Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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万馬券にはならずとも

「それで、何でこうなっているんですか!」
俺は思わず大声を上げる。そんな俺に、目の前の男女は互いの顔を見合わせた後に、俺に向かい、こう告げるのだ
 
「誘ったから」「誘われたから」
 
俺の背後ではファンファーレが鳴り響き、俺の知っている馬よりも更にデカい馬が人を乗せた鉄製のそりを曳き始めるのだ。俺たちは今、帯広に居る。
 
「で、リツどうよ」
「上々、負けない戦はしない主義だし」
「お、やるじゃん。流石俺が教えてやっただけあるな」
「どこかの誰かさんが引き留めなきゃ前行ってたのにさー、喫煙所でレース結果を見ることになるとはね」
 
全くこれだから。と男にリツと呼ばれた女は俺に冷たい視線を投げつける。ラフなジーンズにTシャツ、カーキ色のMA-1を羽織り予想誌片手にタバコを咥える彼女の姿は完全に競馬場に居るオッサンそのものだ。
「リツも競馬行きたいって前から言ってたし、お前だって知らない仲では無いだろ」
恋人である男が煙を吐きつつ俺にそんな言葉を投げながら隣に立つ女の予想誌を覗き見る。
「これってデートじゃなかったんですか!?」
「声がデカイ」
女は冷たい視線をそのままに、それだけ言い捨て咥えていたタバコを灰皿の中へと投げ込み俺の横を通り過ぎる「パドック行かなくて良いの? 私行くから」とだけ言い残して。
 
「それで、先輩は何を思ってこんなことをしたって言うんですか」
「いや、お前がリツに苦手意識持ってそうだったから恋人としては親戚とも仲良くして欲しくて?」
白々しい笑みを浮かべながらそう告げる彼に「で、本当の所は」と返せば「競馬ならリツの方が相方としては楽しい」と返される。
「でしょうね! どうせ俺は初めての競馬場ですよ。でも先輩が面白いって言うから一緒に行きたかったのに」
「来てるだろ」
「余計なのが付いてきてるじゃないですか!」
 
声を低くして彼に不満を告げれば「でもアレでもアイツ遠慮してるんだぞ」と彼は煙草を灰皿に投げ込みながら告げる。
「遠慮するなら来なければいいじゃないですか。笹野さんだってコレがデートだってわかってるんでしょう」
「リツも最初は嫌がっててな、俺が無理矢理誘ったんだよ。呑み1回で手を打った」
「犯人は先輩ですか……それなら笹野さんはそこまで悪くないですね……」
思わずため息が漏れる。そんな俺を見て彼は少し背伸びをして俺の頭をくしゃりと一度だけ撫でる。
「仲良くしろよ、折角ここまで来たんだから楽しまないと損だろ」
ニヤリと笑って彼は言葉を重ねる。「ビギナーズラックでもリツの指導を請うてでも1レース当ててみろよ、そうしたら夜はサービスしてやるよ」と。
 
「さぁて、俺は中でパドックの中継見るけど、青嗣はどうする?」
「笹野さんの所行ってきます!」
俺がそう宣言をすれば、彼は「良い心掛けだな」なんて言って笑うのだ。建物内に戻っていく先輩の後ろ姿を見送った俺は、笹野さんの居るパドックへと向かう。
 
「笹野さん!俺に競馬を教えてください!!」
真剣な面持ちで出走ゲートに向かう馬を見つめる彼女にそう声を掛ければ、一瞬キョトンとした顔をし、次の瞬間には破顔する。
「うひろ君に焚き付けられたか、よし来た。大穴でレースが引っ繰り返らない限り負けない賭け方を教えて進ぜよう」
 
そういって悪戯っぽく笑う彼女は先輩によく似ていた。
 

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笹野は堅実に勝ちを積んでくタイプ。

ばんえい競馬行ってきましたがとても楽しかったです。

 

 

| 21:38 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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