Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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昨年から翌年へ

「ホント、急だったよね」
 空港からピックアップしてきた旅先で知り合った友人達を引き連れ師走の街を案内していた私は思わずそんな言葉を口から零した。そんな私の言葉に「何か予定あったんじゃないか?」と少しだけ眉を下げて問うのはセナくんだ。昨夜突然「明日そっちに行くから」というメールを受け取った私は今日の昼の便で新千歳に降り立った彼らと一年ほど振りの再会を果たしていた。
「いや、どうせ堕落した生活してたから「寧ろ外出てめいっぱい遊んでこい」って家から追い出された」
 そう答えればセナくんは苦笑を見せる。きっと、手袋も履かず冷たい空気に晒している左手で光るものに気付いたんだろう。彼はそういう所に目敏いのだ。
「なら、めいっぱい遊ばないと」
 私の言葉に同意を告げるのはセナくんの隣に立つヴィンで。楽しそうに笑う彼の姿にセナくんは優しげに笑みを浮かべて私もついつい口角が上がる。昼間から地元の観光地を引き連れていれば、辺りはすっかり暗くなっていた。イルミネーションが輝く街の中で、二人は暖かな飲み物た入ったカップを手に冷たい風の吹く道を歩いていく。セナくんはコーヒー、ヴィンはココアをそれぞれ口にしながら通りを歩いていれば私の携帯は短いメロディを鳴らすのだ。
「あ、武将からか」
 携帯の通知を見れば、大学時代の同期であり現在は私の夫でもある武将――舞島宗直からのメッセージが届いていた。
「ブショー?」
 口から出ていたらしい私の言葉にヴィンは首を傾げる。そんな彼の問いかけに「あぁ、武将はあだ名。私の旦那」と返せば彼は思わずといったように声を上げる。
「えぇ!? リツ結婚したの? 聞いてないんだけど!」
「言ってないし……でも、セナくんは気付いてたみたいだし」
 驚きを隠さずに言葉を紡ぐヴィンにそう返せば、彼の不満の矛先はセナくんへと向かう。「何でいってくれないの、シュンメ!」叱るような口調でセナくんを非難するヴィンに笑いかけたセナくんは「リツは知られたくないのかなと思って?」と嘯く。
「そもそも言う必要が感じられなかったというか」
 セナくんの言葉に私が補足すれば、ヴィンは信じられないというような視線を私へと向ける。そんな彼の非難するような視線を小さく笑っていなしながら、話題を変えるようにメッセージの内容を口にする。
「ここ数日バタバタしてて、私もすっかり忘れてたんだけど今夜大学時代の仲間とか馴染みと飲む予定だったんだよね、ニューハーフバーなんだけど嫌じゃなきゃ二人も来ない?」
 そんな私の問いに、セナくんもヴィンも告げる答えはイエスである。そんな二人の答えを聞いた私は、メッセージの送り主へと電話を架けた。

 

    ☆ ☆ ☆

 

 すっかり忘れていた大学時代の同期である浅野が営むバーで行われる予定であった年越しパーティーの事を思い出したのは、浅野からの電話で。年末に起こった一連のアレコレを知っている彼は申し訳なさげに俺へと訊ねるのだ。
「今日は来れそうなの?」

 その一連の出来事の渦中に居た張本人はといえば、昨夜突然「去年国外逃亡した時に知り合った友人がこっちに来るらしい」なんて平然と言い放ち、俺はその言葉に家で死にそうな顔をしているよりもマシだろうと彼女を送り出していた。恐らく、彼女自身も年越しパーティーの事をすっかり忘れているのだろう。あれは、衝動的なものだったようだし今日家を出る時はすっかり普通の顔でいつもの口元だけで笑う悪役じみた笑みを浮かべていたから問題はないだろう。浅野からの情報が合っていれば、彼女が衝動的に行ったその行為の引鉄となったとしか思えない男は来ないと言うし、来たとしたら流石に今日は俺も浅野も問答無用で追い出すだろう。念のため、と送ったメッセージは端的に「今夜の飲み、どうする?」とだけ。そんなメッセージを送った直後に携帯が鳴らすのは電話の着信音。通知画面には、愛や恋とは程遠い法律上の契約関係を逆手にとって結婚というラベリングを行った相手――世間一般に対して言う所の妻の名が表示されていた。
 
 普段より少しだけ楽しそうな声色で「参加者二人増えるから、海舟に言っといて」という彼女の言葉がスピーカー越しに俺の耳へと届く。「分かった、現地に来るんだな?」とだけ問えば「そういう事で」と彼女の声が帰って来る。そしてその返答に対する俺の言葉を聞こうともせず彼女はそのまま通話を終えたのだ。
「――あ、麟か。今日は俺ら二人とも参加で、もう二人増えるらしい」
 ツー、という電子音が鳴っていた携帯を操り発進する先は今日のパーティーの主催者である浅野の携帯だ。俺自身把握できていないその情報を浅野へと伝えれば、「とりあえず二人増えた事は分かったわ」という言葉が帰って来る。「――っていうか、あの子大丈夫なの?」心配の色が隠しきれない声色で重ねられた言葉に俺は「分からん」と溜息と共に返した。
 
 そんな会話を交わしたのがかれこれ数時間前の話で。あの会話から数時間後、俺は年越しパーティーが催されている麟の店でカウンターに陣取り水割りを喉に流し込んでいた。店内のテレビでは紅白が流れ、今年も相変わらずコンセプトが行方不明の勢いだけで突き進む尖り切った公営放送で様々な歌手が歌を披露していた。
「年末に奥さんをお借りしちゃってすみませんでした」
 そう言いながら俺の隣に座るのは、リツが連れてきた旅先の知己という男の一人で。一回り以上は年上だろうその男性は確か瀬波と名乗っていたか。彼はビールジョッキをカウンターに置き、スマートな動作で煙草を咥える。役者か何かなのだろうかと思うような男前な容姿の所為か、煙草に火を付けるだけでも絵になる男だった。彼を連れてきた張本人はと言えば、テーブル席の方で他の馴染みの常連やこの店の女の子――性別は皆男なのだが――そして彼女が連れてきた二人の男の片割れである、えらく顔の整った同年代の青年と談笑している。彼女はアルコールで体温が上がったのか、服の袖口を捲っていて。その左手首には包帯が巻き付けられていた。少し乱れ始めていたその布をチラリと見た俺は、頼むからうっとおしいなんて言って包帯を投げ捨てる事はしてくれるなよ。と心の中でだけ彼女へ告げる。そんな俺の目線に気付いた隣の男はどうすればいいのだろうと気遣わしげに俺へと視線を向けていた。
「あぁ、気にしないでください。元々お互いの実家帰るとかそういう事はしないって決めてましたし、寧ろリツも楽しそうだから連れ出してくれて有り難かったですよ」
 そう言って笑ってやれば、男は小さく苦笑を見せながら少しだけ言葉を探すように視線を迷わせ、何かを呑みこむようにビールを呷った。
「俺は、アイツが生きていれば何だっていいんですよ。知らないところで死なれたくないから結婚しただけで」
 初対面の男に対して何を言っているんだろう、と脳味噌のどこかで思いながらも俺はつらつらとそんな言葉を口にする。アルコールによって軽くなった口を留める者はここには居なかった。パーティーの主催であるこの店のママ――浅野は俺と隣の男を見て小さく笑みを浮かべながら注文が飛んできた酒を作り、カウンターへと出来上がったグラスを置いていく。


「あぁ、それは分かる気がする。――愛だね」

 

 そうして男はそう言って、惚れ惚れするような完璧な笑みを見せたのだ。

 

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2018年書き納めかつ2019年書き初めです。

 

2019年に書きたいものの布石を。

セナヴィン笹野と愉快な仲間達は書いてて楽しい。

若干闇が見える気がするけど見えない見えない。

 

| 18:30 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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