Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK |
| CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
それは青春の日々 : 高校二年 夏

「先輩、合宿ってどんな感じですか?」
後輩である彼女がそう口にしたのは、無事何人かの後輩が入って、先輩方が引退をし、北の大地でも夏の暑さが厳しくなり始め、夏休みに入った直後の事だった。朝からの稽古が終わり、防具や竹刀の手入れをしながら、何人かいる後輩の一人がそう問えば、ゴミ箱の前で分解した竹刀を削っている笹野が「海辺のリゾートで四泊五日のアバンチュールだぞー」と笑う。
「そうそう、最終日には山に登るし」
笹野の言葉に重ねて部長となった九里はそう言い、もう一人の同期も「バーベキューもするぜ?」と笑う。
その言葉を正確に訳すとこうだ。漁港の民宿に泊まり四泊五日の過酷な基礎練習を朝から晩まで行い早朝にはランニング、最終日は世界最高峰の名を付けられたかかり稽古で苛められるが、四日目の晩飯は若者に対しての飴として冷凍マトンオンリーの焼き肉が行われる。僕らも先輩から海辺のリゾートだぞーだの山登りがあるんだぞーだのと騙されえらい目に遭ったのだけれど、この部活のバカバカしい伝統は守りたい。きっと後輩たちも来年の今頃には居るであろう自分の後輩にそう言って笑うのだ。
後輩はきょとんとして、「そうなんですね」と小さく笑う。そんな彼女に僕はすこしだけ苦笑して。けれど、僕も大概性格が悪いので本当の話をするつもりもない。
 
「マサ、終わったか?」
そんな話をしていれば、外に開け放っていた道場の非常扉から声をかけるのは幼なじみの星央。彼は弓道部に所属していて僕や笹野とは同じクラスでもある。今日はお互い部活が昼には終わるから、と昼を食べに行く約束をしてたのだ。
「終わった終わった。ナカバももう帰れるの?」
「おう。そっちは……まだ着替えてもいないのか」
「稽古は終わってるしすぐ用意するよ、ちょっと待ってて」
僕がそう言って更衣室に向かうのを見たナカバは「九里と笹野も来るか? チカとラーメン行くんだけど」と僕の他に剣道部の中ではある程度仲の良い二人にも声をかける。二人も二人で異口同音に「行く!」と答えばたばたと慌ただしく動き出した。
 
数人の後輩を置いて剣道場を飛び出した僕らは自転車置き場で待つナカバの元へと駆ける。平日とはいえ学校の近くにあるラーメン屋はそこそこ人気の店で、僕らと同じことを考える同じ学校の生徒だったり、近くに住む親子連れだったり、昼飯時の会社員で埋まる。少し待つことになると言われて九里と笹野は当たり前のようにベンチに腰を下ろし、僕とナカバは座った二人の前に立つ。
「そういや後輩と何楽しそうに話してたんだ?」
暇な待ち時間を潰す為かナカバはそう話を切り出す。それに答えるのは笹野の「合宿どんなって聞かれたからさ」という返答だ。
「あー、マサが珍しくぐったりして帰ってきたあの合宿か」
「チカって見かけによらず結構体力オバケだもんな」
「笹野に言われたくない」
ナカバと笹野が好き勝手言うのを見て九里も笑うもんだから腹立たしい。明日は二人とも練習試合で突き飛ばしてやろう。そう心の中でだけ決意して、「九里も笹野も酷い先輩だから後輩ちゃんのこと騙してさー」と続ける。
「チカも訂正しなかったから同罪っしょ」
「そーだそーだ」
笹野と九里が口々にそう言って「積極的に騙してないからいいんだよ」と笑って見せる。おどけながら「おーコワッ」なんてふざける笹野に冷たい目線を投げていれば、「それにしてもどうやって騙すんだ?」とナカバは興味津々で。
「漁港の民宿を海辺のリゾートって言い換えてあとは面白可笑しく脚色する感じ? 山登りとか、バーベキューとかね」
僕からうちの部で行われる合宿の詳細を聞いているナカバは「ひっでぇの」と笑う。
「うちの部の伝統ですからぁー私らだって去年先輩に一杯食わされたワケだし、来年になればあの子らが下にそうやって話していくんだよ」
笹野はそう言って笑い、ナカバもそんなもんだよなと笑う。九里や僕もそうそう。と同意して何がおかしい訳でもないけれどつられて笑ってしまうのだ。
そうやって四人で笑っていれば、店員が席が空いた事を知らせに僕らを呼びに来る。
 
こうして僕らの夏は幕を開けるのだ。

 

 

——————————————————

 

 

あみだ企画で作ったコピー本より。

残りは秋と冬があります。

 

 

| 22:44 | - | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>