Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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Let's look at the new world ! : 11

 
夢の中で泣いていたことに、現実の自分の頬が濡れていた事と、止まらない嗚咽で気が付いた。世界はまだ暗闇の中にあって、必死で止めようとする嗚咽も止まることは無く、無理矢理止めようとした挙句、その嗚咽はえずくような咳に上書きがされる。
自分が何処にいるのかもわからなくなる感覚と、痺れる指先は覚えのある感覚で。それは否応なしに数か月前の自分の状況を思い出させて、調えようとする呼吸は更に乱れる。自分のいる場所の認識も出来ないままそうしていれば、暗闇の中、背中に誰かの手のあたたかさを感じた。
「大丈夫か?」
メガネの無い、ピントがぼやけた暗い世界の中で、相手を誰だか認識できたのは、ひとえにその人の声が、分かったからだった。セナくん。その一言すら彼に投げる事も出来ず、嗚咽と咳を漏らし続けるのだ。
 
「落ち着いたか?」
そう言ってホットミルクを渡してくれたセナくんに「お恥ずかしい限りで」としか告げる言葉が見つからず、潰れた喉でそれだけを告げて差し出されたマグカップを受け取り、口を付ける。そのホットミルクは嫌味にならない程度のほんのりとした甘味が付けられて、弟がよく作ってくれたホットココアを思い出した。私が座っているソファとは別のソファに座るセナくんの隣で心配そうにそわそわとするヴィンに「起こしちゃって申し訳ない」なんて、彼を安心させようと無理矢理笑顔の形を作って言葉を投げる。私が落ち着いたのを見計らい、間接照明だけが点灯されたヴィンとセナくんの家のリビングのソファに、私はマグカップを手に持ち座っているのだ。
ヴィンとセナくんと夕飯を食べて、そのまま飲んで、恐らく潰れたのだろう。そのままソファで寝落ちした私をそっと寝かせたまま彼らも自分たちの部屋で眠りについた頃に私がこんな事になったのだろう。赤ん坊の夜泣きかよ。と正直自分に突っ込みたい。ただ、自分の見る夢までは自分でコントロール出来ない訳で、そんな事を考えていたらまた涙があふれてくる。
「ちょ、え、何でまた泣く!?」
「リツどうしちゃったの!?」
グズグズとティッシュペーパーで涙と鼻水を拭う私にセナくんとヴィンは狼狽える。自分でも情緒の不安定っぷりにびっくりしているのだから仕方がない。
「だいじょぶ、花粉症みたいなモンだから」
涙を流す理由もなく無意味に涙が出ていた頃、心配そうに気遣ってくれた弟に言い張ったその言葉をまた口にするとは思わなかった。
「花粉症って……」
眉を顰めるヴィンに止まらない涙をガシガシと拳で擦りつつ「涙と鼻水が理由も無く出てるの、ホラ、花粉症じゃん?」と無理矢理に笑顔を作って、ワザとらしい位明るい声を出してみせる。
心配されるのはガラじゃないし、本当はこんな所も見られたくはなかった。
 
「こんなことになってて、大丈夫なんて言えるヤツ程大丈夫じゃないんだよ。ここまで来て強がるんじゃない」
セナくんはタバコを咥えて火を付けながら、私へ静かにそう言葉を投げかける。ボロボロと止まらない涙と、落ち着かない呼吸の合間に「だって、大丈夫だから」と告げれば「それ、自分に言い聞かせてるだけだろ」とタバコの煙を吐き出しながら彼はそう被せてくるのだ。
そんなセナくんと私のやり取りをヴィンは静かに見つめている。
 
「仕事辞めたから、もう無いと思ってたんだけど、根深いなってだけの話だよ。それだけの事。セナくんも、ヴィンも、起こしちゃってごめん」
自分でも何で涙が出るのかなんて解らないのだから、私には彼らへ説明なんて出来ない。その思いを言外に込め、思うところがあるのだろう、複雑そうに何か言いたげなセナくんの表情を見ながら、私はもう一度笑って見せる。流れてた涙もやっと止まって、目元を擦り盛大な音を立てて鼻をかんでいれば、セナくんは「全く、秘密主義だな」と笑い、その隣でヴィンも少しだけ困った顔で笑みを見せる。
「じゃぁこれだけ、今夜は3人で寝ようか」
そんな事を唐突に言い出すセナくんに思わず「は?」と声が漏れる。そんな私をスルーしたヴィンもパッと明るい表情を見せて「良いね! カワノジだ!」なんてセナくんの提案に同意するのだ。
「え、ちょ、話が見えない」
突然の展開に私だけが動揺し、セナくんとヴィンは立ち上がり、私の腕を掴み、引き上げる。
「こんな状態のリツをまた一人でソファで寝かせるなんて出来る訳ないだろ」
「そうそう。サトシにも『葎花ちゃんをよろしく』って言われてるし!」
「いや、えっ、っていうかサトシさんは何を言ってるの!?」
久々にこの二人の無茶な話に乗せられて、彼らの寝室へと連れていかれるのだ。
「リツはもうちょっと周りに頼っても良いんじゃないかってボクは思うんだよね」
「そうそう、しんどい時は誰かに吐き出した方が良いぞ」
ヴィンとセナくんに口々にそう嗜められながら、私はキングサイズなのだろう、広いベッドの真ん中に沈められてセナくんとヴィンに挟まれながらもう一度眠りへと誘われた。
 
それから朝まで、私は久々に何の夢も見ずにぐっすりと眠ったのだ。

 

 

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唐突な笹野の闇。

 

| 21:15 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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