Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK |
| CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
恋人たちのはじめの一歩

​ 身支度を整え、玄関を出、ドアの鍵を閉めた事を確認すればアパートの階段を降りる。そうして少し歩いた所にある近所のコンビニに行けばそこには待ち合わせ相手の姿があった。
「お待たせしましたか」
 私がそう問えば彼は「いや、今来たとこ」と笑う。そんな彼の姿に「そうですか」と返し、腕時計を見ればまだ目的地へ向かう時間には少しだけ余裕があった。「ちょっと飲み物買ってきます」それだけ告げれば、彼は「行ってらっしゃーい」と咥えたタバコに火を付けながら私をコンビニの店内へと送るのだ。
 
「カフェラテ?」
 私が手にした黒のカップを見て彼はその中身を訊ねる。斜め掛け式のボディバックからタバコの箱を取り出しながら「カフェモカですよ」と返す。「そりゃぁまたえらくカワイイもん飲んでるな。あ、持とうか」彼の申し出を有り難く受け、手に持つカップを彼へ手渡す。タバコに火を付けて鞄を背中へ戻し、彼からカップを受け取ってようやく吸い込んだ煙と共に一息吐く。
「大学でコーヒーがぶ飲みしてたら胃壊したンで、ブラック飲めないんですよ」
「そりゃまた難儀な。でもイケメンがカフェモカ飲んでるとか可愛くていいね。相変わらず今日もバッチリイケメンだし」
 そう言って私の隣で笑顔のままに上機嫌でブラックコーヒーを飲みタバコを吸っている男は鮎瀬真生。何を隠そうこの春に入社した会社の先輩であり、便宜上彼氏と呼ぶような間柄の人間である。何でこうなった、というのは私が一番言いたいが、なし崩し的にこういう関係になってしまったのだから仕方がないとも思う。
「しっかし、初デートの待ち合わせがコンビニの灰皿前っていうのもあまり無いよねぇ」
 カラカラと笑いながらそんな事を言う彼に「あー、それは何というか、申し訳ないです」と告げた上で、「でも、お互い喫煙者だったらタバコ吸って待てるの、丁度良いじゃないですか。目的地にも近いですし」と言い訳じみた事を口にする。
「まぁ、俺はリツのそういう所好きだけどね」
 さらりとそう答えた彼に私は「そっすか」とだけ答えてカフェモカを飲む。そんな私に「っていうか、前に付き合ってた相手とかともこういう所で待ち合わせてたの?」と彼は問うのだ。その問に対して浮かぶのは大学時代に付き合ってた男で。「あー、」と言葉を濁す私に「初めてじゃないでしょ」と彼は更に言葉を重ねる。彼の指す初めてじゃない、は恐らく性交渉という所に掛かるのであろう。そう、私は既にこの男と寝ているのだ。
「それ、長考してる時点でちょっと……」
 彼の声に我に返った私は伸び切ったタバコの先の灰を灰皿に落としてからため息と共に彼の問いに答える「前に付き合ってた相手とはデートってした覚えが無いですね。行って居酒屋、基本ホテルか相手の家。その前は大抵駅とかそこらで。まだタバコに手を出してなかったですし」一気に捲し立てた回答に彼は渋い顔をする。
「俺が言うのも何だけど、もっと自分を大切にした方が良いんじゃないかな……?」
「ホントに先輩が何を言うって感じですね」
 そう、この付き合いが始まった切っ掛けも、盆にフェスに行くという話をしていた私が彼に感想を求められて飲みに行った挙句にその場の流れで彼と寝た事である。しかもひどく酔ったこの男、私を男だと思って誘った挙句に人の服を脱がしてイチモツが無いと喚いたのだ。それが数日前の話である。
「それを言われると痛いなぁ……って言うか本当にあの流れでよく俺と付き合ってくれるという選択肢を選んだね?」
 彼が苦笑交じりでそんな事を口にする。
「じゃぁ、やっぱり付き合うのやめます?」
 彼の言葉にそう返せば、「やだ、だってリツ最高に俺好みのイケメンだし」と即座に言葉を重ねるのだ。

「はいはい。先輩の好みはどうでも良いんですけど、そろそろ行きません? 今日映画見たいって言ったの、先輩でしょう」
 このコンビニから歩いて数分程度の場所にあるショッピングモールの中にある映画館が今日の目的地である。チケットは既に買ってあるから、あとは上映時刻に間に合うようにいけば問題は無いけれど、互いのタバコが燃え尽きた今、さっさとチケットを発券するのに越したことはない。館内にも喫煙所はあるのだし。
 
「そうだね、あ、映画終わったらご飯食べてリツの家行きたい」
「……映画終わったら考えましょう」
 
 こうして私たちは初デートなるものの一歩目を踏み出したのだ。

 

 

——————————————————

 

鮎瀬​先輩(社会人6年目)と笹野(社会人1年目)の馴れ初めとか基本情報

 

 

| 20:45 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>