Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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その柏手に込める願いは

 呼び出された待ち合わせ場所に向かえば、見知った顔がひとつと、見知らぬ顔がいくつか。様子を見る限りでは恐らく待ち合わせ相手はナンパされているらしい。そんな様子を少し遠くから見ていれば、私に気付いたらしい私を呼び出した張本人はトトト、と小走りでこちらに来て、私の腕にその腕を絡ませた挙句わざとらしく作った声で絡んできていた男たちに宣言するのだ「彼氏来たから、ごめんねぇ」と。
 
「股間にイチモツぶら下げた彼女を作った覚えは無いな」
「失礼ね、アンタそうしてればただのイケメンなんだからナンパ避け位にはなりなさいよね」
 隣に立つ長身の彼女――もしくは彼は、大学時代の同期であり私が入り浸るバーの主である浅野麟太郎である。源氏名は麟、私が学生時代に付けたあだ名は海舟だ。簡単に言ってしまえば隣に立つコイツはニューハーフである。だからと言って女になりたかった訳ではないらしいし、新卒で入社した会社を辞めた時の彼の言葉を借りるのであれば、「自分以外の何かになりたかった」という事らしい。今日も胸元でその存在を主張する豊満な胸は作ったらしいが下半身は未着手だというのはいつだったか聞いたことがある。女言葉でプリプリと怒る海舟は長身とスタイルの良さも相まってモデルかよ、と突っ込みたくなる美人であった。そら、ナンパの一つや二つされるだろうよ。と思ってしまう。頭一つ分背の低い私はと言えば、適当にあった服を着てダブルのライダースジャケットを羽織っているような状況で、服はどれもメンズのものの上全く栄養が届かなかったらしい平らな胸だ。乱雑に伸ばしっぱなしであった髪は先日切ったばっかりで下手すると男よりも短い。だからと言って一応女である私を捕まえて彼氏と言うのはどうかと思うが。
「で、何の呼び出しなんだ。約束は夕方だったろ」
 海舟にそう問いかければ「そうだけど、暇になっちゃったからどうせアンタは何の予定も入れてなさそうだし、初詣と初売り行こうと思って」と悪びれもせずに答える。
「くそ、こちとら夜中まで働いてたんだよ……今日から連休だけどさぁ……」
 思わず出てしまう溜息に、「でも寝てたらメールなんて気付かないでしょ。アンタから返信来なかったら一人で行くつもりだったし」とさらりと言葉を返すのだ。
 
「そういや、今日は武将と三人?」
 諦めて海舟と神宮に向かう道を歩いているうちにふと浮かんだ疑問を口にする。その疑問に海舟は「バニーもよ」と溜息交じりに返事を返す。「げ、ウサギもかよ」思わず口をついて出てきた言葉へ「ご愁傷様」と重ねられる。
「あぁ、これで明日は潰れたな」
「ちょっと、諦めが早すぎるわよ」
 ため息交じりに呟いた言葉に海舟は呆れ声で即座に突っ込む。「もう何年アイツにやられっぱなしだと思ってんだよ。抵抗するのも面倒くさい」そう答えれば「イヤなら抵抗しないとそのままよ」と鋭い言葉が飛んでくる。海舟がバニーと呼び、私がウサギと呼ぶ男は本名を宇崎伊織(ウサキイオリ)と言う。彼は海舟や今夜一緒に飲む予定の武将と共に同じ大学の同じゼミで3年間を過ごした同期である。4年制大学で3年間なのは、単に私が1年間留学していたからである。そして、私とウサギは名目上では付き合っていた関係であり、奴が遠く離れた地に住む今でもこうやって顔を合わせると飲んだついでに致すという完全に割り切られた肉体関係だけがズルズルと続いている。全力でぶちのめせば勝てる相手だとは思うものの、そうするのすら面倒臭く流されるままに流されて今に至っているのだ。そんな事を話していれば、人でごった返す真っ只中にとうちゃくしており、海舟からは「賽銭くらいは奢ってあげるわ」と小銭を渡される。
 
「どうせアンタは流されるんだろうけど、念のため祈っときなさい」
「気休め程度にそうしておくか」
 
 こうして私の年始休暇が幕を開けるのだ。

 

 

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麟さんと笹野の外見男女逆転が描きたかっただけ。

笹野は面倒くさいのもあるけどウサキ氏に手酷くされるのが癖になってると思われる。

言わないけど。

 

 

| 23:37 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
恋人たちのはじめの一歩

​ 身支度を整え、玄関を出、ドアの鍵を閉めた事を確認すればアパートの階段を降りる。そうして少し歩いた所にある近所のコンビニに行けばそこには待ち合わせ相手の姿があった。
「お待たせしましたか」
 私がそう問えば彼は「いや、今来たとこ」と笑う。そんな彼の姿に「そうですか」と返し、腕時計を見ればまだ目的地へ向かう時間には少しだけ余裕があった。「ちょっと飲み物買ってきます」それだけ告げれば、彼は「行ってらっしゃーい」と咥えたタバコに火を付けながら私をコンビニの店内へと送るのだ。
 
「カフェラテ?」
 私が手にした黒のカップを見て彼はその中身を訊ねる。斜め掛け式のボディバックからタバコの箱を取り出しながら「カフェモカですよ」と返す。「そりゃぁまたえらくカワイイもん飲んでるな。あ、持とうか」彼の申し出を有り難く受け、手に持つカップを彼へ手渡す。タバコに火を付けて鞄を背中へ戻し、彼からカップを受け取ってようやく吸い込んだ煙と共に一息吐く。
「大学でコーヒーがぶ飲みしてたら胃壊したンで、ブラック飲めないんですよ」
「そりゃまた難儀な。でもイケメンがカフェモカ飲んでるとか可愛くていいね。相変わらず今日もバッチリイケメンだし」
 そう言って私の隣で笑顔のままに上機嫌でブラックコーヒーを飲みタバコを吸っている男は鮎瀬真生。何を隠そうこの春に入社した会社の先輩であり、便宜上彼氏と呼ぶような間柄の人間である。何でこうなった、というのは私が一番言いたいが、なし崩し的にこういう関係になってしまったのだから仕方がないとも思う。
「しっかし、初デートの待ち合わせがコンビニの灰皿前っていうのもあまり無いよねぇ」
 カラカラと笑いながらそんな事を言う彼に「あー、それは何というか、申し訳ないです」と告げた上で、「でも、お互い喫煙者だったらタバコ吸って待てるの、丁度良いじゃないですか。目的地にも近いですし」と言い訳じみた事を口にする。
「まぁ、俺はリツのそういう所好きだけどね」
 さらりとそう答えた彼に私は「そっすか」とだけ答えてカフェモカを飲む。そんな私に「っていうか、前に付き合ってた相手とかともこういう所で待ち合わせてたの?」と彼は問うのだ。その問に対して浮かぶのは大学時代に付き合ってた男で。「あー、」と言葉を濁す私に「初めてじゃないでしょ」と彼は更に言葉を重ねる。彼の指す初めてじゃない、は恐らく性交渉という所に掛かるのであろう。そう、私は既にこの男と寝ているのだ。
「それ、長考してる時点でちょっと……」
 彼の声に我に返った私は伸び切ったタバコの先の灰を灰皿に落としてからため息と共に彼の問いに答える「前に付き合ってた相手とはデートってした覚えが無いですね。行って居酒屋、基本ホテルか相手の家。その前は大抵駅とかそこらで。まだタバコに手を出してなかったですし」一気に捲し立てた回答に彼は渋い顔をする。
「俺が言うのも何だけど、もっと自分を大切にした方が良いんじゃないかな……?」
「ホントに先輩が何を言うって感じですね」
 そう、この付き合いが始まった切っ掛けも、盆にフェスに行くという話をしていた私が彼に感想を求められて飲みに行った挙句にその場の流れで彼と寝た事である。しかもひどく酔ったこの男、私を男だと思って誘った挙句に人の服を脱がしてイチモツが無いと喚いたのだ。それが数日前の話である。
「それを言われると痛いなぁ……って言うか本当にあの流れでよく俺と付き合ってくれるという選択肢を選んだね?」
 彼が苦笑交じりでそんな事を口にする。
「じゃぁ、やっぱり付き合うのやめます?」
 彼の言葉にそう返せば、「やだ、だってリツ最高に俺好みのイケメンだし」と即座に言葉を重ねるのだ。

「はいはい。先輩の好みはどうでも良いんですけど、そろそろ行きません? 今日映画見たいって言ったの、先輩でしょう」
 このコンビニから歩いて数分程度の場所にあるショッピングモールの中にある映画館が今日の目的地である。チケットは既に買ってあるから、あとは上映時刻に間に合うようにいけば問題は無いけれど、互いのタバコが燃え尽きた今、さっさとチケットを発券するのに越したことはない。館内にも喫煙所はあるのだし。
 
「そうだね、あ、映画終わったらご飯食べてリツの家行きたい」
「……映画終わったら考えましょう」
 
 こうして私たちは初デートなるものの一歩目を踏み出したのだ。

 

 

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鮎瀬​先輩(社会人6年目)と笹野(社会人1年目)の馴れ初めとか基本情報

 

 

| 20:45 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
ビー・マイ・ラヴに対する考察

 あの日、兄さん――鳴海馨さんは、フジのリクエストに応える事はなく、フジもそれを承知の上でリクエストをしているようであった。そうして思い出されるのは、高校時代からの腐れ縁である九里が以前話していた大学時代の友人の話だった。
 
「あのさぁ」
 あの出来事から数週間後、私は九里と街中の居酒屋で酒を飲んでいた。偶然同じ映画を見ていた九里が目敏く私を見つけ、そのまま酒場へと流れていったのだ。最初は見ていた映画の話から、次はどの映画を行くか、なんて話に飛び火して、他愛もない世間話を交えお互いに喋りたいことを喋り続けていた中で、ふとそれを思い出した私は何の気もなく話を変えるために九里に言葉を投げる。
「ん?」
 酒には強い方である九里も強いアルコールをいいだけ流し込んだからか、普段よりも少しだけ柔らかな声色で首を傾げる。そんな九里に「ずいぶん前に話してたアレって、誰の話だったんだ?」と問いかけるのだ。
「アレって……どれ?」
 全く分からない、とでも言うように彼は再度首を傾げて私も言葉の選択を誤った事に気づく。「ええーと、気になる人が居るジャズバーでその想いを伝えるなら何の曲をセレクトすればいいか、だったっけ。九里の大学の友達から相談受けたとか言ってたやつ」そこまで話せば九里も合点がいったように「あぁ、あれかぁ」と返すのだ。
 それは以前、九里が友人から相談を受けたと私に相談を持ってきたもので。思いを伝える為に使うスタンダードジャズであれば何がいいか。というお題だったはずだ。九里は大学のジャズ研でボーカルをやっていたが、好んで歌っていたのは失恋の曲であったし、スタンダードの名曲なんてほぼほぼ恋を歌う歌である癖に失恋の曲の割合が多いようにも感じる程、歌われる曲が終わった恋を歌っているのだ。そのお題の中で私がこれでどうだ、と選んだのがビー・マイ・ラヴだった。九里には「ど真ん中どストレートって感じ」と笑われたが、それ位が一番解りやすいと私は思う。そう、あの日のフジの選曲は兄さんへの告白なのではないか、と思ってしまったのだ。勿論それは邪推ではあるけれど、私だって野次馬根性は持ち合わせている。そして元々話を持ってきた九里と会ったのだ。それは聞くしか無いだろう。
「多分笹野は知らないと思うよ? 大学はジャズ研じゃなくて軽音やってたヤツだし」
 あぁでも笹野無駄に顔広いから知ってるかもなぁと勿体ぶる九里に「で、誰なんだよ」と重ねて聞けば「ユーイチ。藤田雄一」との回答だった。
「あぁーやっぱりぃー」
 嵌るであろうパズルのピースが予定調和的に嵌り、私は思わず目の前のテーブルへと突っ伏す。フジと九里は大学が同じだった筈だし、さらに言えば私と同期で同い年だ。世界って狭い。心の声はそのまま口から漏れ出ていたらしく「ユーイチと知り合いなの? こわっ」なんて言葉が投げかけられるのだ。
「同じ会社の同期。部署は別だけどな」
 そう告げれば九里も「あぁー」と頷く。そして「別の知り合いのライブ行ったらフジのバンドも出てた」と重ねれば「こわっ」と返されるのだ。
 
「で、何で何年も前の話を出してきたの?」
 グラスの中のカンパリソーダを流し込みながら、九里は更に問いを重ねる。そして私は先日の話を九里に話す。
「成程ねぇ、っていうかユーイチの想い人が笹野の父親の後輩だったってのがまた怖い。世間の狭さが怖い」
 率直な感想に私は頷きながらグラスの中のジンライムを流し込む。
「しっかし、父親位の年齢の男に惚れこんだっていうのはまた……」
 茨しかない道だな、と自身もゲイだったかバイだったかと言っていた気のする九里は煙草に火を付けながら彼の恋路をそう評する。「相手はノンケなんだろ?」と重ねながら。
 
「兄さん、バツイチなんだけど、ノンケかと言われるとちょっとわからないんだよな」
 私の言葉に九里は首を傾げる「本人から聞いたことは無いけど、多種多様な性志向を見てきたから?」と笑って見せれば、「なるほどねぇ」と九里も笑う。
「あとは二十年以上兄さんを見てきた私の勘」
「笹野の勘は怖いからなぁ」
 九里はそう笑って、私のグラスの淵に彼の持つグラスの淵をカチンと当てる。
「ユーイチの恋路に幸あらんことを」
 九里のその言葉に、私は「兄さんのサックスがビー・マイ・ラヴを鳴らすことを祈って」と返し、彼のグラスに私のグラスの淵をカチリと当てるのだ。

 

 

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藤田くんと鳴海さんの恋路を好き勝手言う笹野と九里の回。

笹野と九里は映画の趣味が似通ってるので映画館でばったり会う事が年に2〜3回あるようです。

 

 

| 18:41 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
ビー・マイ・ラヴにはまだ遠い

「お前はお前らしく生きていきゃぁ良いんだよ」
かつての彼が俺へと告げたその言葉に、俺は一発でやられてしまったのだ。
 
「お引き取りください」
その店の温和なマスターは穏やかな笑みを湛えたままに、一人の男にそう告げる。カウンターの端を陣取る俺を含めた常連は心の中でだけマスターへと声援を送る。何しろこの店はジャズバーで、音楽と酒、どちらともを楽しむ為の店だ。この店の主役はあくまでも音楽。そしてその音楽を彩るのが酒である。そんな中で大声で蘊蓄を述べるような輩がこの店のマスターに許されるはずがない。酒に酔って気が大きくなっているのだろうその男は「俺は客だぞ」と喚きたてている。そんな男の言葉に、この先の展開を知っている俺は混み上げる笑いを抑える事となる。
「ああ、巷でよく言われている「お客様は神様です」というアレですか? 生憎私は無宗教なもので、神様に敬意を払ってはいませんから」
サラリとそう言って彼は「それに、この店は私の店ですし。お客様は歓迎いたしますが、お客様というのはこの店に相応しい振る舞いをして頂ける方の事を指しますので。貴方はもう少し、場に相応しい振る舞いを身に着けてからいらした方が宜しいと思いますよ?」と重ねた挙句に「お会計はこちらです」と男に口を挟ませる隙も見せずに今宵の男に対して空間を提供した対価を求めるのだ。口調は丁寧であるが、彼の纏う空気は冷たい。笑みを湛えたその表情の視線も同じく冷たく鋭利なものであるのだ。
 
会計を終え、そそくさとその場を立ち去る男の背中がドアの向こうに消えれば、マスターはいつもの温和な微笑みを浮かべてカウンターの中へと戻って来る。「ナルミさん、流石スね」へらりと笑い俺は声量を落としてマスターへと話掛ける。
「アレは客などでは無いですからね。この店で楽しんで頂く為に邪魔になるものを排除したまでですよ」
丁寧な口調ではあるが、言ってる事は過激派かよ。と突っ込みたくなるようなソレで。俺の前にそっとウイスキーが満たされたロックグラスを置く物腰柔らかかつ丁寧な言葉を使うこの紳士のような壮年男性が、実は口が悪く昔はヤンチャしていたというのはこの店では俺だけが知る彼の秘密だと、俺は思っている。何て言ったって彼と俺はこの店のマスターと常連客である以前から実家の近所に住んでいるお兄さんとガキだったのだ。彼が長らく独り身であるからなのだろうか、世間一般の同年代よりも若く見える彼は自分の親と似たような年齢ではあったが、昔からそうは見えなかった。勿論今も。俺がまだガキだった頃、よく近所にあった彼の家へ遊びに行っていたものだ。そしてその時に若い頃の写真を見つけ出した俺は彼が少しヤンチャな学生時代を過ごした事を知る事となる。
そんな十数年以上の付き合いとなる彼がこの店では――否、この数年は店外でもだ――温和で丁寧な言葉で喋る姿は俺から見れば凄まじい猫かぶりにしか見えないけれど、そんな彼の姿もとてつもなくハマるのだ。かつての口の悪い彼の外見と口調のギャップも良いが、外見と口調が一致している今の彼もとても、良い。
 
そう。俺の初恋は目の前で笑みを湛えるこの男である。
 
「ナルミさんのそういう所、俺本当に好きですよ」
そう言えば、「この店はそういう店でも無いんですけどね?」と俺の軽い告白はスルーされるのだ。
「ナルミさんだけしか口説いてないスよ」
「藤田さんはそろそろこの店を出禁にされたいんですか?」
首を傾げながらそう返すマスターの口元は笑っているが、目が全く笑っていない。本当に出禁にされる事は無いだろうけれど、今夜の折れ所はここらへんだろう。こんな事を俺はもう何年も続けているのだ。
俺だって、彼をそうやって口説くと言いつつ他の人間と幾度か付き合ってはいるのだらかそこを突かれれば返す言葉は見つからないものの、それでも彼に恋愛としての意味で好意を持っているのは嘘ではない。
「ちょっとナルミさんを口説いてるだけで、静かに楽しんでるのに出禁は勘弁して下さいよぉ」
ワザとらしく声を潜めてそう返せば「全く……」と呆れ切った声が返って来るのだ。
 
「ね、リクエストいいスか?」
彼はセミプロ程度で昔に少し。なんて言うが、運と機会があればスタジオミュージシャンをしててもおかしくない腕前を持つこの店のマスターは客のリクエストで時折サックスを吹いてくれるのだ。
「まぁ、今日はピアニストも居るし良いでしょう。何をご所望で?」
ピアノが弾けるバーテンに目配せをし、もう一人のスタッフに一曲分の時間だけ店内を任せると告げる。
「ナルミさん、俺のリクエストは分かってるでしょう」
「また、アレですか?」
溜息と共に彼はカウンターの奥へと向かう為に俺に背を向ける。俺はその背にそのリクエストを投げかける「ビー・マイ・ラヴで、お願いします」
 
「今日もフられたか」
マスターがピアノの前に座るバーテンに目配せをし、彼はその十指を巧みに動かし和音で構成されたイントロを奏でる。そうして、彼がそのピアノの音に乗せたメロディは俺が彼にリクエストをしたその曲ではなく、一人取り残された孤独を歌う曲であった。
 
ステージの上では、サックスの金色ではない、彼の指に纏わりついた細い銀色がチラリと光った。

 

 

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ついったーで續木さんから頂いたおじさん化(マスター)が滾りに滾りすぎてこんな事に。

マスターの名前は勝手に決めてしまいました……藤田くんは以前ノリと勢いで作ったキャラを流用。

 

この二人とその周りを時折書いていきたいと思っています。

 

しかし、恋人になってくださいという曲をリクエストして孤独を歌う歌を演奏するって自分で書いててもうだめ。

 

 

| 00:48 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
久しい君に逢えたから。

​「どこの行商人ですか……」
「美味いじゃん、えびせん」
珍しくいつもとは違う支社への出張へ行っていた先輩が家へと帰ってきたと思えば、家を出た時にはビジネスバッグと旅行カバンが一つづつだった筈の彼の荷物が倍に膨れ上がっていた。詳しく言うのであれば、とある航空会社のロゴが入ったレジャーシートに使われるようなビニールで出来ている大型のパッケージと、そこまで大きくはない紙袋が一つづつ。
そして、最初に持っていた旅行カバンには入るだけ詰め込んだとでも言うようなえびせんが詰まっていたのだ。
そして冒頭へと戻る。
「確かに美味しいですけどね、そして先輩がえびせん好きなのも知ってますけどね?」
しかしこれはやり過ぎなのでは無かろうかと、どうしても思ってしまうのだ。リビングで荷物を広げた先輩はえびせんの詰まったカバンから様々な種類がパッキングされたそれをひと袋持ち、ソファの前に置かれているローテーブルへと放る。キッチンからビールと冷えたグラスに灰皿を出し、ジャケットすら脱がずにソファに沈む。スーツのポケットに入っていたらしいタバコとライターをもぞもぞと取り出せば、その紙筒を一本抜き出し口に咥えてライターの火をその先端に灯す。
 
「ちょっと、先輩スーツ位脱いでくださいよ」
「着替えより前にビールとタバコだろ。ホラ、青嗣も来いよ」
10歳上の先輩と言えど同じ屋根の下で寝起きをする恋人である彼に小言を漏らせば彼はそんな俺の小言は何処吹く風とでも言うように2人がけソファの空いた空間である左隣をポンポンとその手のひらで叩く。グラスに注がれたビールを呷りながら俺を呼びつけるのは先輩にしては珍しい行為だった。多分今日の彼は機嫌がいい。
「先輩、今日はご機嫌なんですね」
「そらそうだろ。久々にお前が隣に居るんだからな」
煙を吐きながら彼はそう言って口角だけを上げる笑い方で笑う。無表情か仏頂面がデフォルトな彼がニコニコと笑う事を俺は見た事が無いし、悪巧みをしているような口角だけを上げるその笑みですら同じ屋根の下で数年間一緒に居るはずの俺でもあまり遭遇する事はないものだった。
「煽ってるんですか」
「さぁな」
俺の問いに煙を吐きながら白々しく返す先輩は「そうだな」と言葉を継いで、その首元に巻かれたネクタイをシュルリと抜き取って意味ありげに口角だけを上げて笑う。
 
「動くなよ? 準備してくる」
グラスに残ったビールを一気に流し込み、片手に持ったすっかり短くなってしまったタバコは灰皿へと押し付けられる。そんな先輩を見ていれば俺の両手首を掴み取り、さっきまで彼自身の胸元を彩っていたネクタイを巻き付け思い切り結びながら先程の言葉を口にして、ニヤリと笑う先輩はソファから立ち上がり寝室へと消えてゆく。俺は縛られた両手首を見つめながら彼の唐突な思いつきに振り回される他無いのだとため息を飲み込む。けれど、俺はそんな先輩を嫌いにはなれないのだ。

 

 

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セントレアでえびせんをアホ程買い込んでキャリーバックに一杯詰めて帰って来たのは本日の狭山である。

えろいおじさんな宇宙さんはよきかな……普段は青嗣くんの押して押して押すカプですが、宇宙さんの気まぐれで青嗣くんを振り回すのを見るのはとても好きです。

 

 

| 21:42 | 飲んで喚いて呑まれて飲んで。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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