Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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Let's look at the new world ! : 12

「合鍵も持ってるんだから勝手に入って来てもいいのに」
互いに仕事が休みである日の昼下がり、恋人の家を訊ねればドアを開けて彼は笑う。
「サトシにドアを開けて欲しいんだって」
「全く、しょうがない奴だな」
そう言って彼は笑みを深めるのだ。
 
「そういえば、リツカは?」
彼の家に来るのも久しくなってしまった理由の一つでもある彼の姪の名を上げれば「葎花ちゃんは最近駿馬君達にべったりだよ。今日からパリに行くとか言ってたかな? 紫苑君に案内して貰うんだとかで」という返答。
「そう言えば観光で来てたんだもんな……旅行してる形跡があんまり見えないけど」
俺たちの職場に併設されている科学館に入り浸っている所を度々見かける上に、最近はヴィンやサトシ、ヴェルナー辺りに連れられて職員食堂にちゃっかり座っている事もある。ガサツでぶっきら棒で毒を吐くタイプの女ではあるが、どこか野生動物みたいな所があって見かけたら構いたくなるのは解る。言葉が不得手でも意思疎通をしようとする意思が見えるのもポイントが高いのだ。その中でも日本語が出来るサトシやヴィンや駿馬とよく居るのは当然の結果だろう。俺はと言えば数週間前に彼女と軽い格闘技戦をやった時にうちの部署に勧誘したのを切っ掛けに完全に警戒されている。俺が近くに来ようものなら凄まじい勢いで物理的に距離を置かれるのだ。
「葎花ちゃんが来た後、格臣くんからこっちに来た経緯は軽くメールで来たもんだからちょっと心配してたんだけど、案外元気で楽しんでるから良いんじゃないかな?」
「俺は避けられてるけどな? っていうか、タダオミっていうのは誰?」
リビングへと入り、俺はソファへ座り、サトシは空のマグカップへ用意してあったコーヒーを注いで俺の隣に座りながら俺の分のそれを渡す。
「あれは完全にエルマーのミスだろ。格臣くんは葎花ちゃんの弟。しっかりしてる子でね、姉ちゃんをよろしくって」
「リツカにしっかりした弟ねぇ……それにしてもリツカがこっちに来た経緯ってどういう意味? 仕事辞めて次に移る前のバカンスなんだろ?」
意味ありげに使われた『経緯』の言葉に俺は首を傾げる。初めて会った夜に「仕事辞めて次にすぐ移るのも癪だったんで観光ですよ」と笑った彼女を俺は覚えている。
「んー、何かね、仕事辞める前結構鬱っぽかったらしくてね。情緒がかなりヤバかったみたい」
「全くそんな風には見えないけど、もしかして俺の勧誘めちゃくちゃ警戒されてるのってそこら辺関係してる?」
「かもねぇ、元々葎花ちゃんって弱味を見せないタイプの子だったし、無理もしがちだったからなぁ……この間シュンメからも夜中にいきなり泣き出してたって話聞いたし。やっぱり弱ってるんだろうね」
「弱味見せないってホント、どこの野生動物だよ」
「だよねー、僕もたまにそれは思うよ」
叔父がそう思う位だ、俺たちの彼女への感想は多分全く間違ってはいない。それにしても「サトシってあんまり家族の話してなかったけど、リツカの話だけはよくするよな」ふと浮かんだ疑問を俺はサトシに投げかける。その問いを投げられたサトシは「そうだなぁ」なんて、目を細めて遠くを見て何かを考える。答えを探すように。
 
「まだ僕が若くて、葎花ちゃんも小さかった頃。それこそネットもメールもまだこんなに便利じゃなかった頃、僕の話を一番楽しそうに聞いてくれたのが葎花ちゃんだったからかな」
そういえばこの年上の恋人は大人しそうな見た目にしては存外話好きで話を聞いてくれる人間が好きだった。しかも、その内容が万人向けではない話題も含めて。俺は彼のそういう所も含めて好きだから気にはならないし、その話をちゃんと聞いていたという所からこの交際が始まったとも言えるのもあって、その感覚を理解できた。
きっと、その頃のサトシの話を聞いてくれる唯一の相手だったんだろう。
「成程な、確かにリツカってそういう所あるよな」俺が頷けば、サトシは「あ、僕から葎花ちゃんに鞍替えする気だな?」とわざとらしく機嫌を悪くして見せる。
「いや、俺より強い女はちょっと……っていうか、リツカは同僚としてほしい。アイツ絶対仕事できるタイプだろ」
「それもダメ、だから葎花ちゃんが逃げるんだよ」
俺の返答にサトシは笑い、俺はサトシの頬に触れるだけのキスをひとつ落とす。
 
「で、リツカはパリなんだから今夜は泊まっていいんだろ?」
「そのつもりで来たくせに」
 
「まだまだ外は明るいんですけど?」なんて笑うサトシに「良いだろ、久々なんだから」とだけ返せば、しょうがないなぁと彼は笑う。
 
こんな些細な幸せが、俺たちの日常を作るのだ。

 

 

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エルマーと久慈さん。

そう言えばカプとして書いてなかったなとふと気づいた。

格臣は割と心配性だしシスコンです。

多分笹野が渡欧して2か月くらいは経っている頃。

 

 

| 21:23 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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