Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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とある冬の日の、

 幼い頃から、ボクはクリスマスが苦手な子供だった。何故かは分からなかったけれど、その頃のボクは普段は家に寄り付こうともしない両親が家にいるという居心地の悪さと母が無駄と断じてしまいたい程に異母兄とボクに差をつけてみせようとしていたからだと思っていた。確かにそれは当時のボクにとって嫌な記憶であったし、居心地が悪い空間だった。最終的に兄――トキは家を出て両親が家を出るまで帰ってこなかったし、ボクはそんな家の中で両親――とりわけ母の期待を感じながら全てを笑顔で取り繕う事が大嫌いだったのだ。けれど、クリスマスが苦手なのはそれだけではないという事をボクはここ数年で何となく感じている。
「どうした?」
 電飾がそこかしこで光り輝く冬の広場でカップ片手にそう声を落とすのはボクよりも頭ひとつ以上背の高いアジア系の男――ボクの恋人で。先ほど彼の手によってボクの手にも握らされているカップは、ほのかに湯気を立てていた。この時期になると恋しくなるグリューワインを片手に寒空の下ボク達は数ヶ月前に越してきたこの街の広場で行われているクリスマスマーケットに訪れていた。ゲブランテマンデルンの香ばしい香りが漂い、人々の活気に溢れるこの場所でぼんやりとしていたボクを気遣うかのようにシュンメはボクに視線を落とし気遣わしげに首を傾げるのだ。「ヴィン、お前この時期やっぱり調子悪いのか?」重ねられた言葉に小さく首を振り、「だいじょうぶ」と返しながらグリューワインを少しだけ啜る。熱せられたアルコールの甘みとスパイスが口の中に広がった。「やっぱり寒いなって思って」言い訳のように言葉を重ねてわざとらしくない程度の笑みを浮かべれば、彼は「去年の冬は日本だったもんな」と笑う。シュンメになら、何を話してもそれを受け止めてくれる事は分かっていたしそれに甘えている自覚もあった。けれど、意味もなくこの時期が苦手な理由を言語化する術をボクは持ち合わせていなかった。
「しっかし、やっぱり本場はすごいな。来年も来ような」
 ま、その前にあと何回かは今年も来たいけど。と笑うシュンメは煌びやかな電飾の中で、一番に輝いていた。そんな彼の言葉に今度は作った笑みではなく、心からの笑みで「そうだね」とボクも笑ったのだ。彼が隣にいるのなら、何も怖くはなかったから。
 
      ☆  ☆
 
 あの冬から、一体何度冬を越えただろう。きっと十にも満たない数だ。この街に住んで幾度目かの冬、あの日を思い出したのはきっと今年も変わらずに輝く広場に足を踏み入れたからだ。広場で行われるクリスマスマーケットは今年も何も変わらずに賑やかさで溢れている。変わったのは、ボクの方だから。去年までボクの隣に立っていた男の姿はどこを探してももう居ない。ボクが認識できる事実は、それだけだった。そして、昔からクリスマスが嫌いだった理由も、ボクは知ってしまった。知りたくなんて、なかったのに。
「ごめん、大丈夫?」
 気遣わしげに声をかける隣の人影は彼のようにボクよりも背の高い男ではなく、ボクの目線と変わらない位の位置から少しだけ気まずそうに視線を投げる。数年前、数ヶ月間だけ交流を持ったその人物は、家族を放ってボクの隣に立って居た。何年も前に数ヶ月間だけこの地で生活し、一度だけ彼女の住む地へボクらが行った。たまにメールのやり取りはして居たけれど、言ってしまえばそれだけの関係だ。けれど、ボクも彼女もそれだけの関係ではなかった。会う事は少なくとも、交流は短くとも、ボクも彼女もきっと互いに互いが最大の理解者である事を心のどこかで知っていたのだから。
「ん、へーきだよ。それより、グリューワイン飲もうよ。で、ゲブランテマンデルン買って家で食べよ?」
 そう言って無理やりに笑みを作れば、聡い彼女はボクの笑みが取り繕った事に気付く。それでも彼女はそれを追求する事はなく笑って「いいね、アーモンドのやつでしょ? 地元のクリスマス市でも売ってて楽しみにしてたな」と返してくれる。数ヶ月前にシュンメが居なくなったという事をボクの同僚であり彼女の親戚である男を通じて最近知ったという彼女は、夫と子供を日本に置いて殆ど身ひとつで十数時間をかけてこの地に降りたった。これが数日前のことで。それから彼女はあくまでも自分が観光をしたいという身勝手をわざとらしく振りかざしてボクを外に連れ出している。それが彼女なりの優しさという事は知っている。彼女は一人でなんでも出来る人だから、本当に観光がしたいのであれば一人であっちこっち見て回るだろう。それに、本当にボクが行きたがらなければ家の中で気ままに過ごしている。ただし、ボクを一人にしないようにしながら。数年前に数ヶ月だけ交流を持って、その後に一度だけ会って、そのほかはたまにメールでのやり取り。あぁ、数年ぶりに顔を合わせたあの夜に一度だけ関係を持った。並べてしまえばそれだけで終わってしまう彼女との関係。それなのに、彼女はボクをシュンメと同じくらいに気かけてくれて、ボクもそれに居心地の悪さを感じる事はない。そんな彼女は今、ボクの――ボクとシュンメの暮らした家で寝起きをしている。彼女との関係をボクは言語化できない。そして、クリスマスが嫌いな理由も、彼女に伝える事は出来なかった。
 それは、喪失感への恐怖だったのだ。シュンメが死んでようやく理解したその感情は、シュンメと出逢う前から確かにあったのだ。それはきっと魂というものがあれば、そこに刻みつけられた恐怖だった。そんな事を言ってもきっと誰も理解はしてくれない。隣でグリューワインを啜る彼女であれば、もしかすると彼女なりにそれを受け止めてくれるかもしれない。「まぁ、そういうこともあるでしょ」と口端だけで笑いながらビールを飲む彼女の姿が脳裏を過る。それでも、やっぱり今のボクには彼女にそれを告げる事は出来なかった。
「ヴィン、せっかくのホットワインが冷めるよ?」
「リツ、早くゲブランテマンデルン食べたいからって急かしてる?」
 今度は気遣う声色ではなく、普段と変わらない声色で彼女の声が投げられる。そんな彼女にボクは不満を滲ませた声色で言葉を返せば、彼女はあっけらかんと「バレたか」と笑うのだ。シュンメが死んでから今まで、面倒くさい同情といらない気遣いの視線と感情に晒されていたボクには彼女のそんな振る舞いが丁度よかった。だから、ボクは冷めてしまったワインを一気に呷り、その言葉を口にしてしまったのだ。


「ねぇ、リツ。お願いがあるんだけど。リツにしか頼む人がいないんだ」
 その言葉は、今の時代に許されるものではない事は知っていた。けれど、ボクはそれを口にした。世界でただ一人の理解者を、共犯者に仕立て上げる言葉を。そんなボクの言葉に、彼女はボクからカップを取り上げて彼女自身が持っていたカップに少し残ったワインを喉へと流し込む。
「じゃぁそのお願いの先払いでアーモンドを大量に買ってもらおうか?」
 彼女の答えはきっと決まっている。そういう人だ。内容も聞かずに遠回しのイエスを聞いたボクは、「それで引き受けてくれるなら。内容聞かなくてもいいの?」と返す。そんなボクの言葉に「ヴィンが死なないなら、何でもいい」と彼女は笑った。

 

 

——————————————————

 

来年に向けての布石。

セナヴィンもいいけどヴィンと笹野もよいぞ。

 

 

| 22:04 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
君の隣で年越しを。

 高速を走る車内ではカーラジオから第九が流れる。運転席に座る従姉は「コレ聴くとやっぱ年末って感じするよねぇ」と笑う。

「たしかに」

 車窓を流れる景色をぼんやりと眺めながら彼女の言葉に同意をすれば「しっかし、わざわざ良く来るよね。トキ、忙しいんだから年末くらい家でゆっくりしてればよかったのに」と彼女は笑う。そんな言葉に「家に居ても親父に仕事押し付けられるのが関の山だからね」と返せば彼女も納得したように「あぁ……」と同情するような視線を送ってくるのだ。

「それに、浩介さんと長い期間一緒に居られるタイミングを俺が逃すわけないでしょう」

 そう言葉を重ねれば、彼女は「トキって本当に篠原センパイの事好きだよね」と笑うのだ。

 

 それから一時間ほど静音は車を走らせて、彼女自身や浩介さん、弟であるヴィンとそのパートナーである瀬波さんが住む街の中へと入っていく。そして見覚えのある道を車が走っていけば、彼の住む家が見えてくる。広い敷地に建てられた純日本風の平屋建て。垣根の切れ目には瓦屋根の重厚な門があり、その表札には墨痕鮮やかに瀬波と書かれている事を俺は知っている。そして、門の前には一つの人影が見えた。

「浩介さん!」

 車から降りれば、門の前に立つその人の名を声に出して呼びかける。俺の声に気付いた彼は小さく笑みを浮かべ、少し恥ずかしそうに「やぁ」と片手を上げてこちらにひらりと手を振るのだ。

「久々だな、っとぉ」

 彼が言葉を告げれなくなったのは、俺が彼にハグをしたからだ。「浩介さん、会いたかった」そんな言葉と共に彼の頬へキスをひとつ落とせば「お前……っ、そういうとこだけ外国人だよな!」そんな文句も軽く流して「大好きな人に会えて嬉しいんですよ」と思わず上がってしまう口角も隠さずに彼へと告げる。彼は顔を真っ赤にしながら「そりゃぁ俺も嬉しいけどな! それとこれとは……!」と俺の腕の中でもがくのだ。

「会えて嬉しいのはわかるけどさ、門前でいつまでいちゃついてんの?」

 そんな逢瀬に至極楽しそうな声色で水を差すのは弟であるヴィンだ。ニヤニヤしながら半纏を羽織りサンダル履きで門の中から顔を出していた。そんなヴィンの声に浩介さんは肩を震わせたと思えば、ものすごい力で俺を押し返し腕の中から逃げ出すのだ。

「やーい逃げられた」

「誰のせいだよ、誰の」

 揶揄うトーンのヴィンの声に俺は彼の頭をわしゃりと撫でながら突っ込む。そんな俺と彼の会話に恐る恐る浩介さんは「いつから見てたんだ」と訊ねるのだ。

「いつからって、そりゃぁ車の音が聞こえてきてからすぐ出たから最初からだよね」

 そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにとケラケラ笑うヴィンに「お前ら兄弟はいっつも……!」と真っ赤な顔で頭を抱えるのだ。

「コースケ諦めなって、どうせそんな事やってても兄貴には可愛く見えちゃうんだから」

「そうそう、可愛い可愛い」

 そんな俺たちの言葉に彼は「こんなおっさん捕まえてかわいいとかお前らもうなんなんだよ!」と吼えるのだ。

 

「で、そこのご両人とヴィンはいつウチに入ってくるんだ?」

「駿馬! いつから……!」

 ヴィンと色違いの半纏を羽織り着流し姿で下駄をカラコロ鳴らして門から顔を出すのはヴィンのパートナーであり、この家の家主の瀬波さんである。悲鳴のような浩介さんの声に瀬波さんは笑いながら「静音がウチ入ってきてからも他の奴らが戻ってこないから様子見に来ただけだよ。静音も紫苑も待ちくたびれてるぞ」と背を向けて再び下駄を鳴らしながら母屋へと続く石畳を戻っていく。

「ま、ずっとここでギャーギャーやってても寒いだけだしね」

 そんな言葉を残してヴィンも門を潜り母屋への道を進んで行くのだ。そんなヴィンの後ろ姿を見送りながら「じゃ、俺らも行こうか」と浩介さんは未だ恥ずかしそうに俺の腕を引っ張るのだ。



――――――――――――――――――――



年末のトキササのいちゃつきが書きたかったんです




| 22:47 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
宴の夜に

​父親であるという男が僕の前に現れて――否、父親であるという男の前に僕と僕の母親が姿を現してから早数ヶ月、僕は彼の家に入り浸っている。
広い日本家屋の中でも大きな部屋である居間の畳の上に寝転んでいれば、「来てたんだ」と襖からひょこりと顔を出すのは姻戚関係にない従兄弟違いであるヴィンだ。正しくは母親の従弟の異母弟である。正直ヴィンとの関係にそんなカテゴリーを嵌めるのは違和感がある。仲のいいオニイサン。それ位が丁度いいのだ。家主どころかこの家に住んでいる人々が居ないうちから渡されている合鍵で入り込み居間で寝転んでいるというのは図々しいのだろうとは思いつつ、在宅で仕事をする母親――静音と家に居るのも億劫でついついこの家の居心地の良さに入り浸ってしまっているのだ。
ヴィンの後ろから僕が通う高校で教師をしている担任の篠原先生と家主であり僕の父である瀬波さんが居間へと入ってくる。
「だってこの家居心地いいんだって。静音は今忙しくしてるから絡まれるの面倒だし」
僕の言葉に生暖かい視線を寄越すのは忙しい時ほど面倒くさい静音を知っているらしい先生と瀬波さんで。ヴィンはきょとんとして彼らと僕を交互に見るのだ。
「アイツ本当変わんないな」
「まぁ、静音の場合は変わったら変わったで薄気味が悪いけど」
瀬波さんと先生はそう言って静音を切り捨てた。
 
「紫苑、泊まっていくんだろ?」
「いや、そろそろ帰ろうと思ってたんだけど」
瀬波さんの言葉に僕はそう答えればあからさまに残念そうな表情を見せる。いつも飄々としているように見えるこの人は、意外と顔に出やすい。
「泊まっていきなよ、帰っても静音が面倒くさいだけだろ?」
担任がそんな事言って良いのかと先生に視線を向ければ「学校には内緒な」と笑う。真面目そうな人なのに、たまにこういう事を言うのはきっと瀬波さんとヴィンの影響なのだろう。「あ、でも静音には言っておけよ? アイツ拗ねると更に面倒くさいから」瀬波さんもそんな言葉を重ね、「今夜はご馳走だからな。静音も来るなら来れば良いよ」と笑うのだ。
 
「じゃぁ、僕は一回家帰って着替え取って静音に言ってきます」
先生にそう告げれば「あ、ボクも行くー」とヴィンが声を上げる。
「静音の所なら歩いてもスグだけど、バイクならチョッパヤだしね!」
「ヴィンのバイク乗せてくれんの?やった」
「あ、それなら着替えてからな。流石に制服でバイクの後ろは見られたら何言われるか分かったもんじゃないぞ」
ヴィンと俺の会話に先生が声を上げる。そう、僕は学校から一度も家に戻らずこの家に来ていた為に、未だ制服を着たままなのだ。
「じゃぁボクの服貸そうか?サイズ変わらないでしょ」
「多分同じ位だよね。背もあんまり変わらないし」
ヴィンの提案に僕も乗る。そうしてヴィンの部屋に向かえば彼の服を着てヴィンのバイクの後ろに乗りやっと我が家へと向かうのだ。

「えっ、何駿馬のトコで夕飯食べて泊ってくんの? 私も行くに決まってるじゃん」
ヴィンのバイクに乗せてもらい自宅に帰って着替えを鞄に詰めながら、仕事中だと思っていた静音に瀬波さんの家に泊まる事を告げればそんな言葉が返ってくる。
「シズネ、仕事忙しいんじゃなかったの?」
ヴィンの言葉に静音は「粗方カタは付いたし、一晩位酒カッ食らって駿馬の飯を食べる位許されると思うんだよね」と笑うのだ。
 
「静音、仕事大丈夫なのか?」
僕は来た時と同じくヴィンのバイクで、静音は静音で自分のバイクを転がし瀬波さんの家に戻れば、僕らの後ろに居た静音にそんな言葉を投げる。
「ヴィンにも言ったけど粗方片付いたからね、全然ヘーキ」
カラリと笑う静音は勝手知ったるとでも言うように玄関を上がり居間へと向かう。
「前日から仕込んでたから思った以上に早く準備出来たな……って静音仕事は?」
料理の乗った大皿を持ち居間に入って来る瀬波さんも同じように静音にそう告げれば「その質問は聞き飽きたわ!」と静音は吠えた。
 
「成程、この豪華な夕飯はコレか」
僕らは手分けして瀬波さんの作った食事を居間へと運び込み、僕以外の大人たちはワインを片手にその夕食をつついている。そんな居間に鎮座する大型かつ薄型のテレビには何年か前に帰還を果たした探査機のドキュメント映画が流れる。そんな映像を見ながら静音は合点がいったようにそんな事を口にするのだ。そんな静音に瀬波さんも「そういうこと」と照れくさそうに笑うのだ。
「コレって、どういう事?」
僕はこの部屋に居る一番まともな大人である先生にそう訊ねる。
「駿馬な、あの探査機が帰還した時「何で俺はウーメラに居ないんだ!!」って叫びながら浴びるほど酒飲んで大号泣して潰れたんだよ。それが丁度7年前の今日なんだよな」
先生のその言葉を聞いて何となく気付く。このイベントは7年前のこの日から、彼らにとって毎年の恒例行事なのだろうという事を。
「ホラ、駿馬って元々宇宙開発オタクな所あるじゃない。やってるのも航空宇宙工学だし」
成程、と僕は頷く。そう言われてみれば静音は原子力、先生も数学教師ではあるものの、瀬波さんと同じ専攻だったという話は聞いたことがある。ヴィンに至っては大学で現役で航空宇宙工学を学んでいる学生の筈だ。この空間の理系密度がおかしい。
「それにしても、静音と駿馬の子供が文系なのは驚いたよね」
僕の妙な表情を察したのか先生がそう言って笑う。そんな先生の言葉に静音も「それね。紫苑の場合どっちもバランスよく出来るって感じだけど。私文系ムリ。ここは駿馬似じゃない?」なんて笑うのだ。
理系科目も得意ではあるけれど、どちらかと言えば文系の科目の方が好きな僕は「そうなんだ?」と瀬波さんに視線を飛ばす。
「まぁな、宇宙が好きなのは大前提だけど、文系科目も得意だったよ」
そう言って照れくさそうに笑う瀬波さんを先生と静音さんは柔らかな笑みを湛えて見つめていた。

そんな2人を僕は何となく見ない振りをして、その笑みの理由を呑みこんだのだ。

7年前に探査機が戻った夜を祝うこの宴は、用意された酒が大人たちに飲みつくされるまで続くのだ。「えっ、何駿馬のトコで夕飯食べて泊ってくんの? 私も行くに決まってるじゃん」
ヴィンのバイクに乗せてもらい自宅に帰って着替えを鞄に詰めながら、仕事中だと思っていた静音に瀬波さんの家に泊まる事を告げればそんな言葉が返ってくる。
「シズネ、仕事忙しいんじゃなかったの?」
ヴィンの言葉に静音は「粗方カタは付いたし、一晩位酒カッ食らって駿馬の飯を食べる位許されると思うんだよね」と笑うのだ。
 
「静音、仕事大丈夫なのか?」
僕は来た時と同じくヴィンのバイクで、静音は静音で自分のバイクを転がし瀬波さんの家に戻れば、僕らの後ろに居た静音にそんな言葉を投げる。
「ヴィンにも言ったけど粗方片付いたからね、全然ヘーキ」
カラリと笑う静音は勝手知ったるとでも言うように玄関を上がり居間へと向かう。
「前日から仕込んでたから思った以上に早く準備出来たな……って静音仕事は?」
料理の乗った大皿を持ち居間に入って来る瀬波さんも同じように静音にそう告げれば「その質問は聞き飽きたわ!」と静音は吠えた。
  
「成程、この豪華な夕飯はコレか」
僕らは手分けして瀬波さんの作った食事を居間へと運び込み、僕以外の大人たちはワインを片手にその夕食をつついている。そんな居間に鎮座する大型かつ薄型のテレビには何年か前に帰還を果たした探査機のドキュメント映画が流れる。そんな映像を見ながら静音は合点がいったようにそんな事を口にするのだ。そんな静音に瀬波さんも「そういうこと」と照れくさそうに笑うのだ。
「コレって、どういう事?」
僕はこの部屋に居る一番まともな大人である先生にそう訊ねる。
「駿馬な、あの探査機が帰還した時「何で俺はウーメラに居ないんだ!!」って叫びながら浴びるほど酒飲んで大号泣して潰れたんだよ。それが丁度7年前の今日なんだよな」
先生のその言葉を聞いて何となく気付く。このイベントは7年前のこの日から、彼らにとって毎年の恒例行事なのだろうという事を。
「ホラ、駿馬って元々宇宙開発オタクな所あるじゃない。やってるのも航空宇宙工学だし」
成程、と僕は頷く。そう言われてみれば静音は原子力、先生も数学教師ではあるものの、瀬波さんと同じ専攻だったという話は聞いたことがある。ヴィンに至っては大学で現役で航空宇宙工学を学んでいる学生の筈だ。この空間の理系密度がおかしい。
「それにしても、静音と駿馬の子供が文系なのは驚いたよね」
僕の妙な表情を察したのか先生がそう言って笑う。そんな先生の言葉に静音も「それね。紫苑の場合どっちもバランスよく出来るって感じだけど。私文系ムリ。ここは駿馬似じゃない?」なんて笑うのだ。
理系科目も得意ではあるけれど、どちらかと言えば文系の科目の方が好きな僕は「そうなんだ?」と瀬波さんに視線を飛ばす。
「まぁな、宇宙が好きなのは大前提だけど、文系科目も得意だったよ」
そう言って照れくさそうに笑う瀬波さんを先生と静音さんは柔らかな笑みを湛えて見つめていた。
 
そんな2人を僕は何となく見ない振りをして、その笑みの理由を呑みこんだのだ。
 
7年前に探査機が戻った夜を祝うこの宴は、用意された酒が大人たちに飲みつくされるまで続いていた。

 

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7回目のはやぶさの日を祝って。

この日はいろんな事を思い出しますね……宇宙開発史はいいぞ……まだまだ浅学なので多くは語れませんが。

ちなみにこれは秘密を明かすに善き日和。の数か月後です。

 

| 21:27 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
流星群を見に行くササセナ

「あれが、北斗七星。で、柄杓の先から辿った所に北極星。その向こう側にあるWの形がカシオペア。あそこらへんが今回の中心かなー」
 
タバコを吸いながらごちゃごちゃとした星空を指先で示す隣の男は、相変わらずの強引さで彼が職場から帰るや否やTVを見ていた俺を車に積み込んだ。そんな俺たちが向かった先は、彼のお気に入りらしい天体観測スポットである海岸沿いの防波堤で。
そうして彼はいつまで経っても星の位置を覚える事をしない俺に大味な星空解説をするのだ。彼の目にはプラネタリウムの人工的な星空のように、星々が線で繋がれて居るのだろうかと思う程にさらさらと指が星空をなぞって居たのだが、俺にはどうしてもその線が見つけられなくて、その指先を追っても、北斗七星すら満足に見つけられなかった。
 
「つうか、今日は何でまた。」
天体観測の目的も聞かされず、海岸まで運ばれた俺には彼の意図が全くもって理解出来ず、彼が最後に指し示した場所を見つめながらそう尋ねる。そんな調子の俺に、彼はまたまたー、なんて笑うのだ。
「極大は深夜だけど、今日は流星群なんだ」
携帯灰皿に吸い終わったらしいタバコを突っ込みながら「星の光の見え方は、同じじゃないけど、流れ星は一緒に見れるだろ?」と。彼が前に言っていた目と星の輝きの話を思い出しながら、俺は「そうだな」と呟くように口にした。隣では彼が子供のように無邪気な声を上げながら、流れる星を指差していた。
 
 
————————————————————

 
即席散文ササセナ。
最初は現パロササセナ書こうと思ってたのに、現パロ版篠原は流石に星座分かるよなって思い直してポラリス版で。
目と星の輝きの話ってのは人の目(網膜だったか角膜だったか)の切れ目?の違いによって星もそうだけど街灯とかの光の輝きの見え方が違うって話?です。十年以上前に天文台のおっちゃんに教えてもらった話なのでうろ覚えなのですが……星が輝いて見えるのは目の都合もあるけど大気があるから、みたいな小ネタも入れたかったよね、入り切らなかったね。
  
(tumblrより移植:2012/8/14)

「あれが、北斗七星。で、柄杓の先から辿った所に北極星。その向こう側にあるWの形がカシオペア。あそこらへんが今回の中心かなー」
 
タバコを吸いながらごちゃごちゃとした星空を指先で示す隣の男は、相変わらずの強引さで彼が職場から帰るや否やTVを見ていた俺を車に積み込んだ。そんな俺たちが向かった先は、彼のお気に入りらしい天体観測スポットである海岸沿いの防波堤で。
そうして彼はいつまで経っても星の位置を覚える事をしない俺に大味な星空解説をするのだ。彼の目にはプラネタリウムの人工的な星空のように、星々が線で繋がれて居るのだろうかと思う程にさらさらと指が星空をなぞって居たのだが、俺にはどうしてもその線が見つけられなくて、その指先を追っても、北斗七星すら満足に見つけられなかった。
 
「つうか、今日は何でまた。」
天体観測の目的も聞かされず、海岸まで運ばれた俺には彼の意図が全くもって理解出来ず、彼が最後に指し示した場所を見つめながらそう尋ねる。そんな調子の俺に、彼はまたまたー、なんて笑うのだ。
「極大は深夜だけど、今日は流星群なんだ」
携帯灰皿に吸い終わったらしいタバコを突っ込みながら「星の光の見え方は、同じじゃないけど、流れ星は一緒に見れるだろ?」と。彼が前に言っていた目と星の輝きの話を思い出しながら、俺は「そうだな」と呟くように口にした。隣では彼が子供のように無邪気な声を上げながら、流れる星を指差していた。
 
 
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即席散文ササセナ。
最初は現パロササセナ書こうと思ってたのに、現パロ版篠原は流石に星座分かるよなって思い直してポラリス版で。
目と星の輝きの話ってのは人の目(網膜だったか角膜だったか)の切れ目?の違いによって星もそうだけど街灯とかの光の輝きの見え方が違うって話?です。十年以上前に天文台のおっちゃんに教えてもらった話なのでうろ覚えなのですが……星が輝いて見えるのは目の都合もあるけど大気があるから、みたいな小ネタも入れたかったよね、入り切らなかったね。
  
(tumblrより移植:2013/8/12)

 

| 20:38 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Let's look at the new world ! : 12

「合鍵も持ってるんだから勝手に入って来てもいいのに」
互いに仕事が休みである日の昼下がり、恋人の家を訊ねればドアを開けて彼は笑う。
「サトシにドアを開けて欲しいんだって」
「全く、しょうがない奴だな」
そう言って彼は笑みを深めるのだ。
 
「そういえば、リツカは?」
彼の家に来るのも久しくなってしまった理由の一つでもある彼の姪の名を上げれば「葎花ちゃんは最近駿馬君達にべったりだよ。今日からパリに行くとか言ってたかな? 紫苑君に案内して貰うんだとかで」という返答。
「そう言えば観光で来てたんだもんな……旅行してる形跡があんまり見えないけど」
俺たちの職場に併設されている科学館に入り浸っている所を度々見かける上に、最近はヴィンやサトシ、ヴェルナー辺りに連れられて職員食堂にちゃっかり座っている事もある。ガサツでぶっきら棒で毒を吐くタイプの女ではあるが、どこか野生動物みたいな所があって見かけたら構いたくなるのは解る。言葉が不得手でも意思疎通をしようとする意思が見えるのもポイントが高いのだ。その中でも日本語が出来るサトシやヴィンや駿馬とよく居るのは当然の結果だろう。俺はと言えば数週間前に彼女と軽い格闘技戦をやった時にうちの部署に勧誘したのを切っ掛けに完全に警戒されている。俺が近くに来ようものなら凄まじい勢いで物理的に距離を置かれるのだ。
「葎花ちゃんが来た後、格臣くんからこっちに来た経緯は軽くメールで来たもんだからちょっと心配してたんだけど、案外元気で楽しんでるから良いんじゃないかな?」
「俺は避けられてるけどな? っていうか、タダオミっていうのは誰?」
リビングへと入り、俺はソファへ座り、サトシは空のマグカップへ用意してあったコーヒーを注いで俺の隣に座りながら俺の分のそれを渡す。
「あれは完全にエルマーのミスだろ。格臣くんは葎花ちゃんの弟。しっかりしてる子でね、姉ちゃんをよろしくって」
「リツカにしっかりした弟ねぇ……それにしてもリツカがこっちに来た経緯ってどういう意味? 仕事辞めて次に移る前のバカンスなんだろ?」
意味ありげに使われた『経緯』の言葉に俺は首を傾げる。初めて会った夜に「仕事辞めて次にすぐ移るのも癪だったんで観光ですよ」と笑った彼女を俺は覚えている。
「んー、何かね、仕事辞める前結構鬱っぽかったらしくてね。情緒がかなりヤバかったみたい」
「全くそんな風には見えないけど、もしかして俺の勧誘めちゃくちゃ警戒されてるのってそこら辺関係してる?」
「かもねぇ、元々葎花ちゃんって弱味を見せないタイプの子だったし、無理もしがちだったからなぁ……この間シュンメからも夜中にいきなり泣き出してたって話聞いたし。やっぱり弱ってるんだろうね」
「弱味見せないってホント、どこの野生動物だよ」
「だよねー、僕もたまにそれは思うよ」
叔父がそう思う位だ、俺たちの彼女への感想は多分全く間違ってはいない。それにしても「サトシってあんまり家族の話してなかったけど、リツカの話だけはよくするよな」ふと浮かんだ疑問を俺はサトシに投げかける。その問いを投げられたサトシは「そうだなぁ」なんて、目を細めて遠くを見て何かを考える。答えを探すように。
 
「まだ僕が若くて、葎花ちゃんも小さかった頃。それこそネットもメールもまだこんなに便利じゃなかった頃、僕の話を一番楽しそうに聞いてくれたのが葎花ちゃんだったからかな」
そういえばこの年上の恋人は大人しそうな見た目にしては存外話好きで話を聞いてくれる人間が好きだった。しかも、その内容が万人向けではない話題も含めて。俺は彼のそういう所も含めて好きだから気にはならないし、その話をちゃんと聞いていたという所からこの交際が始まったとも言えるのもあって、その感覚を理解できた。
きっと、その頃のサトシの話を聞いてくれる唯一の相手だったんだろう。
「成程な、確かにリツカってそういう所あるよな」俺が頷けば、サトシは「あ、僕から葎花ちゃんに鞍替えする気だな?」とわざとらしく機嫌を悪くして見せる。
「いや、俺より強い女はちょっと……っていうか、リツカは同僚としてほしい。アイツ絶対仕事できるタイプだろ」
「それもダメ、だから葎花ちゃんが逃げるんだよ」
俺の返答にサトシは笑い、俺はサトシの頬に触れるだけのキスをひとつ落とす。
 
「で、リツカはパリなんだから今夜は泊まっていいんだろ?」
「そのつもりで来たくせに」
 
「まだまだ外は明るいんですけど?」なんて笑うサトシに「良いだろ、久々なんだから」とだけ返せば、しょうがないなぁと彼は笑う。
 
こんな些細な幸せが、俺たちの日常を作るのだ。

 

 

——————————————————

 

 

エルマーと久慈さん。

そう言えばカプとして書いてなかったなとふと気づいた。

格臣は割と心配性だしシスコンです。

多分笹野が渡欧して2か月くらいは経っている頃。

 

 

| 21:23 | Unser Haus! | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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