Untitled.短文保管庫。
最近は殆どがこっちの更新です。

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昨年から翌年へ

「ホント、急だったよね」
 空港からピックアップしてきた旅先で知り合った友人達を引き連れ師走の街を案内していた私は思わずそんな言葉を口から零した。そんな私の言葉に「何か予定あったんじゃないか?」と少しだけ眉を下げて問うのはセナくんだ。昨夜突然「明日そっちに行くから」というメールを受け取った私は今日の昼の便で新千歳に降り立った彼らと一年ほど振りの再会を果たしていた。
「いや、どうせ堕落した生活してたから「寧ろ外出てめいっぱい遊んでこい」って家から追い出された」
 そう答えればセナくんは苦笑を見せる。きっと、手袋も履かず冷たい空気に晒している左手で光るものに気付いたんだろう。彼はそういう所に目敏いのだ。
「なら、めいっぱい遊ばないと」
 私の言葉に同意を告げるのはセナくんの隣に立つヴィンで。楽しそうに笑う彼の姿にセナくんは優しげに笑みを浮かべて私もついつい口角が上がる。昼間から地元の観光地を引き連れていれば、辺りはすっかり暗くなっていた。イルミネーションが輝く街の中で、二人は暖かな飲み物た入ったカップを手に冷たい風の吹く道を歩いていく。セナくんはコーヒー、ヴィンはココアをそれぞれ口にしながら通りを歩いていれば私の携帯は短いメロディを鳴らすのだ。
「あ、武将からか」
 携帯の通知を見れば、大学時代の同期であり現在は私の夫でもある武将――舞島宗直からのメッセージが届いていた。
「ブショー?」
 口から出ていたらしい私の言葉にヴィンは首を傾げる。そんな彼の問いかけに「あぁ、武将はあだ名。私の旦那」と返せば彼は思わずといったように声を上げる。
「えぇ!? リツ結婚したの? 聞いてないんだけど!」
「言ってないし……でも、セナくんは気付いてたみたいだし」
 驚きを隠さずに言葉を紡ぐヴィンにそう返せば、彼の不満の矛先はセナくんへと向かう。「何でいってくれないの、シュンメ!」叱るような口調でセナくんを非難するヴィンに笑いかけたセナくんは「リツは知られたくないのかなと思って?」と嘯く。
「そもそも言う必要が感じられなかったというか」
 セナくんの言葉に私が補足すれば、ヴィンは信じられないというような視線を私へと向ける。そんな彼の非難するような視線を小さく笑っていなしながら、話題を変えるようにメッセージの内容を口にする。
「ここ数日バタバタしてて、私もすっかり忘れてたんだけど今夜大学時代の仲間とか馴染みと飲む予定だったんだよね、ニューハーフバーなんだけど嫌じゃなきゃ二人も来ない?」
 そんな私の問いに、セナくんもヴィンも告げる答えはイエスである。そんな二人の答えを聞いた私は、メッセージの送り主へと電話を架けた。

 

    ☆ ☆ ☆

 

 すっかり忘れていた大学時代の同期である浅野が営むバーで行われる予定であった年越しパーティーの事を思い出したのは、浅野からの電話で。年末に起こった一連のアレコレを知っている彼は申し訳なさげに俺へと訊ねるのだ。
「今日は来れそうなの?」

 その一連の出来事の渦中に居た張本人はといえば、昨夜突然「去年国外逃亡した時に知り合った友人がこっちに来るらしい」なんて平然と言い放ち、俺はその言葉に家で死にそうな顔をしているよりもマシだろうと彼女を送り出していた。恐らく、彼女自身も年越しパーティーの事をすっかり忘れているのだろう。あれは、衝動的なものだったようだし今日家を出る時はすっかり普通の顔でいつもの口元だけで笑う悪役じみた笑みを浮かべていたから問題はないだろう。浅野からの情報が合っていれば、彼女が衝動的に行ったその行為の引鉄となったとしか思えない男は来ないと言うし、来たとしたら流石に今日は俺も浅野も問答無用で追い出すだろう。念のため、と送ったメッセージは端的に「今夜の飲み、どうする?」とだけ。そんなメッセージを送った直後に携帯が鳴らすのは電話の着信音。通知画面には、愛や恋とは程遠い法律上の契約関係を逆手にとって結婚というラベリングを行った相手――世間一般に対して言う所の妻の名が表示されていた。
 
 普段より少しだけ楽しそうな声色で「参加者二人増えるから、海舟に言っといて」という彼女の言葉がスピーカー越しに俺の耳へと届く。「分かった、現地に来るんだな?」とだけ問えば「そういう事で」と彼女の声が帰って来る。そしてその返答に対する俺の言葉を聞こうともせず彼女はそのまま通話を終えたのだ。
「――あ、麟か。今日は俺ら二人とも参加で、もう二人増えるらしい」
 ツー、という電子音が鳴っていた携帯を操り発進する先は今日のパーティーの主催者である浅野の携帯だ。俺自身把握できていないその情報を浅野へと伝えれば、「とりあえず二人増えた事は分かったわ」という言葉が帰って来る。「――っていうか、あの子大丈夫なの?」心配の色が隠しきれない声色で重ねられた言葉に俺は「分からん」と溜息と共に返した。
 
 そんな会話を交わしたのがかれこれ数時間前の話で。あの会話から数時間後、俺は年越しパーティーが催されている麟の店でカウンターに陣取り水割りを喉に流し込んでいた。店内のテレビでは紅白が流れ、今年も相変わらずコンセプトが行方不明の勢いだけで突き進む尖り切った公営放送で様々な歌手が歌を披露していた。
「年末に奥さんをお借りしちゃってすみませんでした」
 そう言いながら俺の隣に座るのは、リツが連れてきた旅先の知己という男の一人で。一回り以上は年上だろうその男性は確か瀬波と名乗っていたか。彼はビールジョッキをカウンターに置き、スマートな動作で煙草を咥える。役者か何かなのだろうかと思うような男前な容姿の所為か、煙草に火を付けるだけでも絵になる男だった。彼を連れてきた張本人はと言えば、テーブル席の方で他の馴染みの常連やこの店の女の子――性別は皆男なのだが――そして彼女が連れてきた二人の男の片割れである、えらく顔の整った同年代の青年と談笑している。彼女はアルコールで体温が上がったのか、服の袖口を捲っていて。その左手首には包帯が巻き付けられていた。少し乱れ始めていたその布をチラリと見た俺は、頼むからうっとおしいなんて言って包帯を投げ捨てる事はしてくれるなよ。と心の中でだけ彼女へ告げる。そんな俺の目線に気付いた隣の男はどうすればいいのだろうと気遣わしげに俺へと視線を向けていた。
「あぁ、気にしないでください。元々お互いの実家帰るとかそういう事はしないって決めてましたし、寧ろリツも楽しそうだから連れ出してくれて有り難かったですよ」
 そう言って笑ってやれば、男は小さく苦笑を見せながら少しだけ言葉を探すように視線を迷わせ、何かを呑みこむようにビールを呷った。
「俺は、アイツが生きていれば何だっていいんですよ。知らないところで死なれたくないから結婚しただけで」
 初対面の男に対して何を言っているんだろう、と脳味噌のどこかで思いながらも俺はつらつらとそんな言葉を口にする。アルコールによって軽くなった口を留める者はここには居なかった。パーティーの主催であるこの店のママ――浅野は俺と隣の男を見て小さく笑みを浮かべながら注文が飛んできた酒を作り、カウンターへと出来上がったグラスを置いていく。


「あぁ、それは分かる気がする。――愛だね」

 

 そうして男はそう言って、惚れ惚れするような完璧な笑みを見せたのだ。

 

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2018年書き納めかつ2019年書き初めです。

 

2019年に書きたいものの布石を。

セナヴィン笹野と愉快な仲間達は書いてて楽しい。

若干闇が見える気がするけど見えない見えない。

 

| 18:30 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Let's look at the new world ! : 16

 モラトリアムは無限ではない。それは終わりを迎えるべくして存在している期間だ。今日、私は現実へと戻らなければいけない。
 
「ごめんね、送っていけなくて」
 電話の向こうでサトシさんは申し訳なさそうな声で私へと謝り続ける。そもそも、宿を提供してもらえただけで儲けもんなのだ、彼へ「気にしないでよ。セナくんとヴィンが送ってくれるっていうし、何故かサトシさんの彼氏も居るけど」と告げれば「まだ諦めてなかったんだ」と笑みを含んだ声が返って来る。まだ諦めていなかった、というのは恐らく私へのヘッドハンティングだろう。何度断っても彼は私に「一緒に働こう」と壊れたオーディオのように告げ続けるのだ。呆れを通り越していっそ関心するくらいに。
「あ、鍵はエルマーに預けてくれればいいから」
 サトシさんの思い出したかのように告げられた言葉に「わかった」と答え、電話は途切れるのだ。彼は時折日本に来るし、一生会えなくなる訳ではないだろう。少しだけ感傷的になっていれば、ドアベルを鳴らす音が居間に響く。
「はーいよ」
 元々半分程度空にして持ってきたスーツケースは、国内移動分の衣服と土産物に占められている。増えた服や自分用に買った雑貨は昨日のうちにエコノミー航空便にぶち込んだ。どうせこの後すぐに仕事をする訳でもない。正直に言おう、仕事を辞めた後にハローワークすら行っていない。辛うじて年金と保険と住民票の手続きだけはした。そんな現実を思い出し思わず家のドアを開けながらため息が漏れる。
「人の顔見てため息つかないでよね」
 ドアを開けてすぐに視線が交わったのは一番前に居て、私と背丈も殆ど変わらないヴィン。その後ろにはエルマーと雨宮さんが並び、停めてあるトゥアレグの運転席ではセナくんがこちらへと手を振っていた。
「荷物これだけ?」
 ヴィンの問いに頷き、「他の荷物はSALで送った」と重ねる。そんな私の回答に三人の男はナルホドと頷くのだ。
「ていうか、何故に雨宮さんまで?」
 ふと浮かんだ疑問を口に出しながら家の鍵を掛ければ、彼は「俺は出張。偶然にも同じ便でね」と笑う。
「そういう事ね、あ、エルマー。ハイ」
 日本語のまま雨宮さんの言葉に頷き、エルマーへこの家の鍵を渡す。名前を呼ばれた事は分かったらしい彼は私が差し出した鍵を受け取る。
 途切れ途切れのドイツ語で「サトシさんに渡してくれ」とエルマーへ鍵の処遇を告げれば、口端を上げて笑い、私の頭をくしゃりと撫でる。ぺらぺらと早口のドイツ語を投げかけられてもそれを聞き取れるほどの耳は装備していない。ヴィンに視線を投げれば「いつものヘッドハンティング」と笑いながら告げられる。
「だから断るって言ってるだろう」
 英語でもドイツ語でもなく、日本語で飛び出したその言葉はヴィンにより訳される。玄関前でそんな会話を交わしていれば、「そろそろ行くぞ」と車の中からセナくんが声を掛けるのだ。
 
 車で40分程度の場所にあるその国際空港に車は滑り込んでいく。この空港に来るのも2回目か、と何とも言えない気持ちに息苦しさを感じた。この場所に到着した時とは真逆の、私を待つ現実との対面を控えているせいだ。これから半日以上の空の旅を経て、私は日本に戻らなければいけない。それがどうしても嫌だといって、エルマーの申し出を受け入れる事はしたくはない。そうなればもう、私には帰るしか道は残されていないのだ。
「また、いつでもおいでな」
 荷物を預け終わった私にセナくんはそう言って笑う。そんな隣でヴィンが「今度はボクらがあそびに行くよ!」と笑みを深めて告げるのだ。
「メールするからちゃんと返してよね」
 そんな言葉を重ねるヴィンに「わかってるよ」と返せば、「よろしい」と宗教画の天使のようなうつくしい笑みを浮かべるのだ。
 
「あ、そろそろ行かないとマズいな」
 雨宮さんの声で、私たちは惜しんでいた最後の別れを済ませるのだ。男三人と次々にハグを交わし、彼らの視線を背中で受け止め、雨宮さんの隣を歩く。
 
 こうして私の長く短いモラトリアムは終わりを告げ、現実が待つ日本へと向かう飛行機に乗り込んだのだ。

 

 

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Let's look at the new world! はいったんこれにて完結。

やっと28歳笹野が日本に戻るのでこの後の出来事を書けますね。

 

本筋で書き逃してる小ネタは今後番外編で少しづつ。

 

| 22:52 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Let's look at the new world ! : 15

 旅が終わる時というのは、何故こうも感傷的になってしまうんだろう。どうにもセンチメンタルな気分が抜けないままに、私は星空を眺めていた。
「――よし、これであとはコイツに撮り続けてもらうだけ」
 
 首都から車で二時間もかからない場筈なのに、所にあるそこは、街を抜け、連邦道路と呼ばれる幹線道路を走り続けた所にある場所だった。夕飯を何にするかという話をしていたセナくんが唐突に「星を見に行く!」と宣言してからの行動が早かった。ソファに寝転がり何かの論文を読んでいたヴィンがその冊子を投げ出してソファから飛び起き、部屋へと走り出す。セナくんはセナくんで宣言した後にそのまま呆然とする私を残して部屋へと向かうのだ。
「ほら、リツも出掛ける準備して。ジャンバーはヴィンのでいいか」
 奥から声を掛けられた私はやっと、出掛ける準備をするべくその場を離れたのだ。そして、今に至る。
 
 自然公園の中にある、星空保護区と呼ばれているらしいその場所に着くやいなやセナくんは家から持ってきていた三脚とカメラをセッティングし、ヴィンはヴィンで手慣れた手つきでセナくんが運転してきたトゥアレグのバックドアを開けそのままトランクに腰かけてアウトドア用の簡易ガスコンロでポットに入れたミネラルウォーターを沸かす。ヴィンの隣でヴィンから借りたマウンテンジャケットを羽織り、トランクに腰かけていた私は、そんな二人を見ながら、きっとこの二人はこうやって星を見に行くことも多いのだろうとぼんやりと思う。結局は三人でいた所で二人と一人。私はあと数日もすればこの国を去るし、そうなればきっともうこの二人と逢う事もないのだろう、と。頭上に広がる満点の星空を見る事もせずに、そんな事を考えていれば視線を感じた。その視線の元は隣に座っていたヴィンで。
「つまんなかった?」
 首を傾げながらそんな事を私に問うヴィンに、「そんな事はない。ちょっとセンチメンタルになっただけでね」と笑って見せてトランクから腰を上げる。カメラの設定を追えたらしいセナくんは、減光モードにしたスマートフォンを星空に掲げ、現実の星空と画面の中の星空をリンクさせるように空を見つめている。
「星の写真って難しそうだなって思ってたけど、こんな感じなんだ」
 カシャンカシャンと自動的にシャッターを切り続けるカメラを見ながらセナくんに声を掛ければ、「撮るだけなら設定ちゃんとやれば撮れるよ。もうほとんどオートだからさ。あとは構図と、撮る星をどうするかが腕の見せ所ってな」と口端を上げて少年のような笑みを見せる。
「へぇ、私も今度やってみようかな」
「やってみなよ。よくある星が線状になってるのはこうやって何百枚も写真撮ったのを合成するんだ。比較明合成って言うんだけど」
 私の言葉にセナくんはそう言って笑みを深める。「ひかくめいごうせい?」と私が首を傾げれば、「そ、コンポジット撮影とも言うのかな。何枚も写真を撮って明るいのだけ合成してくヤツ。帰ったらこれも合成してみようか」と解説を入れてくれる。西北の方向に向けられたカメラは北斗七星と北極星が光り、左側には天野川が煌く。立っている国が変わっても、輝く星が描く物語は変わらない。デネブ、ベガ、アルタイルが結ぶ三角形位であれば今でも何も見ず、その星空に線を描くことが出来る。
「星図アプリ使うか? 車の中に早見盤もあるけど」
「んー、早見盤にしようかな。あのアナログなのが好き」
 私の答えを聞いたセナくんが「ヴィン! 早見盤もってこっち来いよ」と車に居るヴィンに声を掛ける。「お湯沸いたからコーヒー淹れたら行くよ! リツはコーヒーでいい? 紅茶もあるけど」そんなヴィンの返答に「紅茶でお願い!」と私は返す。
 
「お待たせ」
 ステンレス製のマグを三つと紙製の早見盤を持ったヴィンがセナくんを挟むようにして隣に立つ。「こっちがシュンメので、こっちがリツの」とそれぞれにマグを渡し、私には早見盤を寄越す。私は片手にマグ、もう片方の手に早見盤を持ち、片手でその円盤を回した。隣ではセナくんが赤いセロハンを貼って減光させているライトで私の手元を照らす。
「手つきが慣れてるよな」
 感心するような声色でセナくんはそんな事を呟く。「昔天文指導員のボランティアしてたから」と返せば「やっぱり好きなんだな、星」と笑い声が滲んだ声を投げられる。
「そりゃぁ好きだよ。数字さえ愛せたら私も理系に進んでたんだけどねぇ」
 そう言えば、「そうなってたら、もっと早く会ってたかもしれないな」とセナくんは笑い、「でも、今会えたんだからいいじゃん」とヴィンも笑う。
 
 私の旅も、もうすぐ終わる。そんな感傷を孕んだ笑みを見せる事しか、私に出来る事は無かった。

 

 

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星を見るセナヴィンと笹野が書きたかったのと星の写真を撮らせたかったのだ。

本日はセナさんの誕生日です記念。

 

 

| 20:52 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Let's look at the new world ! : 14

​「リツ、最近元気ないよね」
 ダイニングテーブルにノートパソコンを開き仕事を片付けていた俺に、テーブルの向かいに座り咥えタバコで紙に何やら数式を書き付けていたヴィンは唐突に口を開く。彼の言葉に言われてみれば、と頷く。リツと言うのはヴィンの同僚の姪で、数か月前に偶然出会った日本からの客人だ。
「パリから戻ってきてから……っていうか、その前にも泣いてたりしてたけど。シオンに連絡取ってもパリでは変わりなかったっていうし」
 パリに住む俺の息子の名前を出しながら、彼はどうしたんだろうなぁと眉を下げる。俺も彼女の不調の理由を考え、一つの結果に行き当たる。
「90日だ」
 俺の言葉にヴィンは一度首を傾げて、咥えていたタバコを口からポロリと落としかける。
「あっ、ああー!! そっか、それか!」
 ヴィンもやっと気付いたらしい。大声を上げて立ち上がったと思えば、落としかけたタバコを灰皿に押し付けてヘルメットとキーをその他身の回りのものが入ったボディバッグを引っ掴み、そのままバタバタと外へと駆けていく。そんなヴィンの後ろ姿を見つめ、俺はパソコンの隣に置いてあった赤と白の紙箱からタバコを一本取り出し咥えて火を付ける。そして、恐らく彼が向かった先に居る彼女がこの国用にと用意したプリペイドの携帯宛にメッセージを送る。日本語の入力は出来ないから、簡単な英語で。彼女は彼の目的地に居るのだろうか。ふらふらと旅行しては戻って来る生活をしている彼女の現在地を俺たちは知らない。俺は煙を吐き出して、今のうちに仕事を片付けてしまおうと再びパソコンへと向き直るのだ。
 
 
 叔父の家のリビングで、叔父であるサトシさんから使わないからあげると渡された携帯が小さな電子音を立てる。この国での連絡手段として使っているこの携帯には、この地で知り合った叔父の同僚やその知人達からの連絡が時折入るのだ。そんな携帯を手に取れば、表示されていたのはこの地で偶然にも知り合った一回り以上年上の友人から出された英語の短いメッセージであった。曰く「ヴィンがそっち行ったわ」
「えっ、ちょっ、何で」
 思わず口から出てしまった声は私以外誰も居ないリビングの中で響く。叔父は仕事に行っているし、私はそろそろ現実に戻るための荷造りをしている最中だった。ビザが無いままに過ごせる時間もリミットが迫っているのだ。そんな中で届いたセナくんからのメッセージに私が思わず突っ込んでしまったそのタイミングで、ドアチャイムが私を呼ぶ。「ホントに来た……?」ポロリと零れた言葉と共に私はそろりとドアを開ける。そこに立っていたのはヘルメットを被っていたからだろう。普段からふわりと癖の付いた金髪がいつもよりもクシャクシャになっているヴィンの姿だった。
「っていうか仕事は」
「慌てて駆け付けた相手に掛ける言葉がそれ?」
 挨拶もなくその疑問を呟いた私にヴィンは眉を下げながら呆れたようにそう返す。「ちょっとした長期休み中なの、ハイ、携帯とコレ持って。必要ならカメラも」コレ、と言って渡してくるのはヘルメットで。恐らくどこかへ連れ出されるのだろう。
 少しだけ外に出るだけだろう、と小さなカメラバッグにカメラと携帯、財布にタバコを突っ込めば、彼から渡されたヘルメットを被るように言われ、彼が運転してきたらしい有名メーカーのロゴが輝く単車の座席に座るよう促される。ヴィンの後ろにしがみつけば「それじゃ、出すよ!」という言葉と共に、二つの車輪は加速を始めるのだ。
 
「着いたよ」
 そんな言葉と共にバイクを停めた場所は、大きなドームを持つ建物だった。それは叔父や彼が勤める施設ではなく、市内にあるプラネタリウム施設である。プラネタリウムであれば、彼の勤務先にもあるだろうに、とその意図に首を傾げれば、「たまには良いでしょ」と笑ってそのままその施設の入口へと足を進める。施設の中に入れば、ヴィンは「いいから」と、私の分までチケット代を支払い、既に入場が始まっているらしいドームの中へと進んでいく。そんなヴィンの後ろをついて行けば、巨大なドームの中、連なった座席の一つにヴィンは座り、ヴィンに言われるままに指定された席へと私も座る事となるのだ。
「それにしても、唐突にどうしたの」
 ヴィンが家へ来てからずっと抱いていた疑問を彼に投げれば「思い出作り?」なんて笑うのだ。それより、始まるよ。と言われれば私は言葉を重ねることが出来ずに、黙って人工的な星空を眺める他無かった。
 上映が終わり、再びヴィンが運転するバイクの後ろに乗せられれば、次に着くのは喫茶店。路面に出ているテーブル席に座り、ヴィンはタバコの箱を取り出す。私もそれに倣いこの国で買ったタバコを取り出すの。
「で、なんだっていうの」
 再びヴィンへと疑問を投げれば「プラネタリウム好きでしょ?」と首を傾げられる。
「好きだけどね! この状況が私には理解できないので言語化してくれ、お願いだから」
 私の懇願にヴィンは少しだけ考えてから、「最初のキッカケはパリから帰ってきたあとのリツが元気無かったからなんだけどさ」と切り出す。そんなにわかりやすかったのだろうか、と眉を顰める。そんな私をよそに、彼は言葉を続けるのだ。
「で、よく考えたらそろそろリツ、帰国する時期だよね?」
 叱責するようにそう重ねられた言葉に、私は苦笑を浮かべるしかない。「何も言わずに帰るつもりだった?」とダメ押しされたその言葉に私は恐る恐る頷く。湿っぽい話になるのは嫌だったし、帰る事を告げれば、その事実が現実にさせられてしまう気がしたのだ。そんな私の反応に「やっぱり!」と少しだけ怒気を孕んだ口調で彼は少しだけ眉を上げる。
「で、いつの飛行機」
 淡々と事実だけを確認するヴィンに私も静かに「来週の日曜」と答えその日付を口にする。そんな私の回答に「じゃぁ、荷造りだけは時間あげるから、それまでの間はウチに泊まってよ」と、彼は携帯を操作しながら告げる。それは依頼の形だけは取っていたものの、その口ぶりは命令の語調だった。「シュンメとサトシにもメール送ったから」そこまで言われてしまった私は、渋々その依頼を了承するしか無かった。

「おかえり」
 あの後、喫茶店で各々が頼んだ飲み物を飲みきって、私はそのままヴィンの運転で彼とセナくんが生活する家へと連れてこられる。どうにでもなれ、とヴィンに付き従い玄関を通り、この数ヶ月何度も訪れたリビングに入ればセナくんがヴィンと私を迎え入れる。
「ただいま! リツも連れてきたよ!」

 ヴィンは無邪気さを感じさせる声色でそう告げて、私はそんな二人に「お世話になります?」と笑うしかなかった。

 

 

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笹野の帰国が近づいている。

 

| 21:27 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
Let's look at the new world ! : 13

僕らは朝早くに高速鉄道へと乗り込んで、途中で普通列車へと乗り換える。そうして国境を跨いで旧市街地が世界遺産となっているような街へと降り立った。
 
「一度来てみたかったんだよね、折角だからパリに行く前に寄りたいんだ」
交通手段を決める時に彼女がそう申し出たこの場所は国境近くの街である。
「色々な文化が流入して出来てる街って本当好きなんだよねぇ。あと普通にこのぬいぐるみが昔から欲しかったんです……」
そう言って彼女がしっかりと手に取っているのはこの地域のイメージキャラクターとされているコウノトリのぬいぐるみで。彼女曰く同じ名前を持つ輸送機の打ち上げ中継を見た時に管制室にこのぬいぐるみが置いてあったのだとか。この町のシンボルである大聖堂には目もくれず「セナくんにもお土産で持って行こうかな」なんて僕の父であり彼女の友人となったらしい駿馬の名前を挙げる。確かに、この口ぶりだと彼女と父は話が合いそうだ。結局小ぶりなマスコット数個と、ある程度大きなぬいぐるみを買って満足気な顔で戻ってくる。
 
「いやぁ、興奮してしまって申し訳ない。あ、コレ紫苑くんに。ヴィンとセナくんとお揃い。私も買っちゃったケド」
「いえいえ、面白いものが見れたし」
そう言って渡されたコウノトリのマスコットを受け取りながら、それにしても不思議な人だよな、と思う。列車の中で数時間過ごしていた時も思っていたが、人懐こく笑みを見せてたかと思えば、ふ、と遠い目をして窓の外を眺めている時もある。どこかへ消えてしまうのではないかと思ってしまう程に、どこか遠くを見つめている彼女は一体何を考えていたのだろうか。
そのどこか自暴自棄とも言えるような荒んだ瞳を思わず見てしまった僕には今こうやってはしゃいでいる彼女がどうしようもなく作り物のように見えるのだ。
「ノートルダム寺院には行かなくて良いんですか?」
「えっ、ちょっと待ってノートルダムって此処なの!?」
観光客丸出しできょろきょろと周辺を見回しその風景をカメラに収めていた彼女にそう声を掛ければ、素っ頓狂な声色が返される。
「え、知らなかったんです?」
「フランスとドイツの文化流入してる町って事とコウノトリしか知らなかったデス」
えーそうなんだーそうなのかー、なんて彼女は口にして。
「興味のある事しか頭に入ってない感じ、ヴィンに似てますよね」
「ヴィンとは頭の出来が違うけどね、ヴィンの頭があればもっと楽に生きれた……ってコトも無いか」
ヴィンはヴィンで大変そうだしねぇ。何てことも無く彼女は笑う。
「成程ね」
「なしたの」
「や、何でもないですよ」
きっと彼女のそういう所を、駿馬もヴィンも気に入っているんだろうと思ったのだ。他人を羨む事は簡単でも、その羨むような相手に対して羨む以外の感情を口に出せるのは実は難しい事で。それを彼女はいとも簡単にやってしまうのだろう。
「で、ノートルダム、行きます?」
「そりゃぁ行くに決まってるでしょう」
 
あと美味しいものも食べないとだからね、時間間に合うかな? なんて彼女は行き成り歩き出す。
「笹野さん笹野さん、そっちじゃない」
「やっぱり勘で歩くのは駄目か。紫苑クン、案内よろしく!」
「野生動物か何かですか。離れないでくださいよ」
 
こうして僕らは旅で友誼を深めていくのだ。

 

 

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紫苑くんと笹野の二人旅はパリまで続く。

 

 

| 20:29 | うちの子クロスオーバー | comments(0) | - | posted by 狭山 |
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