を優しく細め少女を抱き寄せる男の姿だった。
俺の隣にいた頃よりも随分と大人びて穏やかな空気を纏う男に俺も安堵の笑みを浮かべる。

その男は、かつての恋人、その人だった。



少女は彼を観察する

初めて会った時から10年かそこら経って居る筈なのに、この人は変わらない。名前を訊いたら「ハンスとでも」と答えられてああ、偽名なんだなぁ。と思ったのも今は昔。ハンス(仮)とは付かず離れずな関係を築けてると思う。普段何をして居るのかもわからないし、私が一人の時にしか現れないハンスは、今日も私の前で火の付いていない煙草を咥えてニコニコと笑っている。不審な部分も多いけど、私の秘密の友達だ。
「スキップが決まったの、この春から大学生だよ」
「へぇ、それは凄いなぁ。君のパパ達も喜んだろ」
「パパは複雑そうな顔をしてたけどね」
「あー、まぁ、可愛い娘が歳上の男ばっかりの場所に行くからなぁ」
ハンスは訳知り顔でニヤニヤと笑っている。彼はいつもそうだ。私の知らない何かを沢山知っている。不審極まりない大人の癖に。寧ろ、不審極まりない大人だから、なのかもしれない。そして私は、パパともファーターとも違う「大人」のハンスを結構気に入ってる。
「ハンスは大学生の頃、何をしてたの?」
「こう見えて真面目な学生だったからな、朝から晩まで推進器の研究だよ」
ハンスと真面目というものが対極にあるようにしか見えなくて、私は思わず笑ってしまう。そんな私を見て彼は表情こそムッとさせながらも笑いながら言葉を繋げるのだ。
「ちょっとしたハンデがあったからなぁ、必死だったんだよ、あの頃は」
そう言って笑うハンスの横顔は少しだけ寂しそうだった。



彼女は彼の秘密を知る

ハンスは時折寂しそうに笑う。いつものカラリとした笑顔とも、優しげに目を細める微笑みとも違う、何処か遠くを見て穏やかに笑むその横顔にはどこか陰を感じるのだ。
その寂しそうな笑顔の秘密を、私は遂に知ってしまった。

それは、パパの書斎に溜め込まれていためちゃくちゃな筆跡の計算式や設計図で埋められた紙類を良い加減に捨てろとファーターから叱られ、パパと二人で山盛りになったそれらの紙類の分類をしていた時の事だった。パパの悪筆は昔からだったようで、何十年も前の日付が書かれた暗号のような紙の山をひとつひとつ解読しようと奮闘していた時に一枚の古い写真を見つけてしまったのだ。

「……ハンス?」
私の隣で同じように自分の書いた暗号であるというのに解読に四苦八苦するパパが、手を止め写真に見入っていた私に「どうしたの?」と声をかける。私はその問いを無視してその写真を食い入るように見つめていた。写真には何だか複雑そうな表情を浮かべる今よりもずっとずっと若いパパと、その隣で笑顔を浮かべる男性。裏を返せば、パパの悪筆とは異なる綺麗な筆跡で『Vincenz Fellmer , Syunme Sena』と書かれていた。四半世紀以上前の日付と共に。
「シュンメ、セナ」
思わずその名前を口に出して呼んでいたらしく、パパは随分と懐かしそうでいて、寂しげな、ハンスの浮かべるそれとおんなじ笑顔を浮かべ、「こんな所にあったんだ」と呟く。私は、そんなパパに、「この人は誰?」と問いかけてしまったのだ。

「僕の大切な人だよ、君や、彼と同じ位。僕を僕にしてくれた人なんだ」
この写真を撮った後、すぐ亡くなっちゃったんだけどね。とパパは悲しげに笑った。いつもその年齢に見合わないような悪戯小僧みたいな快活な笑顔を浮かべるパパの、見たことのない表情だった。



幽霊と彼女と彼の秘密

「やぁ、ソフィー。どうしたんだよそんな怖い顔して」
大学生活を謳歌して居る筈の少女が、怒ったような顔で俺の前に現れたのは、初めて彼女と出会ったのと同じ公園だった。
「偽名だろうな、とは思ってたけど、本当に偽名だったのね。シュンメ」
思ったよりも気付くまで長かったよなぁ、なんて取り留めない事を思っていると、彼女は言葉を重ねる。
「思い返せば最初からおかしかったのよ、煙草を指で消したのに傷一つ無いし、私が一人の時にしか出てこない。その上初めて会った時から十何年経ってるのに、全く変わらない」
童顔なパパでさえ少しは老けたっていうのに、何で気づかなかったのかしらね!なんて彼女は自分自身にも怒っているようだ。まぁ、その怒りの理由は俺が隠していた秘密の所為なのだけど。

「この間、パパと書斎の整理をしてたら出て来たの」
ピラリと見せられたのは一枚の写真。「今時紙に印刷するなんて」と時代遅れだと言うように文句を垂れた彼の声を、姿を俺は昨日のことのように思い出せる。何だか複雑そうな顔をする彼と、満面の笑みを浮かべる俺の写真だった。彼は大人になった。俺は写真の頃と変わらない、変わることが無いのだ。仏頂面を晒す彼女に両手を上げ、降参だよと笑みを見せれば「何で」と彼女は声を上げる。
「何で? それはどれに掛かってるんだ、死んでる事か、それとも此処に居ることか?」
「揚げ足取りはやめて、どっちともよ」
まるでこれじゃぁ尋問だ。俺は煙草に火をつけて煙を吸い込む。禁煙。という声をかけられるが幽霊だし。と開き直れば彼女は口を閉ざす。

「まぁ、勤めてた研究所が爆発して死んだし、生き残ったヴィンが心配だったからという以外無いんだけどな」
さらりと答えれば、彼女は瞳に戸惑いを浮かべる。
「まぁ、此処最近は君と話すのが楽しかったってのもあるか」
「何でパパの所に行かなかったの」
「本当に会いたがってる奴には見えない仕様らしいぜ、何度もヴィンの前に行ったのに気付きもしない」
ま、幽霊の俺を見られた瞬間にアイツ喉とかかっ切りそうだったから会えなくて正解だ、と続ければ、彼女は悲しそうに目を伏せる。
「おっと、ヴィンが君のファーターを蔑ろにしてる訳じゃない。これはアイツが彼と逢う前の話だ。アイツ、俺が死んでから結構荒れてな。彼には感謝してるんだ。ヴィンを幸せにしてくれて、君みたいな娘まで出来たんだから」
そう言って笑いかければ、彼女は安堵の表情を浮かべる。彼女は本当に、両親想いの良い娘だ。

「なぁ、ソフィー。ヴィンに伝言を頼めるか?」
「パパが信じるかどうかは保証出来ないけど」
「『心の底から幸せになってくれ、いつでも見守ってるから』これだけで良い」
彼女は、言葉は出さずに、静かに頷いた。


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元々の世界のセナヴィンとか久々に書いた。ファーター氏は手ブロ企画当時に出来たヴィンの嫁。交流途絶えてしまったよその方のお子さんなので名前は出さない。嫁。

死ネタ好きすぎて拗らせてる。




 
| 23:59 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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