Untitled.短文保管庫。
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チョコレートの箱を開けよ! #06

「PV?」

「うんそう、ミュージックビデオ」
久々に専門時代の同期である瑛に会ったその席で、その話は出てきた。
 
そごうサンとアキラさん


俺とは違い、専門を出た後普通に就職したそいつは、スーツ姿で専門時代と変わらないさわやかだがどこか胡散臭い笑顔を浮かべ、そう頷いた。
首都圏以北最大の歓楽街と言われるその街の入り口近くにあるダイニングバーで待ち合わせをしたそいつは、ごめんごめん、と笑いながらカウンターの端に陣取る俺の隣に座り、俺の注文内容を確認する。「昔と同じく飲み放題セット。食いモンはまだ頼んでない」「じゃ、とりあえずハイボールで。アヒージョ頼んで良い?」俺の同意を確認すれば、すぐさま店員を捕まえてハイボールとアヒージョを頼む。「あ、フィッシュアンドチップスも。で、ゴットファーザーも」と横から追加すれば、店員はかしこまりました、と笑顔で俺たちの元を離れていった。
「ごめんなー、予想以上に仕事長引いた」
「いいよ、そんな待ってねーし」せいぜいビール一杯分程度の遅刻だ。こんなもの遅刻のうちに入らない。
「で、久々に会おうってお前から言うとか珍しいな。何かあったか?」
残り少ないビールを流し込みながら尋ねれば、そいつは笑みに胡散臭さをさらに滲ませて、こう返す。
「睦にMV作ってほしくって」と。そして冒頭へ戻る。
「お前映画好きじゃん?」
「おう」
「写真撮ってるし、たまにアー写とかジャケット作ってんじゃん?」
「おう」
「だからMVもお願いできないかなーって思って?」
「おう……おう?」
曰く、専門時代の仲間と趣味でバンドをやっている瑛は折角だから一本位MVを作ってみたいと仲間達と話していた。自分達でやろうにも勝手が分からず、そういえば俺が居たよな、と思い至った。そしてメンバーの中で俺と一番仲が良かった瑛が代表してその話を持ってきた。とまぁ、そんな事らしい。
「俺、写真はやるけど映像はやったことねーよ?」
「じゃぁ新しい第一歩を踏み出すときだな」
「ていうか、俺に決定な訳?」
「お前以外にツテがないね」
是が非でもやらせたいらしい。隣に座る瑛は笑顔を崩さずに俺の遠回しなお断りを蹴散らしていく。
俺以外に思い当たらないから俺にやれ、なんて無茶苦茶な事を言い始める瑛に思わず渋い顔をしてしまう。写真と映像はまた違うし、写真すら趣味の領域だというのに映像をやれなんてまた無理なことを言いやがる、と。そんな渋面で瑛の笑顔を見やれば、脳内に浮かぶのは毎日のように見ている顔。すまん、俺には無理だから、お前を巻き込ませてもらう。と、脳内に浮かんだ顔に軽い謝罪をしつつ、にやり、と笑いながら瑛の笑顔に向かい合う。
「ソレさ、俺の知り合いじゃダメ?」と。
 
「知り合い?」
きょとんと首を傾げる瑛に肯定の返事を返して「そ、映像系の学部卒業してる奴なんだけど、どうよ」と続ける。
「え、プロ?」と訊き返す瑛に「違う違う、俺と同じフリーター。映画好きこじらせて映像勉強して就活放り投げて映画館でバイトしてる奴」と笑う。
「睦の紹介でどうにかなるならその人でも俺らは構わないよ」
「じゃ、話しとく」
「近々会う予定でもあるの?」
「会うっつーか、一緒に住んでっから」
そのひと言に瑛は「彼女か」と何処か楽しげな笑みを浮かべる。
「バカ、男だよ。ルームシェアしてんだ」
PVの話はそこで一区切りし、その後はお互いの近況を酒を交わしつつ笑い合った。

「じゃ、同居人クンに例の話よろしく」
「おう、また連絡する」

そう言って店を出て、瑛の後ろ姿を見送りつつ、ため息をひとつ。
さて、楓に何て説明しようか。鞄の中に無理矢理ねじ込まれた彼らのバンドの曲が数曲入ったCDが、俺の足取りを重くさせた。

――――――――――――――――――――

瑛さんはこの後そこそこに出張ってくる予定。
安くて飯のうまいバーは最強。
 
| 19:18 | チョコレートの箱を開けよ! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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