Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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I GOT RHYTHM
 
「おつかれさんでーす、って、アレ?サツキさん来てたんですか」

就活の合間に部室に顔を出して見れば、そこには卒業して社会人になった筈の先輩の姿。
「お、ハルナじゃん。おつかれさんで久しぶりー」
そう言って笑いながら弄っているのは誰かが持ち込んだ小さいサイズのテレビと再生専用のDVDプレイヤー。部室内に溜め込まれていたセッションを撮った映像を漁ってたらしい。TVの中では三人の男女が楽しげにセッションをしていた。
「てか、何でまたこんな微妙な時間に遊びに来たんですか。んで、何見てんです?」
「ハルナも言うようになったねー、ミナトさんに宅飲み誘われて待ち合わせ中なんだよね。暇だったから漁ってたんだ」
ハルナも参加しちゃえばいーじゃんなんて、そんな事を話していればガチャリと鳴る部室の扉。
「随分懐かしいモン見てるじゃないか」
「あれっ、ハルナちゃんも来てたんだ。一緒に飲むー?」
部室にやってきたのは俺が入学する以前にからこの部のヌシであるらしいツカサさんと、OBであるミナトさん。

「続きはウチで見ようよ」というミナトさんの一言で、ミナトさんが選んだDVD数枚と俺たちはミナトさんの車に乗り込みミナトさんのお宅へとお邪魔する事になった。一人暮らしとは思えない広めな部屋にドンと置かれた大型テレビに映されるのは、持ってきたDVDの中の一枚。
「これって、俺の定演デビューのやつじゃないですか!!」
御名答ーと笑うミナトさんは確実に分かっててやってる。サツキさんもなっつかしーと笑ってるし、ツカサさんは相変わらず黙々と酒を呷ってる。

それから何枚かのDVDをあーだこーだ言いながら酒とつまみを胃に流し込んでいれば部室で見ていたものが大画面で流れはじめる。
「コレ、部で使ってるビデオカメラを買った直後に試し撮りしたやつなんだよねー」
懐かしいなぁ、と笑いながら話すミナトさんは過去に思いを馳せるようにメガネの奥の目を細める。
「じゃぁ、このドラム叩いてるのってミナトさんなんです?」
やっぱミナトさんのドラム昔からキレッキレっスねーそんけーですーとミナトさんにベタベタと絡みはじめるのはサツキさんだ。酔っ払ったサツキさんに抱きつかれるミナトさんは「サツキ、暑苦しい」と、剥がそうとしているけれど本気ではなさそうな力加減で。じゃれ付いてるドラマー二人は放っておいて俺はもう一度その映像に目を向ける。ピアノを弾くロングヘアの女性は楽しげに笑みを浮かべ、ドラムのミナトさんは今と変わらないキレのあるリズムを刻む。そしてその二人の笑みの先には画面の中央でタップダンスをする男の姿。男は昔の映画の劇中で使われたその曲のシーンを真似するように歌いながらステップを踏んでいた。
曲は、I GOT RHYTHM 
リズムも音楽も恋もある、他に何が必要だというの?と陽気に楽しく歌われる曲。
「ちなみにね、そのピアノ弾いてんの、ツカサだよ」
サツキさんに抱きつかれながらミナトさんは俺にそう教えてくれた。
「めっちゃ笑ってるんですけど!?」
と盛大にツッコミを入れたのはサツキさんだったけれど。

ツカサさんとの関係が変わってから1年と半年位の年月が経っていたのだけれど、ツカサさんは相変わらずあまり自分の事は話してくれなかったし、ロングヘアだった頃もあったなんて知らなかった。出会った頃に比べれば、明るい曲も弾くようになっていたけれど、こんな明るい恋の歌を笑いながら弾いていることなんて、見たこともなくて。今まで得たツカサさんやミナトさんの過去を総合して考えたら、きっと、画面の中央でステップを踏む彼が、"ヤツ"なんだろうな、という見当を付ける位しか俺には出来なくて。
「ハルナ、どうかしたのか」
そう問うのはツカサさんだ。ビールと日本酒に飽きたらしいツカサさんはウイスキーを片手に面白くなさげな表情でタバコを吸っている。
「ちょっとだけ、自己嫌悪中です」
I GOT RHYTHMの演奏は終わって、今度は知らない先輩たちが違う曲を演奏している。
自己嫌悪?と首を傾げるツカサさんに頷いて。
「付き合っている筈ですよね、俺たち」
「そうだな」
「でも、俺。ツカサさんの事、全然知らない」
そう言ってコップの中のビールを飲み干せば、ツカサさんは自分のコップのウイスキーの半分を俺のコップへと流し込む。
「お前は、今の私を一番知ってると、思ってる。昔なんて気にするな」
そう言ってカチン、と一方的にコップの縁を当てればツカサさんは自分のコップの中身を呷った。俺もそれに倣って茶色い液体を喉に流し込んでチラリと隣を覗き見れば、そこには俺を見て柔らかな笑みを浮かべるツカサさんが居た。

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その音を、聞かせて。本編数年後の話。
本編書けよって話なんですが、唐突にI GOT RHYTHMで何か書きたくてこんな事に。ミナトさんとサツキさんは酒が入ったらいちゃいちゃじゃれ合ってれば良い。お前らくっつけ。そしてツカサさんは女性だったらしい。
ツカサさんの事好きだけど自信なくなるミナトくんと、ストレートにちゃんと好きなんだから心配すんなとは言えないツカサさん。

***

I Got Rhythm / Gershwin
『リズムも音楽もある、恋人も居る。他に何が必要だっていうの?』
| 23:12 | その音を、聞かせて。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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