Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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それは青春の日々 : 高校二年 秋

「遂にこの季節がやって来た訳だが」
放課後、稽古前の準備時間に剣道着姿の笹野は防具を付けようともせずに深刻な声色でそう口にする。俺を筆頭に九里も知花もこの時期か。と彼女の言葉に頷いた。
「この季節って?」とこの剣道部で初めて秋を迎える後輩が首を傾げれば九里は彼に「新人戦だよ」とこの季節の真意を告げるのだ。
「俺らが全道行ける機会なんて新人戦位しか無いからなぁ」
「そーそー、毎年新人戦で全道行ってるから僕らの代でそれをストップ出来ないしなぁ」
俺と部長である九里が口々にそう言えば、更に笹野から「っつーか、私らの代でストップさせたら元部長に何言われるかわかったモンじゃないっつの」なんて言葉まで被さる。今回の新人戦での団体戦、男子は俺ら二年と一年生で五人揃ってのフルメンツ、女子は笹野と一年二人の出場ギリギリラインである。
「ま、女子は心配してないけど」という笹野に「リツ先輩それめちゃくちゃプレッシャーなんですけど」と困り顔の後輩女子。
「っていうか不戦敗で黒星二つ付いてるから先輩への言い訳があるって意味だから大丈夫大丈夫」ケラケラ笑う笹野に「何が大丈夫なんだよ」と突っ込みを入れるのは俺の仕事だ。九里と知花は面白がって笑ってやがるのだ。
 
「でもさ、元部長と十河センパイ、僕らの全道出場で賭けしてるみたいだよ」
思い出したように知花はそう告げる。元部長は兎も角、隣で柔道部を率いていた十河センパイがそういうコトに乗る人だとは思わなかった。「何やってんだ、受験生」と呆れた声を出すのは笹野だ。
「おーっす、稽古付けに来てやったぞ」
噂をすれば何とやら。受験生である筈の元部長が道場の引き戸をガラリと開け放ち顔を見せる。「受験生何やってんスか」と冷たく声を掛けるのは笹野。「十河センパイと賭けてんですって?」と笑うのは九里だ。笹野も九里も先輩に対してフランク過ぎやしないかとヒヤヒヤさせられる事が多い。中学時代の部活で後輩がこんなだったら完全に指導入ってたよな。なんて割と上下に厳しかった中学時代の剣道部をぼんやりと思い出す。
「あ、あの賭けな。俺も十河も出場に賭けようとして賭けになんなかったから辞めた」
「じゃぁ私が全道行けないに一口賭けます」
笹野のその言葉には流石に先輩も笹野の頭を軽くはたく。
「暴力はんたーい」わざとらしく痛がる笹野に先輩は冷たく「お前の存在自体が暴力勢力だろうが」と斬り捨てる。
「しっかし、先輩がそんなに私らの代を買ってくれてるとは思わなかったですね」
やっとタレを身体に巻き付け始めた笹野はそう言って笑い、元部長はその笹野の笑みを見ながら「買ってるんじゃない、俺が稽古付けて全道行かないなんて言語道断なだけだ」と意地悪く笑う。
「ヨーシキョウモハリキッテイクゾー、オー」
感情が微塵にも感じられない声を発して笹野は胴を付け、やっと竹刀を握るのだ。
 
新人戦まであと一ヶ月。
 

 

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あみだ企画で作ったコピー本より。

新人戦位でしか上に上がれなかったのは我が剣道部の実話。

 

 

 

| 22:48 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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