Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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チョコレートの箱を開けよ! #08
  
  
シラベアキラ。二字で表されるその音の文字が、何処かで引っかかっていたのは確かだったけれど、
思い出すことは出来てなかった。
その文字を持つ、本人と出会うその瞬間まで。
  
  
くのり君とアキラさん
  
  
「……アンタか」
時間は少しだけ巻き戻って、夕方と言うには少しだけ早い時刻。待ち合わせに指定した、市内でチェーン展開している喫茶店はオープンしたばかりで、座席は選び放題だった。僕は二階、メゾネットのボックス席を確保して、すでに顔なじみになりつつある店員にメニューも見ずにフレンチ。といつもの注文を。店員が去った後にムツに押しつけられたアドレスを頼りにシラベアキラへボックス席にいる旨をメールした。元々はムツ同席で3人で会おうという話だった筈なのに、急にヘルプでバイトが入ったと慌てて家を出ていった。シラベアキラなる人物のメールアドレスだけ押しつけて。
そのメールを送った数分後、ボックス席からドリンクカウンターとライブ用のステージを見下ろしていれば、僕が頼んだフレンチブレンドが僕の元へ届くのと同じタイミングでシラベアキラは僕の前へ現れた。初対面ではない男が、そこにいた。
 
「あれっクノくんじゃん」だの、「えっ何、睦と同居してんの」だのとやいのやいの言ってくるシラベアキラをスルーして、押しつけられたCDと、そのCDの中から決めた一曲で作ったPVの企画書とは名ばかりの絵コンテ風の殴り書きしたメモをテーブルに出す。目ざとくビールを注文したらしいシラベアキラの前にはハートランドとロゴの入った背の高いグラス、そしてそれを満たす泡を放つ黄金色の液体。
「……3曲目ので考えてみました、低予算路線ならバンドメンバー使って公園で撮りますか」
「俺ら演技とかしたこと無いけど?」
「カメラ気にせず歩いたり、いつも通り楽器いじって貰えりゃ良いです、素材さえあればあとは何とかします」
 
「に、しても。九里君だっけ?クノって偽名っぽいなーって思ったけど、本当に偽名だったんだ」
「そういう調さんこそ、本名だったんですね」
調瑛。ついこの間一夜を共にした男の名前だった。去り際に名刺を押しつけてきた男。名刺はもう、灰になっているのだけれど。
「連絡待ってたのに」
「帰ってすぐ燃やしました。今頃タバコの吸い殻と一緒にどっかの焼却所の灰に紛れてる」と返せば、つれないなぁと調は笑う。かなりタイプだったから結構本気だったのに、と。
「僕のタイプじゃないから」
「それは残念。クノ君のタイプってどんななの?」
「胡散臭い笑い方しなくて、包容力のあるタイプ」
そう言い切ってやれば、じゃぁ睦はタイプなんだ。と更に笑みを深める。いやな奴だ。
「……この後、バイトなんでこれで」
そう言って残ったブレンドを飲み干せば、向かいに座った調もビールを飲み干す。「俺が払うよ。あと、絵コンテは仲間に見せてみるから、またメールする」
そう言って伝票を僕の手から奪い、調は席を立った。
「それとさ、睦って彼女居るよ」
あ、同居してるんなら知ってるか。といやな笑い方で席を立てずに居た僕を見下ろしながら思い出したかのように、そう口にする。「俺にしときなよ、本命には優しくするよ?」と重ね、僕に背を向けて階段を軽やかな足取りで降りていった。その姿をボックス席から見下ろしながら、タバコに手を伸ばし、火をつける。カウンターに目配せすれば、見知った店員が気づき、席へとやってくる。
「フレンチ、おかわりお願いして良い?」
いくらか年下だった筈のその店員はかしこまりました、といつもと変わらない笑顔を見せ、階段を降りていった。
 
夜のシフトが始まるまではまだもう少し時間がある。胸の奥に重くのし掛かったあの男の言葉を、流してしまわなければ。
 
 
――――――――――――――――――――
 
 
イヤナヤツだったアキラさん。
この後のバイトがEx.01の話。
 
 
| 20:30 | チョコレートの箱を開けよ! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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