Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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Let's look at the new world ! : 14

​「リツ、最近元気ないよね」
 ダイニングテーブルにノートパソコンを開き仕事を片付けていた俺に、テーブルの向かいに座り咥えタバコで紙に何やら数式を書き付けていたヴィンは唐突に口を開く。彼の言葉に言われてみれば、と頷く。リツと言うのはヴィンの同僚の姪で、数か月前に偶然出会った日本からの客人だ。
「パリから戻ってきてから……っていうか、その前にも泣いてたりしてたけど。シオンに連絡取ってもパリでは変わりなかったっていうし」
 パリに住む俺の息子の名前を出しながら、彼はどうしたんだろうなぁと眉を下げる。俺も彼女の不調の理由を考え、一つの結果に行き当たる。
「90日だ」
 俺の言葉にヴィンは一度首を傾げて、咥えていたタバコを口からポロリと落としかける。
「あっ、ああー!! そっか、それか!」
 ヴィンもやっと気付いたらしい。大声を上げて立ち上がったと思えば、落としかけたタバコを灰皿に押し付けてヘルメットとキーをその他身の回りのものが入ったボディバッグを引っ掴み、そのままバタバタと外へと駆けていく。そんなヴィンの後ろ姿を見つめ、俺はパソコンの隣に置いてあった赤と白の紙箱からタバコを一本取り出し咥えて火を付ける。そして、恐らく彼が向かった先に居る彼女がこの国用にと用意したプリペイドの携帯宛にメッセージを送る。日本語の入力は出来ないから、簡単な英語で。彼女は彼の目的地に居るのだろうか。ふらふらと旅行しては戻って来る生活をしている彼女の現在地を俺たちは知らない。俺は煙を吐き出して、今のうちに仕事を片付けてしまおうと再びパソコンへと向き直るのだ。
 
 
 叔父の家のリビングで、叔父であるサトシさんから使わないからあげると渡された携帯が小さな電子音を立てる。この国での連絡手段として使っているこの携帯には、この地で知り合った叔父の同僚やその知人達からの連絡が時折入るのだ。そんな携帯を手に取れば、表示されていたのはこの地で偶然にも知り合った一回り以上年上の友人から出された英語の短いメッセージであった。曰く「ヴィンがそっち行ったわ」
「えっ、ちょっ、何で」
 思わず口から出てしまった声は私以外誰も居ないリビングの中で響く。叔父は仕事に行っているし、私はそろそろ現実に戻るための荷造りをしている最中だった。ビザが無いままに過ごせる時間もリミットが迫っているのだ。そんな中で届いたセナくんからのメッセージに私が思わず突っ込んでしまったそのタイミングで、ドアチャイムが私を呼ぶ。「ホントに来た……?」ポロリと零れた言葉と共に私はそろりとドアを開ける。そこに立っていたのはヘルメットを被っていたからだろう。普段からふわりと癖の付いた金髪がいつもよりもクシャクシャになっているヴィンの姿だった。
「っていうか仕事は」
「慌てて駆け付けた相手に掛ける言葉がそれ?」
 挨拶もなくその疑問を呟いた私にヴィンは眉を下げながら呆れたようにそう返す。「ちょっとした長期休み中なの、ハイ、携帯とコレ持って。必要ならカメラも」コレ、と言って渡してくるのはヘルメットで。恐らくどこかへ連れ出されるのだろう。
 少しだけ外に出るだけだろう、と小さなカメラバッグにカメラと携帯、財布にタバコを突っ込めば、彼から渡されたヘルメットを被るように言われ、彼が運転してきたらしい有名メーカーのロゴが輝く単車の座席に座るよう促される。ヴィンの後ろにしがみつけば「それじゃ、出すよ!」という言葉と共に、二つの車輪は加速を始めるのだ。
 
「着いたよ」
 そんな言葉と共にバイクを停めた場所は、大きなドームを持つ建物だった。それは叔父や彼が勤める施設ではなく、市内にあるプラネタリウム施設である。プラネタリウムであれば、彼の勤務先にもあるだろうに、とその意図に首を傾げれば、「たまには良いでしょ」と笑ってそのままその施設の入口へと足を進める。施設の中に入れば、ヴィンは「いいから」と、私の分までチケット代を支払い、既に入場が始まっているらしいドームの中へと進んでいく。そんなヴィンの後ろをついて行けば、巨大なドームの中、連なった座席の一つにヴィンは座り、ヴィンに言われるままに指定された席へと私も座る事となるのだ。
「それにしても、唐突にどうしたの」
 ヴィンが家へ来てからずっと抱いていた疑問を彼に投げれば「思い出作り?」なんて笑うのだ。それより、始まるよ。と言われれば私は言葉を重ねることが出来ずに、黙って人工的な星空を眺める他無かった。
 上映が終わり、再びヴィンが運転するバイクの後ろに乗せられれば、次に着くのは喫茶店。路面に出ているテーブル席に座り、ヴィンはタバコの箱を取り出す。私もそれに倣いこの国で買ったタバコを取り出すの。
「で、なんだっていうの」
 再びヴィンへと疑問を投げれば「プラネタリウム好きでしょ?」と首を傾げられる。
「好きだけどね! この状況が私には理解できないので言語化してくれ、お願いだから」
 私の懇願にヴィンは少しだけ考えてから、「最初のキッカケはパリから帰ってきたあとのリツが元気無かったからなんだけどさ」と切り出す。そんなにわかりやすかったのだろうか、と眉を顰める。そんな私をよそに、彼は言葉を続けるのだ。
「で、よく考えたらそろそろリツ、帰国する時期だよね?」
 叱責するようにそう重ねられた言葉に、私は苦笑を浮かべるしかない。「何も言わずに帰るつもりだった?」とダメ押しされたその言葉に私は恐る恐る頷く。湿っぽい話になるのは嫌だったし、帰る事を告げれば、その事実が現実にさせられてしまう気がしたのだ。そんな私の反応に「やっぱり!」と少しだけ怒気を孕んだ口調で彼は少しだけ眉を上げる。
「で、いつの飛行機」
 淡々と事実だけを確認するヴィンに私も静かに「来週の日曜」と答えその日付を口にする。そんな私の回答に「じゃぁ、荷造りだけは時間あげるから、それまでの間はウチに泊まってよ」と、彼は携帯を操作しながら告げる。それは依頼の形だけは取っていたものの、その口ぶりは命令の語調だった。「シュンメとサトシにもメール送ったから」そこまで言われてしまった私は、渋々その依頼を了承するしか無かった。

「おかえり」
 あの後、喫茶店で各々が頼んだ飲み物を飲みきって、私はそのままヴィンの運転で彼とセナくんが生活する家へと連れてこられる。どうにでもなれ、とヴィンに付き従い玄関を通り、この数ヶ月何度も訪れたリビングに入ればセナくんがヴィンと私を迎え入れる。
「ただいま! リツも連れてきたよ!」

 ヴィンは無邪気さを感じさせる声色でそう告げて、私はそんな二人に「お世話になります?」と笑うしかなかった。

 

 

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笹野の帰国が近づいている。

 

| 21:27 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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