Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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ガラスを挟んだ君との距離
 
「アサヒナさんって、コンタクトだったんですね」
修学旅行の撮影で、充てがわれたホテルの部屋で新人である後輩がそう呟いた。
こいつが他人を気にするなんて珍しい事もあるもんだ、と外したコンタクトの代わりに眼鏡をかけながら、後輩の姿を視界に入れる。
「眼鏡だとファインダー覗きにくいだろ、マニュアルで合わす時は指先と自分の目だけしか信用できないし」
「マニュアルで合わせてるんですか」
「出来る限りな、オートも使うけど、思う通りにピント合わない時もあるだろ?」
成る程、と後輩はベッドの上で体育座りで言語になりきらない言葉をもごもごと口には出さずに唸りつつ、いつも何かを書き込んでいるノートに新たな文言を書き綴っている。最近の若い奴は皆そうなのか、後輩に限った事なのか俺には検討もつかないのだが、この5歳年下の後輩は人に対して必要以上に壁を作っているように感じる。それで業務が滞るのであれば注意のしようもあるのだけれど、仕事に関しては問題なく行い、この時期の新人にしては上出来な部類に居るのだから、可愛くない。機械的に仕事をこなしているようにも感じるのだけれど。
『俺たちは写真屋であって写真家ではない』という持論の元この仕事を続けてきた俺に「もっと人間らしく仕事に取り組め」と言うのも憚られ、会話が途切れた部屋の重苦しい空気に俺は息苦しさを感じていた。
別の部屋であれば、こんなに気を使う事も無かったろうに、何せ今回は同室である。この先まだ数日は同じ部屋で寝泊まりをしなければいけない関係上、俺としてはもう少し、友好的に過ごしたいのだが、彼は一体どう考えているのか。感情の欠片も見当たらないその無機質な横顔を眺めていても、答えは見えてこない。
「何ですか」
沈黙を破ったのは、後輩であった。その一言に面食らった俺は「えっ」とその音、ひとつだけを返してしまう。そんな俺を見て、後輩は表情を変えることなく、平坦な声で「ずっと視線を感じていれば気にもなります」と、返すのだ。

「ああ、それは、すまん」
「で、何かありましたか」
答えの無い問いを投げかけられて、取り繕おうと思った事は、否めない。それに、俺がその問いを投げるべき人間では無かったと、言い放ってから気付いた。俺は咄嗟に「先週、お前に似た男が知らない男とホテル入って行ったの、見たんだけど、お前だよな」と口走っていた。

「……確かに、行きましたね」
相変わらずの感情が読めないトーンで彼は肯定を返す。
「お前、付き合ってる相手居たんだなー、俺それ見てちょっと安心したんだぜ?」
「何言ってるんです、彼はセフレですが」
「……は?」
「セックスフレンド。男の方が後腐れ無くて楽なんですよ」

これ以上、無駄な会話は不要です。電気消しますよ。と彼は俺の返事も聞かず、部屋の電気を消した。
俺の頭の中で何を考えているのかの欠片も分からない後輩の言葉が反響していた。暗闇に包まれた部屋のベッドの中で、俺は眠ることも出来ず、モヤモヤとした時間を過ごすこととなる。


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朝日奈さん(先輩)と朝比奈くん(後輩)。カメラマン二人組。
唐突に始まるほもが書きたかったのにコレ、くっ付くのに時間かかる奴だ。



 
| 23:43 | 突発文 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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