Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK |
| CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
未来に希望を
 
(現パロササセナヴィン+トキでササハラとトキが喋ってるだけの話)


「少し、昔話でもしましょうか」と、ヴィンの兄であるという男は俺を部屋の外へと誘った。
「タバコは」
「吸わないです」
喫煙所を目敏く見つけた男は、じゃあ、失礼して。と彼のポケットの中にあったメタリックの青いパッケージから一本取り出し、四角いオイルライターでそれに火をつける。タバコを吸わなくとも、その煙には慣れている俺は手持ち無沙汰に男の隣へと座った。
「こういう事態を想定すべきでした」
煙を吐き出すと共に口を開いた男は、そう切り出す。"こういう事態"とは、ヴィンがその頭脳を狙われ、ヴィンと行動を共にしていた駿馬が日常生活にも支障を来たすような大怪我を負い、更にはその事に罪悪感を感じ過ぎたヴィンがその記憶の一部を無意識に消し去った一連の事態であろう。駿馬もヴィンも、今はこの敷地内にある病院の住人となっている。そしてこの男はヴィンの居る病室に現れ、初めて会った頃の駿馬やヴィンと同じような無機質な目をして淡々と事務的な話を俺に告げて来たのだ。しかも、病室に入り、ヴィンがどうなってしまったかを察した瞬間に「今のヴィンツェンツにパソコンを与えるな」と口にしたのだ。俺じゃなくても肉親の癖にとんだ冷血野郎だ、と思うだろう。
「弟はもう大丈夫だと、私も、父も思っていた事が間違いでした」
男は機械のように淡々と言葉を発音する。人間的な感情を、全て抑えているかのように。男の言葉に口を挟めずに居る俺を気にする事もなく、男は話を続けていく。
「昔は、素直で明るく優しい子だったんですよ。頭の中身は昔から凄かったですけどね」
「それは分かります、最初は頑なだったけれど笑うようになってからは明るい子だなと」
そう、最初は冷たい目をして全てを諦めている、そんな青年だった。駿馬がとんでもない方向にキレて同居する!と言って引っ張ってきたヴィンは最初に会った頃の駿馬にも似てて、あの二人を見ているのが面白かったのだ。駿馬にそれを言ったら怒られたのだけれども。
「そう、それがいけなかった」
冷たい声でその思い出に水を差した男に、思わず隣の男の顔を見る。カッチリと着込まれた恐らく値段が張るであろうスーツ、笑ったら優しい顔になるだろうに能面のような無表情。シルバーフレームの眼鏡がそれを更に冷たく見せる。深い緑の瞳は感情を映すことは無かった。
「昔も、一度あったんです。弟の頭脳を狙った輩が、周りを巻き込んででも獲物を連れ去ろうとした事が」
一瞬、男の瞳が揺れたような気がした。声のトーンは変わることなく、話は続けられる。
「その時、巻き込まれたのは、弟が懐いていたSPでした。彼はその後、その時に負った怪我によって職を辞さねばならなくなりました。それからです、弟が変わったのは」
男の話す話は、今回の事態とよく似ているように思った。駿馬はSPでは無いけれど、ヴィンが懐いていたことや、その一件によって職を失う事となった事が。駿馬は今でこそ大学に籍を置いているが、彼が負った怪我を鑑みれば、恐らく復職は難しい。何しろ、生きている事が奇跡のような大怪我だったのだ。彼は病室の中で様々な管に繋がれ、病院に運び込まれてから一晩経った今も目を覚ましていない。
「嫌われる、という手段を用いて、周りを守ろうとしたんです。他人を寄せ付けない事が、自分に出来る唯一の事だと信じて」
そう言った男は、苦々しげに煙を吐き出す。「僕に関わろうとしないで!」と吐き出したかつてのヴィンの姿と被った。この男も、ヴィンと同じように、頑なに壁を作っているのだろうか。短くなってしまったタバコを灰皿にクシャリと押し消して、新しいものに火をつけた男は、さっきの渋面は消し去り、また能面のように淡々と言葉を紡ぐ。
「その時にヴィンを狙った組織は父が裏から手を回して潰しました。そして、同じような事をするであろう組織も、皆」
でも、しぶといのが残っていた、それによる凶行という事だろう。
「ヴィンツェンツは連れて帰ります。瀬波氏の援助は先程も申したように、ウチでさせて頂きます。出来る限り、日常生活が送れるレベルまで治療を行わせて頂こうと思ってますので」
ウチは医療部門も人材を取り揃えてますので。と、男は言う。
「せめて、駿馬が目を覚ますまでは、何とかヴィンをこっちに居させてくれませんか」
「それが弟の為になりますか?ならないでしょう」
男はそっけなく返事をする。俺との話を終えたらそのままヴィンを連れ帰るのではと思える程に。それなら、この話を終わらせなければいい。今、駿馬やヴィンに俺が出来ることは、考えること無く、声を出す事だけだ。
「駿馬の為だ。あんな怪我してまで守ったヴィンを一目も見れずにハイさよなら。なんて可哀想すぎるだろう」
「ヴィンがここに居ることで瀬波氏やあなた、病院そのものにも被害が及ぶ可能性を考えていますか?」
「それはあんたらが何とかすることだろうが」
無茶苦茶な事を言っている自覚はある。だけれど、それでも口は止まらない。今までしおらしくしていた俺がまくし立てたからか、男は沈黙を守っている。
「そもそも、あんたら家族、おかしいよ。其処までヴィンが考えてる事が分かってんなら何でそこまで追い詰めた。他に出来ることはいくらでもあったんじゃないか? アイツの声を聞かなかった振りしてたんじゃないのか!? だからアイツは一人でこんなとこまで逃げてきて、やっと笑えるようになったんだろうが!」
「俺だって笑ってるヴィンの方が良いに決まってるだろ! 母親が違うとは言え弟だぞ!」
男は声を荒げる。能面ようだった表情は歪められて、悪いことしてしまったなぁ、と罪悪感が胸を過る。
「なら、笑ってるヴィンを守ることを考えよう。アイツの記憶だって一時的なモノだって医者は言ってたし、駿馬が何とかしてくれるさ」
「瀬波氏に何が出来ると言うんだ」
「眠り姫は王子様のキスで目を覚ますって言うしな。駿馬だってあとは目を覚ますだけなんだ、アイツは目覚めるし、目覚めればヴィンに会いたがる」
「イヤ、だから……」
「あれ? 知らなかったか。ヴィンの壁をぶち壊した上に喰ったの、駿馬だぜ」
気が付けばお互い砕けた言葉遣いで、俺は悪戯が成功した子供のように笑ってしまう。そして絶句している男に俺は更に笑いかける。
「雨宮時嗣さん、アンタはどうしたいんだ。研究所からの回答じゃなく、アンタ本人の言葉が聞きたい」
彼に視線を合わせながら、そう問う。深い緑が、薄く張った水分の膜で揺れている。
「……ヴィンが、ここで。笑いながら幸せに暮らせるなら、それが一番だ」
絞り出すように小さく吐き出したその声に、俺は満足気に頷く。ぶっちゃけ、会った頃の駿馬やヴィンよりチョロかった。そんな事言ったら男が怒るかもしれないから言わないけれど。
「父さんへどう説明しよう……」と頭を抱える一回り以上年下の男に何故だか笑いが込み上げてきて、肩が揺れる。
「何笑ってるんですか、あぁもう胃が痛い……」
「ああ、悪い。それがアンタの素か」
「そうですよ、それが何か!?」
噛み付くように声を荒げる男に、何だか少し安心してタバコ一本くれよ、と頼んでみる。
「吸わないんじゃないですか」
「吸ってみたくなった」
貰ったタバコを咥え、差し出された火にタバコを近付ける。
「吸うんですよ。炙ってるだけじゃ火は付きません」
言われた通りに吸ってみたら、噎せた。
「吸えないようなんで、俺が貰いますね」
そう言って、俺の咥えていたタバコを奪い、深く深く、男は煙を吸い込んだ。

こうやって、笑っていれば、駿馬もヴィンも、何とかなるような気がしてくるから何だかおかしくなってくる。その前に、俺たちにはやることが沢山あるのだけれど。
今は嬉しい知らせを待ちながら、ここでこうしていたいのだ。せめて、彼が吸っているタバコが終わるその時まで。


——————————————————

シリアスなササセナヴィンが書きたくなって書きたいトコだけ。
いつもヴィンに振り回して「うわあああなんだってそんなことに!! 胃、胃が…っ!」みたいになってるトキが事務的な人になってるのが新鮮。でもそういう事態になったら思いもしてないことを言えるというか、冷たく割り切れるのがトキだろうなって……付け焼き刃っぽい仮面だからすぐ剥がれるけどな!



 
| 23:46 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>