Untitled.短文保管庫。
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それは青春の日々 : 高校二年 春

本当に政令指定都市内であるのかと、時折疑問に思う位、この学校の周りには何もない。
いや、なにもない訳ではないか。タマネギ畑に囲まれて、季節を問わずに強い風が吹き荒れる。少し向こうにある牧場から漂う有機的な匂いは春の風物詩だ。
自転車で通えば向かい風が自転車を止め、バスを使えば部活が終わった頃には学校前にバスが止まってくれない。正直に言えば「不便」の二文字しか頭には浮かばない。


 けれど、僕らはこのタマネギ畑の真ん中で3年間の高校生活を送るのだ。

 

 

「で、どうする」

 
稽古を終えた道場の中、壁際に積まれた柔道用のビニール畳の上で笹野は袴姿のまま僕らの方へつまらなそうに問いかける。先輩が居るというのに笹野は畳の上から起き上がろうともしない。運動部にしては上下関係があまりないような所だし、そもそも笹野は先輩だからと言って敬意を払うタイプでもない。つまり、社会生活には向かないタイプだ。
「普通にやれば良いんじゃない?」
笹野の「どうする」が何を指すのかを知っている僕はそれだけを答え、同期達も頷く。それに異を唱えるのが先輩だ。
「お前ら新入生獲得に意欲は無いのか! 団体戦出れるからって新入部員獲得を疎かにしようとしてねぇだろうな?」

 

季節は春、一つ上の先輩は三年生へと進級し、僕らは二年生となるこの季節、春休みも終わりに近づくこの時期に僕らが考える事と言えば、新入生をどう獲得するか、だ。部活動の紹介の場となる新入生歓迎会、そしてそこから数週間に渡る部活動見学会、仮入部からの入部。その入部まで漕ぎ着ける新入生は一体何人残るのか。僕らがやる気の欠片もなく相談をしているのがその新入部員獲得戦線の緒戦となる新入生歓迎会での部活紹介をどうするか、という話で。
「俺らは春の大会が終わったら卒業なんだからお前らがウチの部を引っ張って行くんだぞ、特に笹野! 忘れそうになるけどお前唯一の女子部員なんだから一年女子引っ張り込んで団体戦出れるようにしろよ!」
「えー」
三人居る先輩のうち二人は稽古が終わればそそくさと帰り、残っているのは現在の部長である先輩一人。その他は僕を含めて四人の同期で。その中でも一番面倒臭そうに畳の上で寝転がる笹野はこの部唯一の女子部員。団体戦に出る為には少なくとも同性の部員が三人必要である為に彼女は最低二人の一年女子を引っ張り込まなければいけない計算になる。彼女の余りのやる気のない不満声に先輩も流石に畳から彼女を引きずり落とす。
「先輩暴力はいかんですよ」
「お前がやる気なさすぎるんだろうが!」
腕を引かれてそのまま畳から板張りの床へ落ちた笹野は自分を落とした先輩へ苦言を呈するが、逆に一喝される。強打したらしい腰をさすりながら仕方ないという不本意丸出しの顔で僕らの元へとのろのろと向かって僕の向かいに腰を下ろす。

 

「で、どうするの」
 先ほど笹野が口にした言葉を今度は同期の知花が口にする。
「っていうか、剣道部なんてクサイクサイクサイのサンケーでしょう。女子が来るかっていう話ですよ」
「先生から新入生の中学の部活情報貰ってんだよ。喜べ笹野、経験者女子が二人居る」
 笹野の不満に先輩はそう言ってニヤリと笑う。「可愛い子スか?」と笹野が重ねれば先輩の答えはイエス。
「よし、野郎共新歓で良いトコ見せて可愛い女の子を我が部に!」
 吠えるようにそんな事を言いながら立ち上がり、拳を突き上げる笹野に先輩はニヤニヤと笑い、「ホントは写真見てねーんだわ」と僕にだけ耳打ちする。先輩の掌の上で転がされている笹野は何も知らないままに、先ほどとは打って変わって真剣そのものの表情でどんな紹介をすれば格好いい剣道部に見えるかと知花やもう一人の同期と相談している。

 

「なぁ、九里と笹野が防具付けないで殺陣したら良いんじゃね?」
やっとやる気になった笹野を見て今思いついたとでも言うように先輩はそんな事を言い出す。この人最初からそこに落とす積りだったな。先輩のアイデアに知花と同期はナルホド! とでも言いたいような顔をし、逆に僕と担がれた事に気付いた笹野が顔を顰める。確かに僕と笹野は稽古が終わった後にチャンバラごっこなんて言いながら殺陣の真似事をしたりしているけれど、だからってそれは無い。それは無いけれど、文句を言おうと口を開こうとした笹野に先輩は悪い笑い方で「それなら多数決で決めようぜ」と笹野の言葉を封じる。場に居るのは五人。先輩はその中の二人を味方につけている。笹野の睨み程度で先輩が提案した「面白い案」から引き下がるようなヤワな奴らでもない。そんな事を頭の端で考えて、結局やらされるのであろう殺陣の決定を下すために僕らは多数決を始めるのだ。

 

 

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あみだ企画で作ったコピー本より。

高校時代の笹野が書きたくなっただけ。

 

 

| 21:34 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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