Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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残される側の問題点

 


「ホントもうやだ……やだ……働きたくない……つらい……」
「で、ソレ本心何割?」
喫煙所でタバコを手に死んだ魚ですらもう少しマシな目をしてそうだと思えるくらいに死に切った目をしてうわ言のように呟く同僚に、おれは以前から思っていた言葉を投げる。そうすれば、彼女は長く重い沈黙の後にボソリと「さんぱーせんと」と答えるのだ。
「すっくねぇな」
「あっ、でもこの会社辞めたいパーセンテージは120パーセントだからヨロシク」
思わず出た俺の言葉に彼女は更に重ねる。つまりは生活の糧として働くことは厭わないが職場環境がクソであると、そういう事だ。新年初勤務が今日だった俺は兎も角として、隣に座る同僚である彼女は新年どころか年末から働き詰めである。会社自体が年末も稼働しているような会社だから仕方がないと言えば仕方がないけれど、それでもそういう時に割りを食っているのは多分彼女が断トツであろう。連勤日数もさることながら残業時間も死人に片足を突っ込んでいる筈だ。あれーウチってブラックだったのかなーなんて、明後日の方向を見上げてしまう。安請け合いするタイプなのと人に頼らないのと割と引くレベルで合理的で効率厨なのがいけない。コイツに仕事がアホみたいに寄せ集まり、それをやってのけるのが彼女が社畜たる所以で。
「まぁ、明日から連休だから良いんだけどさ、いいかげんどうにかして欲しいっつーの」
「それなぁ」
「こっちが黙ってりゃぁいい気になりやがってよォ!」
殆ど吸われずに短くなった煙草を灰皿に投げ入れながら彼女が叫ぶ。
「反抗したってバチは当たらないと思うけど」
俺が何の気もなくそう言えば、彼女は新しい煙草に火を付けつつもその視線だけで人を呪い殺せそうな目を俺に向ける。「私が投げられた仕事拒否してクソからありがたいお話しという体でオナニープレイされるのを考えたらクソ程面倒くさい」と言いながら。
「オナニープレイってお前」
「あんなんオナニー以外の何物でもねぇよ、自分の保身と昔話で悦に入ってやがる。自慰の相手させられる位なら黙って仕事させろって思うわ」
煙を吐きながらそう言い放つ彼女は今日もテンション低く絶好調か。正月休みを満喫しているのであろう此処にはいない上司をそう切り捨ててハンと鼻で嗤う。これで仕事が出来ない奴であればただのクソ野郎なのだろうけれど、仕事が出来る分始末に負えない。それでも社会人としては不適格のレッテルを貼られるような発言ではあるが、彼女はそれを口にする相手はしっかり選ぶ。例えば俺であったり、手塩に掛けて育てている後輩であったり。
「あー、本当辞めようかな」
そう言って煙を深く吸い、吐き出す彼女に再び「で、本気度は何割?」と訊ねる。
今度は先ほどと同じ沈黙というよりも答えを探すために長考しているような彼女の様子に割と本気なんだろうな、なんて当たりをつける。
「パーセンテージはそれこそ120パーセントだけど、瑞原が居るうちは辞めないわ。折角育てたのにあのクソに潰されると思ったら死んでも死に切れんし」
彼女が目をかけている後輩の名を上げそう言った彼女に俺はなるほどね、と頷く。瑞原ちゃんは笹野と考え方が似てるし仕事も出来る子だ。笹野が居なくなればほぼ自動的にその位置を継ぐ事になってしまうだろう。
「じゃぁ、瑞原が異動か退職かするまでは頑張る訳か」
「そうなるな」
あーあ、と彼女は声を上げながらその重い腰を上げ、手に持っていた煙草を灰皿の中へと投げ入れる。水の張られたその中で火が消えるジュッという小さな音が鳴ったのが彼女の愚痴の終わりの合図。

 

「さぁて、休みまであと数時間、頑張りますかね」
「あとでコーヒーでも奢ってやるよ」
「カフェオレで頼むわ、胃がやられてブラックここ数年飲んでない」
じゃーねーと振り向きもせず片手をひらりと振りながらヒールの音を高らかに鳴らして彼女は喫煙所を後にする。残るのはやっと煙草に火を付けた俺ひとりだけだった。
「あーあ、俺も転職先見つけとこうかね」
万が一瑞原が居なくなって、ついでに笹野も辞めたとすると笹野のそれが降りかかるのはきっと俺だ。働くのは嫌いじゃないけれど、働きすぎる人生なんて絶対にお断りだ。幸いある程度の貯金はあるし、そんな事になったらサッサと辞めるに越したことは無いな、なんて携帯を弄りながらぼんやりと考えていれば、ポロリと長くなった灰が床へと落ちる。
「あーあ、やっちまった」
俺の他には誰も居ない喫煙所で俺はそうぼやき、灰皿へと煙草を落とす。
そうして俺も、誰も居なくなった喫煙所に背を向けて、仕事の為にデスクへと戻るのだ。

 

 

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笹野にオナニープレイって言わせたかっただけの話 

 

| 20:05 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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