Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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ALL THE WAY
 
残業中に鳴り響く無機質な着信音、画面の表示を見れば、同期の名前。
「なしたの?いきなり」
そうやって電話に出ればげんなりとした低い声で「今何処に居る」との紋切り口調。本当に一体何があった。会社だけど、と返せば「終わったら、直行でウチ来い。サツキがうざい」と返されて頭の中は疑問符に埋め尽くされる。
「え、サツキそっち行ってんの?」
「いきなり押しかけてきた、今飲みながら大声でベッドの中のお前について惚気てるぞ、うぜえ」
「は!?!?!?!?」
確かに後輩であるサツキとは何やかんやで付き合っている。ヤることもヤッてる仲だ。だけどそれとこれとは色々と違うだろ、大声で話すことでも無いだろ。話してる相手がツカサで良かった。ハルナちゃんも同席してたとしたらハルナちゃんごめん。
「スミノフ原液で潰すからな、早く飼い犬迎えに来い」
不穏な言葉の後ろでギャンギャン騒ぐサツキの声。
「ヨロシクオネガイシマス」
混乱しまくっている脳内では、そう頼むことしか出来なかった。

そうして必死に仕事を片付けてツカサの家、正確に言えばハルナちゃんの就職を機に同居を始めた二人の家に向かえば、ツカサの宣言通りに潰されて屍と化しているサツキと、いつも通りの真顔でウイスキーを手にするツカサ、そして呆然としたハルナちゃん。俺の顔を見た途端に真っ赤になって奥の部屋に走って行ったのだけれど、サツキ、君一体何を話したの?
「ミナトお前さ、もうちょっとサツキの事可愛がってやれ」
ここ数年のハルナちゃんとの付き合いで、幾分か柔らかな空気を纏うようになったツカサは、俺をそう諭す。「大変だったんだぞ、サツキ宥めんの」と、素直じゃない言い訳を重ねながら。まぁ、素直じゃないのは俺もか。
「折角ハルナが長期出張から帰ってきてゆっくりしようとしたその日によりにもよってお前らの痴話喧嘩に巻き込まれるとか、本当ツイてない」
「そもそも痴話喧嘩した覚えもないんだけども」
丁度、お互いの仕事が立て込んでて数週間程会えない日が続いていた為に、喧嘩どころか言葉を交わす事すら出来て居なかったのに、痴話喧嘩とはこれ如何に。そうなのか?とキョトンとするツカサに頷けば、まぁ、痴話喧嘩じゃなくても何でも良いが、と切って捨てられる。
「兎に角、いきなりサツキは押しかけてきて私に縋り付いて泣き出すし、その後に帰ってきたハルナも玄関の靴見て早とちりしやがって、半ベソかきながらツカサさん浮気なんですか!?とか言って入ってくるし、お前の痴態は赤裸々に語られるし、言ってやろうか?」
何でもない事のようにそう言っているツカサは余程疲れたのだろう、いつも以上のげんなりとした声で淡々と言葉を続ける。
「エンリョシトキマス」

まぁ、とりあえず飲め、と差し出されたグラスに口を付けてしまったおかげで、今夜はツカサの家でツカサの酒に付き合う選択肢しか残って居なかった。サツキが起きたら少しは優しい言葉を掛けてやろう、と思いながら。


—————————————————

前回書いた番外編を思い返して「コレ、サツキさんとミナトさんデキてたらヤバいな」とか思った結果がこれ。
前回の番外編から更に数年後。

多分ツカサさんミナトさんは30越えてる。
ツカサさんは多分大学で助手か何かやってるんじゃないかな。そうじゃなかったら、ジャズバーとかでピアノ弾いてそう。



 
| 23:20 | その音を、聞かせて。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
I GOT RHYTHM
 
「おつかれさんでーす、って、アレ?サツキさん来てたんですか」

就活の合間に部室に顔を出して見れば、そこには卒業して社会人になった筈の先輩の姿。
「お、ハルナじゃん。おつかれさんで久しぶりー」
そう言って笑いながら弄っているのは誰かが持ち込んだ小さいサイズのテレビと再生専用のDVDプレイヤー。部室内に溜め込まれていたセッションを撮った映像を漁ってたらしい。TVの中では三人の男女が楽しげにセッションをしていた。
「てか、何でまたこんな微妙な時間に遊びに来たんですか。んで、何見てんです?」
「ハルナも言うようになったねー、ミナトさんに宅飲み誘われて待ち合わせ中なんだよね。暇だったから漁ってたんだ」
ハルナも参加しちゃえばいーじゃんなんて、そんな事を話していればガチャリと鳴る部室の扉。
「随分懐かしいモン見てるじゃないか」
「あれっ、ハルナちゃんも来てたんだ。一緒に飲むー?」
部室にやってきたのは俺が入学する以前にからこの部のヌシであるらしいツカサさんと、OBであるミナトさん。

「続きはウチで見ようよ」というミナトさんの一言で、ミナトさんが選んだDVD数枚と俺たちはミナトさんの車に乗り込みミナトさんのお宅へとお邪魔する事になった。一人暮らしとは思えない広めな部屋にドンと置かれた大型テレビに映されるのは、持ってきたDVDの中の一枚。
「これって、俺の定演デビューのやつじゃないですか!!」
御名答ーと笑うミナトさんは確実に分かっててやってる。サツキさんもなっつかしーと笑ってるし、ツカサさんは相変わらず黙々と酒を呷ってる。

それから何枚かのDVDをあーだこーだ言いながら酒とつまみを胃に流し込んでいれば部室で見ていたものが大画面で流れはじめる。
「コレ、部で使ってるビデオカメラを買った直後に試し撮りしたやつなんだよねー」
懐かしいなぁ、と笑いながら話すミナトさんは過去に思いを馳せるようにメガネの奥の目を細める。
「じゃぁ、このドラム叩いてるのってミナトさんなんです?」
やっぱミナトさんのドラム昔からキレッキレっスねーそんけーですーとミナトさんにベタベタと絡みはじめるのはサツキさんだ。酔っ払ったサツキさんに抱きつかれるミナトさんは「サツキ、暑苦しい」と、剥がそうとしているけれど本気ではなさそうな力加減で。じゃれ付いてるドラマー二人は放っておいて俺はもう一度その映像に目を向ける。ピアノを弾くロングヘアの女性は楽しげに笑みを浮かべ、ドラムのミナトさんは今と変わらないキレのあるリズムを刻む。そしてその二人の笑みの先には画面の中央でタップダンスをする男の姿。男は昔の映画の劇中で使われたその曲のシーンを真似するように歌いながらステップを踏んでいた。
曲は、I GOT RHYTHM 
リズムも音楽も恋もある、他に何が必要だというの?と陽気に楽しく歌われる曲。
「ちなみにね、そのピアノ弾いてんの、ツカサだよ」
サツキさんに抱きつかれながらミナトさんは俺にそう教えてくれた。
「めっちゃ笑ってるんですけど!?」
と盛大にツッコミを入れたのはサツキさんだったけれど。

ツカサさんとの関係が変わってから1年と半年位の年月が経っていたのだけれど、ツカサさんは相変わらずあまり自分の事は話してくれなかったし、ロングヘアだった頃もあったなんて知らなかった。出会った頃に比べれば、明るい曲も弾くようになっていたけれど、こんな明るい恋の歌を笑いながら弾いていることなんて、見たこともなくて。今まで得たツカサさんやミナトさんの過去を総合して考えたら、きっと、画面の中央でステップを踏む彼が、"ヤツ"なんだろうな、という見当を付ける位しか俺には出来なくて。
「ハルナ、どうかしたのか」
そう問うのはツカサさんだ。ビールと日本酒に飽きたらしいツカサさんはウイスキーを片手に面白くなさげな表情でタバコを吸っている。
「ちょっとだけ、自己嫌悪中です」
I GOT RHYTHMの演奏は終わって、今度は知らない先輩たちが違う曲を演奏している。
自己嫌悪?と首を傾げるツカサさんに頷いて。
「付き合っている筈ですよね、俺たち」
「そうだな」
「でも、俺。ツカサさんの事、全然知らない」
そう言ってコップの中のビールを飲み干せば、ツカサさんは自分のコップのウイスキーの半分を俺のコップへと流し込む。
「お前は、今の私を一番知ってると、思ってる。昔なんて気にするな」
そう言ってカチン、と一方的にコップの縁を当てればツカサさんは自分のコップの中身を呷った。俺もそれに倣って茶色い液体を喉に流し込んでチラリと隣を覗き見れば、そこには俺を見て柔らかな笑みを浮かべるツカサさんが居た。

—————————————————

その音を、聞かせて。本編数年後の話。
本編書けよって話なんですが、唐突にI GOT RHYTHMで何か書きたくてこんな事に。ミナトさんとサツキさんは酒が入ったらいちゃいちゃじゃれ合ってれば良い。お前らくっつけ。そしてツカサさんは女性だったらしい。
ツカサさんの事好きだけど自信なくなるミナトくんと、ストレートにちゃんと好きなんだから心配すんなとは言えないツカサさん。

***

I Got Rhythm / Gershwin
『リズムも音楽もある、恋人も居る。他に何が必要だっていうの?』
| 23:12 | その音を、聞かせて。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
その音を、聞かせて。

02:All Of Me

いつもの金曜日。私はいつも通りにピアノの前を独占していて。私がこの習慣を初めてから、どんどんとこの曜日に顔を見せる人間が少なくなっていったのは申し訳なく思うが、やめられないのだから、仕方が無い。そんな今日の部室には私と、そして入部初日に私と遭遇した運のない後輩の二人だけ。同期に言わせると「ツカサに懐いてる珍しい後輩。」らしいが、懐かれている自覚はないし、お互いに話すこともあまりない所為でこの一年、付かず離れずな距離感を維持している。私はピアノの前に座り、彼は”アイツ”が部室に置いて行ったーー取りに来る事が二度とない為に部の蔵書と化していたーージャズベースの理論書を読んでいる。話すこともなく、居心地は悪くない沈黙の中、互いに互いを気にすることなく。

「ツカサ、生きてるー?」
そんな沈黙を防音扉の開く音と能天気な明るい声で打ち破るのは、とっくに社会人となった同期であるミナト。何だ、と振り向けば、そんな顔すんなよなーなんてまた人好きのする笑顔を浮かべながら
室内へとずんずんと進んでくる。昔から変わらない強引さで私の腕を掴んで後輩に「ハルナちゃん、ツカサ借りてくよー」なんて、相手の返事も聞かず、なすがままにされている私の腕を引き、後輩をそのまま置き去りにして部室を後にするのだ。

「ってことでな、いつまで学生やってるつもりなの」
私とミナトが腰を落ち着けたのは学校から少し離れた国道沿いのファミレス。ミナトの車に乗せられてきた私の目の前にはミニサイズのサラダとビール。車を運転するミナトの前にはハンバーグステーキセットとコーヒー。互いに喫煙者であることを知ってる私たちが座るのは勿論喫煙席で。ミナトが部室に顔を見せ、更に飲み会がないような日は大抵二人でこのファミレスへと足を運ぶーー…もとい連行されてるお陰で、大抵の店員は希望を伝えずとも喫煙席へ案内するようになってしまった。きっと、何年も続けて通ってる所為だろう。私たちがこのファミレスを気に入ってるのは、長居しやすいからという事の他に、店内BGMにスタンダードをかけていることだ。人の意識を邪魔しない程度の音量で静かに流れるその曲は、枯葉。どスタンダードなその曲はシャンソンらしく哀愁のある旋律で。味わいのある低い女の声がガヤガヤとした店内を密かに満たしていた。
「さて、ね。でも、きっと私は社会人にはなれないんだろうな」
ああ、クズすぎて。と納得するように肉を口に運ぶミナトにまぁな、と答えながら私は私で野菜の切れ端を口に運ぶ。合間合間にアルコールを流し込むことも忘れずに。サラダを完食すれば、胸ポケットに突っ込んだままにしていたマッチを取り出し、ポールモールに火を付ける。
「さっきの質問な、学生やってんのはこのまま大学に残れる程度の頭があるから。と、金曜の部室に居たらアイツが迎えに来てくれる気がして、だな」
ものすごい勢いでハンバーグステーキセットを平らげたミナトは奇妙なものを見るような目で、私を見つめる。私は未確認生命体か何かか。
「お前、それ本気で言ってんの?」
店内BGMはあれから数曲変化して、聴き覚えのある、明るいメロディへと変わっていた。
「私は冗談は言わない」
「知ってる。けどな、ツカサ。」
ああ、この曲は、あの曲だ。ミナトの声が店内BGMの奥へと沈んで行く。私の意識は、その曲に引きずりこまれていく。

「ツカサ、現実は、”あれ”からもう5年進んでるんだ」

この曲が明るく歌うように。アイツが居なかったら、私が生きてる意味なんて、無いに等しいというのに。そうぼんやりと想いながら、私はミナトの苦しげに吐き出された言葉を黙殺した。

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ツカサさんは性別不詳です。性別、不詳です。
私の中ですら確定してないので、ツカサさんの性別は日夜変化しています(まがお)
 
***

All Of Me / Gerald Marks・Seymour Simons
『私の心を持って行ったのなら、心以外だって持って行って!』
 
| 20:39 | その音を、聞かせて。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
その音を、聞かせて。

01:Left Alone

その人は、決まって金曜の4講終わりには部室に居る。もっと詳しく言うならば部室に置かれたアップライトピアノの前。其処がその人の定位置で。それは俺がこの部に入る前から暗黙の了解となっているらしく、この部に籍を置くピアノ弾きは金曜は部室にピアノを弾きにくる事がない。その人のピアノの音色を聴きに来たり、他の部員と話に来たり、若しくは呑みの集合場所として使われる時に顔を出す事はあっても、だ。
そもそも、金曜は部の活動日ではないというのもあるがーー4講終わりに部室に顔をだせば大抵誰かが居るこの部に活動日などあってないようなものなのだけれど。
 
俺がそんな、部長であるサツキさんの言葉を借りるならば「ここのヌシ」であるところのその人ーーツカサさんに出逢ってから二度目の春が来た。
 
ツカサさんは基本的に金曜以外には此処に顔を出さず、他の曜日に来る事は稀だ。金曜に部室にくる事がない同期はツカサさんが気紛れにふらりとセッションに顔を出した時にその存在を認知した位で。しかもそれは秋の事だったような気がする。ピアノ弾きの同期がツカサさんの演奏を聴いて「何処の大学の人だろう」と言い出したのには流石に噴き出すのを堪えることが出来なかった。
ツカサさんが金曜の部室でいつもピアノを弾いているかと言えばそうでも無く、確かにピアノを弾いている率は高いけれどただ其処で文庫本を開いている時もあれば、何もせず座っているだけの日もある。まるで金曜日の部室居る事それ自体が重要であるかのように。
喪に服しているかのようにどんな季節でも露出の低い真っ黒な服に身を包み、伏せられがちの目は表情をあまり変える事がなく。口数も多くはない。所謂「取っ付き難い」タイプに分類されるツカサさんが気になって仕方が無いのはきっと、最初に部室に足を踏み入れたあの日に聴いた爽やかで明るいようでいて、どこか切なく淋しいあの音色を聴いた所為だ。
 
ツカサさんが必ず居る金曜目掛けて部室に足繁く通いはじめて一年が経つと言うのに、俺とツカサさんの距離は縮まる事もなく、只々ツカサさんのそばに居る、そしてその音を聴く。そんなことしか出来ずにいた。
折角部室に居るのだから、と部室に置かれている既に卒業しているらしいベース弾きの先輩がそのままにしていったといいうジャズベースに関する理論書をゆっくりと繰る。そうやって書かれている内容を脳内に反芻しながら、読み進めていれば、低く響き始めるピアノの音。去年の俺であればタイトルまでは分からなかったであろう聴き覚えのある曲、今ならすぐに解る。そして、その曲の背景と、その歌詞も。ツカサさんが好んで弾く曲のひとつであるその曲は、哀しく、そして淋しく、俺とツカサさんだけしかいない部室に響いていた。
 
「あなたは、ずっとそうやって一人きりだと、哀しく呟いてるつもりなんですか……」

ピアノの音を邪魔しないように、呟いたその声はその殆どが息で、今日も“私は独りきりだ”と哀しく奏でるツカサさんに届く事はなかったし、届くように呟く勇気もなかった。

――――――――――――――――――――

"その音"二曲目。
気付いたらハルナくんの独白になってた。そしていきなり前回から一年経ってた。
ツカサさんの同期出そうとしたのに出て来なかった………同期さんはよ……

***

Left Alone / Billie Holiday・Mal Waldron
『私は独りきりで、取り残されてしまった』
 
| 20:35 | その音を、聞かせて。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
その音を、聞かせて。
 Prolog : Alone Again(Naturally)
 
この曲を弾き終わったら、死のうと思ってた。
 
そう決めて弾き慣れた鍵盤に指を滑らせていれば、メロディの中にガチャリという不協和音。思わず手を止めてその音の発生源に目をやれば、そこに立つのは一人の青年。
「入部希望なんですけど……」
小さな声で呟くように告げた彼を見遣りつつ、ポケットの中の携帯を取り出しアドレス帳からこの部の部長の名前を呼び出し、迷わず発信の操作をする。
『どーかしましたかー?』
数コール後に出た男の寝ぼけきった声にため息一つ。新入生の来るこの時期くらい、ちゃんと起きて部室に居ろ。恐らくこの曜日を全休にしーーもしかしたら自主休講かもしれないがーー彼の住処であるアパートの愛しい愛しいベッドの中で惰眠を貪っていたであろう彼に「入部希望者が来てる。早く来ないと帰っちまうぞ」と軽い脅しと共に入部希望者の来訪を告げる。『わー!待って、待ってくださ、今から行くんでっ!!ツカサさん場を!持たせといてくださ一!!』
ドタバタと煩い部長の声にうんざりとため息一つ零しつつ「私に先輩要素を求めるな」と返せば、『話相手位は出来るでしょーが!』と叫びそのまま奴は通話をブチ切る。通話の途絶えた携帯をポケットに戻し、もう一度ため息を零せば、困った様子の青年の顔が目に入る。
「あの、俺、日を改めましょうか……?」
そう申し出た青年に最初からそうしてくれ。と言いたくなるのを堪え、右手でそれを制する。「待て。私はこういう事務に疎いが、この部の部長がこっちに向かってる。
奴に無駄足を踏ませるか?」
親しい同期が聞いたらもっと優しく!にこやかに!とでも言い出しそうな程無愛想な言葉で青年を引き止めていれば、ドアを蹴破るような勢いで転がり込んでくる部長。

「よし、早かったな」
満足げに呟いた言葉は聴かれていたらししく、「アンタが脅すからでしょう!!」だの「めちゃくちゃ困り顔じゃないですかこの子!!」だのと突っ込まれる。大体困らせたのは私じゃない。それに、「大体な、私に渉外能力を求めるな。ピアノを弾くしか能がない人間だ」知っているだろ。と短くはない付き合いの男にそう言えば、知ってますとも!でももうちょっとだけ努力してください!と更に突っ込まれる。
「善処はしよう、しかし今はまず、そこの青年の相手をする事が先決だろ?」
そう言って放置されていた青年を指し示せば、彼は慌てたように青年の相手をはじめた。私はと言えば、人生最期の一曲を邪魔され萎えた死への願望を再び心の引き出しに仕舞い込み、手持ち無沙汰に彼らのやり取りを見るしかなく。
「なぁ、青年」暇を持て余し、入部届を書き終えた青年に、声をかける。
「ハルナくんですよ」
な、と何故か部長が呼び掛けに答え、既に意気投合したらしい部長とハルナくんとやらは二人揃ってこちらを向く。「じゃぁ、ハルナ。担当楽器は」
「高校の軽音でベースをやってました」
今度は本人がはっきりとした声で答える。遠慮するような小さな声しか聞いて居なかった私はその凛とした声に心の中でプラスを一つ付けた。
「ジャズは」
「親が演ってて、それ聴かされて育ちました」
その答えを聞いて、一人頷く。揃って首を傾げる二人に「演るぞ」と一言。「えっツカサさんから演るとか言うの珍しい!」とは部長。「俺楽器持って来てないですよ!?」とはハルナ。
「そういう気分だ。ドラムとベースが居たらトリオが出来るからな。ハルナ、楽器は部室のを使え。サツキ、用意してやれ」暴君だ!と喚きながらもベースを準備し始める部長を無視し、ハルナに黒本を放る。「曲は選ばせてやる」放った黒本を上手く受け取り、ページを繰るハルナを見、もう少しだけ生きるのも悪くはないかもしれない、と。一人口角を上げた。

すまないが、お前の元に行くのはもう少しだけ遅くなりそうだ。
少しだけ、お前に似た後輩を、見て居たくなったんだ。

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性別不詳年齢不詳の死にたがりと新入部員な青年の話。
クズいジャズ研が書きたい。
何本か続きます。多分。
最初考えてた時はハルナくん男の娘だったのに普通の好青年になったよ!

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Alone Again(Naturally)/ Gilbert O’Sullivan
『また独りになってしまった、当たり前のように。』
 
| 20:33 | その音を、聞かせて。 | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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