Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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チョコレートの箱を開けよ! #05

 
恋なんてしても、ロクな事がない。

そう思って生きてきたし、この先もそうなのだろう。
僕は、きっと。どこか欠けているのだ。

 
くのり君と恋心


その日、ホテルの一室には僕と、もう一人の男がいた。
名前もロクに知らない男とその日限りの関係を結ぶ。
身体だけの関係は楽だ。後腐れもなく、面倒な感情もそこにはない。連絡先など交換もしないし、もし相手から連絡先を渡されたところでポケットの奥底に突っ込み、洗濯機に一緒に突っ込まれる運命だ。運が悪ければムツに怒られる。
 
コトを終えた隣の男は満足げに寝息を立て、僕はそっとベッドから這いだして床に投げ捨てられたパンツだけを身に着け、灰皿の隣に陣取る。僕が愛飲しているケツから頭まで黒い煙草にジッポーで火をつける。ふわり、と匂い立つどこか甘い独特の香りは、初恋の人を思い出させた。
 
「You are a very stylish boy. That we end stylishly.」
僕の最初の男だった人は、そう言って僕の前から姿を消した。有名な映画の台詞を口にしながら。7歳程年の離れた男は、就職を機に僕を捨てていった。5年間、僕に色々な事を教え込んでおいて、別れるときは「粋に別れよう」だなんて映画の台詞を吐きながら。
煙草も、セックスも、その男に教えられた。映画を沢山観るようになったのも、映像作品に関わる大学へと進学したのも、彼の教育の賜物だ。僕はその時のできるだけの愛を持って彼を愛していた。だけれど彼と僕との7年の違いはきっと埋めることができなかったのだ。
彼が今何をしているのかは知らない。でも、きっと映画から離れてはいないのだろうとも、思う。彼があの頃一番愛していたのは映画だったし、僕は映画を愛している彼が好きだったのだから。
 
机に置かれた腕時計は午前6時を指し示していた。
そろそろ、夜の魔法も解ける頃だ。
 
「クノくん、起きてたんだ」
もぞり、とベッドで身じろぎする男に、同居人のムツから胡散臭い、と言われる営業スマイルを浮かべながら「おはよ」と返す。
昨夜の相手はベッドから出ると見違えるようなテキパキとした動きで身支度をはじめ、すっかりパキッとしたサラリーマンへと変貌する。その動きを見ながら、僕も脱ぎ捨ててあったジーンズとシャツを着込み、とりあえずは外に出ても問題ない姿になっていた。男は出ようか、と僕を促して、朝の歓楽街へと足を向けた。
 
「また、会ってくれるかな?」
優男然とした、昨夜の相手は名刺を取り出し裏にサラリと何か書き足して僕に握らせる。
「いつもそうやってんの?」
皮肉っぽく返せばまさか。と男は笑う。「クノくんは俺の好みだからだよ」と。
「気が向いたら」
嘘八百で返した僕は「またね」と手を振る男に背を向け、閑散とした朝の歓楽街を進み、家へと帰るのだ。
特定の相手を作らない、恋なんてもうしない。そんなことを思ったって僕はどうしようもなく誰かを求める。
 
求めたところで、ロクな事にならない癖に、それでも僕は。彼に触れたいし、彼に求められたいし、彼のものになりたいのだ。
そんなことを彼に言えばきっと、「水飲んで寝ろ酔っぱらい」なんて取り合ってもらえないんだろうけれど。
 
――――――――――――――――――――
 
九里くんのほろ苦い初恋。
初めての男については色々と考えてる。
 
| 21:41 | チョコレートの箱を開けよ! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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