Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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恋の薬

​「間に合った……!?」
「ギリセーって所だな」
玄関先で息を切らせながら花束を渡そうとする海外に居るはずである恋人に俺はそう告げてその花束を手に取った。時刻は23時59分、正にギリギリセーフである。
 
「間に合わないかと思いましたよ」
日付は変わり、15日。駿馬もヴィンも居ない居間に上がった彼にインスタントのカフェオレを出せば、ホットしたような気の抜けた笑顔を見せてそう告げる。
「そんなイベント事気にしないのに。律儀だな」
「そりゃあ、超長距離ですからね。イベント位ちゃんとやりたいですよ」
俺に連絡もせず無理やり日本への出張を入れて山積みの仕事をこなしてから来たらしい彼は相変わらずの高級スーツを身に纏い俺が適当に淹れたインスタントのカフェオレが入ったマグカップに口をつける。深夜の茶会に出された茶菓子は目の前でカフェオレを啜る時嗣が持ってきた数々の高級チョコ。慢性的に胃がやられているらしい時嗣は牛乳をたっぷり入れたカフェオレを、俺はブラックコーヒーを片手にコタツの上に広げられたチョコレートをつまむのだ。
「しっかし、大量に買ってきたなぁ」
「職場の近くにあったデパートで買ってきたんですけど、浩介さんはどんなタイプのチョコが好きか分からなくてつい」
そう言って照れ笑いをする時嗣を見て笑いながら「何でも食えるのに。ヴィン程じゃないけど」なんて彼の弟を引き合いに出せば
「アイツと同じレベルの甘党なんて俺は見た事ありませんよ……」と渋面を見せるのだ。
「砂糖水とか普通に飲んでるもんな……カブトムシか何かかよってな」
「アイツの将来が思いやられますよ」
一回り以上も年下の彼はお兄ちゃんらしくそうため息とともに吐き出す。
「それにしても、バレンタインにチョコ渡すのは俺の役目な気がするのは気のせいか?」
用意してなかったケド。とふと思ったそれを口にすれば、時嗣は「とんでもない!」なんてぶんぶんと横に頭を振るう。
「浩介さんと会えるのが俺にとってチョコレートみたいなもんですから」
そう言ってとろけるように笑顔を見せる時嗣によくもまぁそんな恥ずかしい事を言えるもんだ。
「……ホワイトデーは3倍返しか……」
恥ずかしい台詞に返せるような人生を送ってない俺は彼のその言葉を華麗にスルーして色とりどりのチョコレートの箱を見ながら脳内で計算をする。高級チョコが数箱分の3倍返しなんて頭が痛くなってくる。そんな事を呟けば、きょとんとした表情の時嗣はさも当たり前の事のように「ホワイトデーも俺が用意するに決まってるじゃないですか?」なんて言うのだ。なんだこの圧倒的彼氏感。いや、彼氏と言えば彼氏なのか。
「悪い女にでもなった気分だな」
「浩介さんになら弄ばれても良いですけどね」
チョコレートをつまみながらそんな事を言っていれば、時嗣は笑ってそう返す。一回り以上上の男にこの男は何を言っているんだと思っても、それが心地よく感じる自分が確かに俺の中に存在しているのだ。

自分の買ってきたチョコに飽きたのか、普段あまり吸わない煙草に火を付けた時嗣の為に灰皿を取りに行ってふと思い出したのは同居人であり家主である駿馬の言葉で。灰皿をコトリと積まれた箱の横に置きながら何の気も無く「そういやぁチョコレートって媚薬でもあるんだっけか。昔そんな事を駿馬が言っててさ」なんて口にする。そんな俺の言葉に押し黙って煙草を灰皿に押し付けた時嗣は静かな声で「……誘ってますか?」と俺を見る。その視線は完全に欲に塗れた男のそれで。若いなぁ、なんて思いながらも俺も「試してみるか?」なんてチョコレートを口に放り込むのだ。

「望む所です」

 
そんな言葉と共にネクタイを解く時嗣を見ながら、寝不足のまま出勤かな、なんて。とりとめのない事を思う。

 

たまにはこんな夜も悪くないな、と。

 

 

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トキササのバレンタイン。

ササハラは本気で何の気も無く媚薬発言してます。

 

 

| 21:30 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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