Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK |
| CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
花束とチョコレート

​ 
​ドアの鐘をカランと鳴らしながら入って来たのは大輪の薔薇の花束と大きな紙袋を持つ馴染みの客だった。
「よぉ」と悪役のような笑い方をして定位置であるカウンター、つまりは自分の前へと座り、隣に座る顔馴染みである店員に「久しぶりだなぁ」と口角だけを上げて笑う。
「今日も麟サンは美人だね」
そう言って馴染みの客は手に持つ花束をこちらへ差し向けて笑うのだ。
  
「ここがニューハーフバーでアンタが女ってだけで何でここまで格好がつかないのかしらね!」
馴染みの客であり大学時代の同期でもある彼女から花束を受け取りながらそう言ってやれば彼女は「それな」なんてケラケラと笑い、彼女の隣に居るリサも一緒に笑うのだ。
「ってコトで今年も大量だったからおすそ分け……あっ、バラは自前だから。美しい麟さんにはこれくらい持って行かないと僕としても格好がつかないからね!」
優男じみた言葉を吐きながら笑って見せる彼女ほど胡散臭いものは無い。そして彼女が紙袋の中からわっさわっさと出してくるのは色とりどりのラッピングをされた小箱たちで。今日という日に渡す可愛らしいラッピングの箱の中身なんて悩まなくたってすぐにわかる。
「今年も大量じゃん、さっちゃん本当生まれてくる性別間違ったんじゃね?」
「よく言われる」
リサにそんな事を言われながらウイスキーのグラスが置かれたカウンターの上に彼女が小箱を並べていれば、彼女と顔なじみの他の客も寄ってくるのだ「チョコあんま食べないからつまんでってよ」と寄ってきた客や従業員にその小箱の中身を振る舞うのがここ数年行われているバレンタインデーの晩の恒例行事だ。
「笹野さん相変わらずのモテっぷりッスねー」
「私的にはチョコじゃなくて栄養ドリンクとか10秒メシとか煎餅とか月餅が欲しい所だけどね。恂も大量だったんじゃないの?」
「俺はダメっスわぁ、最盛期でもコレの半分にも満たないッスよ」
っていうかバレンタインに栄養ドリンクって。と笑うのは常連でもあり自身の後輩でもある恂之助で。チョコにつられてカウンターへとやってきて笹野の隣――リサとは反対側に座り、二人でグラスをカチンと鳴らしてその中身を呷る。
「に、しても、偶に本命っぽい高級チョコが混ざってるのが若干こわいよな」
「うわ、コレ一粒数百円とかするヤツじゃないッスか? 笹野さんやるぅ」
リサと恂之助が口々にそんな事を言っていれば笹野は「でも渡してきたの、別部署で殆ど話した事無いコなんだよね」なんてとんでもない事を暴露するのだ。

 
「アンタのそれも相変わらずね」
「海舟は黙って」
優男タイムは終わったのだろう、学生時代に彼女が付けたあだ名で呼び始める彼女に「海舟って呼ぶな」とお決まりの台詞を。
「ってか、可愛い女の子は好きだけどさーなんで私なんかねぇと思う訳よ」
そう言って遠くを見るように目を細める彼女は何を思っているのか。
 
それは彼女が言葉にするまで推測の枠を出てはくれない。

 

 

——————————————————

 

恂之助さんを出せたのがうれしいだけ。

これが笹野のバレンタインの恒例行事らしい。

 

| 21:32 | - | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>